115回 人手不足解消はどうするか
「だんだん、色々増えてきたのお」
トシノリがタカヒロ達が持ち帰った魔術機具を見てそう漏らす。
「少しずつだが、ここも住みやすくなってきた」
「まだまだ足りないものも多いけどな。
でも、ここに来た時よりは良いくらしが出来るようになってる」
フトシも含め、この場にいる者達は同じような感想を抱いていた。
何よりそれらが自分達の努力で積み上げたものだという事に大きな自負を抱いている。
居場所が無いから義勇兵になったような者達である。
感慨はひとしおだろう。
だが、解決出来る問題ばかりではない。
「あとは人手不足をどうするかだな」
「こればかりはなあ」
いまだ決着のついてないこの問題がどうしても口から出てくる。
「どうしたもんだか」
村を発展させるならば、人手はどうしても必要になる。
その人手をどうするかで誰もが悩んでいた。
労働力として一時的に来てもらうにしても、村の住人となってもらうにしても問題が発生する。
労働者としてならば雇う金が必要になる。
現時点でそこまでの余裕はない。
また、やってきた者達が居着く可能性もある。
この場合、新たな住人になってもらう場合と同じ問題が発生する。
住人となってもらう場合だが、これにおける問題は一つ。
人柄である。
長く一緒にやっていくのだ、人間性の善し悪しは大きな問題になる。
また、変に主導権を主張するような輩の場合、対処が面倒になる。
最悪の場合、村の中で処分しなくてはならなくなる。
警察のような治安機構も末端の村までやってくる事は無い。
そういった場所は実質的な自治地帯となっている。
法律なども整備されてるが、その手が届かない場所では、そこに住む住人達による自治が成り立っている。
この世界では珍しくもない事である。
そういったところでは、自分達の集団を守る為に様々な暗躍も起こりうる。
集団に危害を加える、負担になる者達の処分もその一つだ。
逮捕して役人に届けるなんて手間をかけるような者はいない。
現実を考えれば、捕まえる手間と、証拠を集める手間と、わざわざ護送する手間などをかける事になる。
更には、そうして突き出したとして有罪になるかどうかも分からない。
裁判結果にもよるが、無罪となる可能性も無くはないのだ。
有罪になっても軽い刑で終わる事もある。
この世界における人道的、あるいは宗教などによる倫理観からくる問題である。
現代日本などにおける人権に通じるものがある。
犯罪者とて人間なのだから、手心を加えようなどという考えがどこにある。
そうした法体系になってるから処分が軽くなる。
これはそういう体制なので仕方ないが、だからこそ多くの者達は法律をそれほど宛にはしてなかった。
そして、手間をかけるくらいならば自分達で処分したほうがマシだし楽という考えにもなる。
だが、こんな手間を一々かけてるほど暇な人間はいない。
だったら自分達でどうにかしようと思う者がほとんどである。
そして、だからこそ人手をつれてくる事には様々な懸念や躊躇いが生じていた。
やってきた者達がはたしてまっとうであるかどうか。
金の問題などを解決したとしても、これだけはどうしてもつきまとう問題だった。
「そこなんだよな」
これはタカヒロもどうするか悩んでる事ではあった。
人手は欲しい。
だが、もめ事まで導入したくはない。
そこをどうするかで悩んでいた。
「今すぐどうにかするなら人手は必要だけどな」
結局はそこに行き着く。
大がかりな作業をしていくなら、人数は絶対に必要になる。
技術や知識もそうだが、それらをもとにした物を形にしていくのに人手は必要になる。
だが、何も考えずに人を入れれば様々な問題を引き起こす。
「けどまあ、急がなければ話は別なんだけどな」
そう言ってタカヒロは、他の者達に考えを伝えていく。
「これから生まれてくる子供達に頑張ってもらうってのはどうだ?」