113回 この二人はこれが普通ということで 2
「あの二人はさ、ああいうのが好きなんだろうよ」
「好き?」
「そ、遊んだりお洒落したりより、仕事をこなしていくのが」
「そんなもんかな」
「たぶんそうなんじゃないのか。
タカヒロはそういう奴なのは間違いないけど」
仕事で何度か一緒になった事があるので、カズマはそういうものだと思っていた。
「なんつーかさ。
仕事を上手くこなせるようにするのが好きみたいなんだよな。
失敗を減らして、倒せる数を無理なく上げられるようにするのが。
暇さえあれば、そのやり方を考えてたし」
「それって仕事のしすぎじゃないの?」
「もちろんそうだ。
でも、それが好きでやってるんだから、負担とかにはなってない」
かつてのタカヒロを思い出しながらカズマは語っていく。
「あいつは仕事を嫌々やってるんじゃない。
好きな事で仕事をしてる。
だから負担とかにはなってないんだと思う」
「そうなの?」
サキには理解しがたいものがあった。
もちろんタカヒロとて戦闘が好きなわけではない。
病的なまでに戦闘を忌避するわけではないが、なるべくなら危険な事はしたくないとは思ってる。
平和主義者だとか反戦主義者だとかではなく、生命の危機に関わるから避けたいというところである。
だが、他に仕事らしい仕事もなく、やるならこれしかないというにあたり、それに真っ向から取り組んでいた。
その為に危険を減らし、効率を上げる方法を考えていた。
ただ、それを仕方なくやってるというわけでもない。
持って生まれた気質なのだろう。
タカヒロは作業を効率化するのが好きだった。
上手く出来るからというわけではない。
前世において、無駄な作業を延々とやらされていた記憶がある。
それらが、効率の悪いやり方への嫌悪感となっている。
だからこそ、自分で好きに出来る今の状況において、出来る限りの効率化を図っていた。
出来る変更は可能な限り即座に取り入れる。
そのままで良い部分は出来るだけ残す。
そんな事を繰り返す事に使命感をもやしてもいた。
ただ、こういった過去の出来事が今に影響を与えてるだけではない。
そもそもとして、こうしたらいい、と考えるのは改善や改良などに興味があるからだ。
それをどうして持ってるのかと考えれば、もう持って生まれた気質としか言いようが無い。
そうするのが好き、というのは何かが理由でそうなってるわけではない。
原因を求めるならば、魂の段階でそういった何かが刻み込まれてるからとしか言えない。
好きでやってるというのはストレスになりにくい。
思うような結果に至らない時はともかく、作業自体が嫌になるという事は少ない。
タカヒロが仕事に打ち込むのはこういった性質を持って生まれてるからだ。
何かしら変えていきたい、それが悪いものならば────そういう思いを抱いている。
「だからなんだろうな、仕事とかに打ち込むのは。
俺らみたいに嫌々やってるってわけじゃない」
そこがタカヒロの違うところである。
「あいつはそれが好きでやってる。
だから苦痛だとは思ってないんだろ。
遊びにいく必要とかもない」
気晴らしが必要な程鬱屈してるわけではない。
そもそも、タカヒロが求めてるのは仕事を効率的にする事である。
遊びたいわけではない。
それよりも仕事に関わってる方がよっぽど楽しい。
なぜならば、仕事の中に楽しみがあるからだ。
モンスターと戦う事ではない。
それを効率良くこなすための工夫、それを考える事が出来る。
「あいつはそれが楽しいんだろう」
カズマはタカヒロをそう見ていた。
「そんで、嬢ちゃんも似たようなもんなんだろうな」
「は?」
ミオについての言葉に、サキは否定するような短い声をあげた。