120回 冬が来る前に
「冬は冬で物入りだからね」
家に戻ったタカヒロは、ミオとも冬にむけての話をしていた。
「綿入りの服とかあるとありがたいね。
それと、町に行くのも難しくなるかもしれないから、保存食とかを今のうちに用意しないと」
「なるほど」
そう言うが、何がどれだけ大事なのかタカヒロはあまり理解はしていない。
生活面はミオに任せきりなので、事の重要性がよく分からないのだ。
なので、言われた事をそのまま鵜呑みにするしかない。
「おうちをもう少し頑丈にしたいとも思うけど」
「そっちの方はなあ。
あまり金が無いし」
「まあ、出来る範囲で頑張ろう」
貯金も大分回復してきたが、それでも充分とは言い難い。
冬を乗り越える事を考えると少し心もとない。
家の建築で他の者達から借りた金の事もある。
少しずつ返済してるので、それもまた蓄えの増加に影響を及ぼしている。
こうして考えると不利な条件ばかりが目についてしまう。
救いなのは、モンスターを倒して得られる収入が予想より多いこと。
これがタカヒロにとって希望であった。
「最悪、冬もがんばってモンスターを倒さないといけなくなるかな」
「無理はしちゃ駄目だよ」
「分かってる。
ほどほどに頑張るよ」
とはいえ、防寒対策のためには多少は頑張らねばならなくなるだろう。
何より、金はいくらあっても困らない。
ほどほどが一番というのは、金持ちの戯言か、貧乏人に僻みでしかない。
あれば必要な時に使えるのだから。
「何はなくとも、家の改修くらいはしておきたいな」
「そうだね。
さすがにこれだと寒そうだし」
薄板とまではいかないが、板一枚で外と仕切ってる家は大分寒くなりそうである。
もう少し補強をしておきたいところだった。
「職人さんを呼ぶ事は出来るの?」
「皆で金を出し合えばどうにかなるだろうけど。
今の状況だとちょっと難しいかも」
「そっか。
どうにかなるといいけど」
そうはいいつつも、さすがに無理だろうとはミオも思っていた。
無い袖は振れないのだから。
「消耗品を後回しにして、とりあえず家の方をどうにかするか」
「そうだね」
そこが今できる最善であった。
「来年は、もうちょっと快適にしていきたいな」
「そうだね。
がんばらないとね」
「家そのものもどうにかしたいし」
「まだまだ手を入れないといけないからね」
「本当に物入りだな」
「際限がないよね、こういうのって」
手を加えようと思ったらいくらでもそうするべき場所が出てくる。
その全てを一気にやる事は出来ない。
少しずつ確実にこなしていくしかない。
「まあ、これからだな」
たゆまぬ努力が必要であった。




