114回 この二人はこれが普通ということで 3
「たぶんだけど、嬢ちゃんもタカヒロと似たようなもんなんだろうよ。
仕事が好きっていうか。
仕事そのものは好きじゃないかもしれないけど、それにまつわる何かが好きなんだろ。
だから、仕事に関わるものが欲しいんじゃないのか?」
「味気ないわね」
「俺らからすればな。
でも、あいつらはそれを楽しんでるかもしれんぞ」
「そう?」
「たぶんな」
釈然としなかった。
しかし納得してしまうものもあった。
サキはカズマの言葉に、言われてみればと思い当たるものがあった。
仕事の事ばかり考えてるようなところはあった。
家庭環境からそうした事しか目が向かなくなってるとも思った。
だが、時間が経過してもそれらがおさまるような事もなかった。
それだけというわけではないが、好んで仕事を選ぶような気配はあった。
仕事中毒なのかと思いもしたので、出来るだけ遊ぶ時間とかも作らせるようにはしたのだが。
「そうじゃないってこと?」
「たぶんな。
あいつらにとって仕事って、嫌なものってわけじゃないんだろうな」
やらされれば嫌にもなるだろうが。
だが、無理なくやれる範囲での仕事ならば、おそらく楽しくやっていくのだろう。
タカヒロとミオはそういう部分が似通っていた。
「むしろ、変に仕事から引き離すほうが問題かもしれねえな。
楽しんでやってるのを辞めさせられるんだから」
「そっかなあ……」
「どうかは分からないけどな。
でもま、なんだ。
本人に確かめもしないであれこれ外野が手を出しても害にしかならねえよ」
納得がいかないでいるサキに、カズヤはそういって釘を刺していく。
「けどよ。
一番大事なところであいつらは上手くやってるように思えるぞ」
「何が?」
「なんだかんだ言って、あいつら一緒にいるのを楽しんでるだろ。
それならそれで良いんじゃないのか?」
「そりゃそうだろうけど」
「買ってくるのが仕事道具ってのは色気がないけどな。
でも、それも二人であれこれ言いながら楽しんで買ってきたなら、それでいいんじゃないのか」
話題や購入する物品の方向性が違うだけである。
最近流行の演劇(現代日本におけるドラマの最新話にあたる)などではなく、仕事について話す。
綺麗な装飾品ではなく、使いやすい道具について品評する。
地味で野暮ったいとすら思えるような内容であるが、それをしている当事者は楽しそうである。
「あれはあれで楽しんでるんだ。
それでいいんじゃねえのか?」
「そっかなあ」
サキは納得出来ないでいる。
本当にそれでいいのかと。
だが、それこそが余計なお世話である。
「大事なのは、あの二人にとって良いかどうかだろ。
お前の考えなんか、それこそどうでもいい。
むしろ邪魔でしかないさ」
はっきりとカズマは断定した。
「もう放っておけ。
どのみち二人とも出来てるんだし」
これが止めの一撃になったのか、サキは不承不承ながらも黙り込んだ。
そんな話があったことなど、当事者は知るよしもない。
同じ頃にタカヒロとミオは、村に戻る馬車の中。
そこで買い込んだ道具と、これからの事について話していた。
そんな彼等に、サキとカズマの会話など届くわけがない。
「当面はこれで大丈夫だろうけど。
使えばその分いたむからなあ」
「どうしてもこればかりはね。
でも、手荒れとかが無いから助かるんだよ」
「分かってるよ。
これも必要な出費だ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「なに、仕事を上手くやっていくなら構わないよ。
むしろ、これだけで良かったのか?
他にもあればいい物とかあったんじゃ」
「それはそうなんだけどね。
でも、湯沸かし器とか貯水槽とかはすぐには出来ないでしょ」
「そりゃまあそうだけど」
「それに、竈とか水場とかもまだだし。
そっちの方をどうにかしないと」
「それもそうだけどさ」
共同で使ってる竈や水場などはある。
だが、それだと使う順番などを決めねばならず、かなり不便だった。
出来ればそれぞれの家に設置できるようにしたい。
タカヒロもミオもそう考えていた。
そして、こんな話が二人の間でよく交わされる内容である。
なんとも実用的で色気も何もあったものではない。
だが、カズマが言うように二人はこんな話を楽しんではいた。
内容がどうあれ、共通した話題というのは楽しいものである。
また、二人にとってはそれ以上のものがある。
話し合ってるのは、この先についての事。
他の誰でもない自分達の話である。
だからこそより楽しく話し合う事が出来た。
明日の自分達の為に。




