12回 周りにいる愉快な面々という事にしておこう 3
「とりあえず、今夜はここで寝る」
タカヒロとミオがやってきたのは、周旋屋でも数少ない個室である。
周旋屋に限らず、宿屋などは基本的に大きな部屋に皆一緒に寝泊まりする事になる。
さすがに男女で分かれはするが、部屋数に余裕がない場合はその仕切りすらも無くなる。
なので、少数の人数で泊まれる個室があるというのは珍しい。
それなりの規模の町の周旋屋や宿屋ならば用意してあるものだが、この町はそこまで大規模ではない。
とはいえ、個室と言っても豪華なものではない。
大きさでいえば畳4畳くらいであろうか。
本当に寝泊まりするだけの部屋というだけでしかない。
個人の空間を確保出来るという以外の利点などほとんどなかった。
それでも、自室というか他の誰もいない空間というのはそれなりの価値がある。
布団に荷物を入れる事が出来る箪笥。
それらが置いてあるだけの部屋は、周旋屋が提供する宿泊部屋の中で最も高価であった。
「ま、全部明日からだ。
仕事を見つけて、稼いで、それで生活費を少しは稼いでいけ」
「え、あ、あの」
「ああ、説明が全然足りないよな。
でもまあ、それは明日からにしよう。
もう外も暗いし」
この世界、日の出と共に起床して、日暮れと共に就寝が生活の基本である。
「さっさと寝るぞ。
明日から仕事とかここでの生活とか教えていくから」
「うん、分かったよ」
そう言ってミオは頷いていく。
が、どこか態度が硬いのにタカヒロは気づいた。
「……何かあるのか?
言いたい事があるなら言っていいぞ」
奴隷契約の事を思い出し、相手が正直に語るよう命じていく。
やりようによっては相手の秘密にしたい事も暴く事になるが、今は正直な気持ちを吐露させねばならない。
何かしら不都合があってからでは困る。
そう思って、あえて命令という形でミオに思う所を語らせたのだが。
「あの、このまま布団に入ってもいいのかなって思って。
汚しちゃうよ」
「ああ、そうだったな」
言われて気づいた。
土埃などをまだ洗い落としてなかった事を。
確かにこのまま寝るわけにはいかない。
うっかりしていた。
「それと……」
「まだあるのか」
「ええっとね……」
早速、外に出て水場につれていこうと思ったが、ミオがまだ何か言いたそうにしてるので続きを待つ。
「…………同じ部屋に泊まるのかなって思って」
そう言って俯いてくミオを見て、言わんとしてる事を理解した。
確かに男と女が同じ部屋というのは、色々と思うところがあるだろう。
これが親兄弟ならともかく、幼なじみとはいえ他人なのだから危惧するところも出て来るものだ。
しかも、今の関係は奴隷とその主。
命令次第でどうとでも出来るし、どうにでもされてしまうのだ。
多少なりとも危惧をするのは当然だろう。
だが、タカヒロにそのつもりはなかった。
「安心しろ」