112回 この二人はこれが普通ということで
「あんたねえ……」
何度もため息を交えて発言するサキは、心底呆れていた。
「二人で出ていって買ってきたのがそれって……」
「まあ、必要だからな」
「それは分かるけどさあ」
「でもサキさん。
これ、凄く便利なんですよ」
「ミオ、あんたもなの……」
サキは言うべき言葉をみつけられなくなっていった。
なんだかんだで良い仲になった二人である。
少しは色々楽しんでみればいいのに、とサキなどは思っていた。
余計なお節介なのは分かってるが、たまには息抜きくらいすればいいだろうにと考えてしまう。
(二人とも真面目だし)
放っておいたら延々と仕事に没頭してしまう。
多少なりともタカヒロとミオに接してきたサキは、二人の性格をそう見ていた。
強迫観念などによるものではない、ごく自然に仕事を片付けようとする。
そんな気性を二人にみてとっていた。
(働き者、っていうんだろうね)
仕事が楽しい、というのとはまた違うが、下手な手抜きは一切しない
やるべき事は出来るところまでやり遂げようとする。
そんな気質な二人だから、仕事に延々と没入しかねない。
それが苦にならない性質でもある。
どうしても日常生活が実用性一辺倒になっていく。
(それが悪いってわけじゃないけどさ)
善し悪しでいうならば、何も悪くはない。
やっておかねばならない事は最低限はやりとげようというのは美徳である。
だが、そればかりというのも味気ない。
もう少し気を抜いてもいいのに、と思ってしまう。
何よりタカヒロとミオの場合、ろくろく遊びにいかないのだ。
仕事の手抜きやサボりだったら問題だが、自分の時間すら仕事の延長にしてしまいがちである。
たまにはそういう事から離れれば良いのに、それが出来ないでいる。
いや、出来ないというのとも違う。
他の事をやるという発想がないのだ。
仕事中毒というのとも違う。
タカヒロとミオの場合、本質的なところで真面目なのだろう。
あるいは、こう言えるかもしれない。
仕事を完遂する事が楽しいと思える性質なのだと。
だからこそ仕事(に限ったことではないが)を丁寧に仕上げようとする。
形になってれば良い、というような事はせずに、出来るかぎり完成度を上げようとする。
それが今回にもあらわれてるように見えた。
「まさか仕事道具を買ってくるとは」
二人で一緒に出かけて買ってくるのがそれなのか、と思ってしまった。
サキにはどうしてそうなるのか不思議でしょうがない。
らしいと言えばらしいのだろうが。
「まあ、二人ともそれで納得してるみたいだけど」
だからこそ問題と言える。
ちょっとした小物ではなく、なんで仕事に関わるものを買ってくるのかと。
可愛い服や装飾品では駄目なのかと。
とことん問い詰めたくなってしまった。
もっとも、当事者がそれで満足してるのだから、文句をいう事は出来なかったが。
(でもまあ、あの二人はあれで楽しんでるみたいだし)
それだけが救いではあった。
ミオもやむなくそれらを買ったという雰囲気ではない。
これで仕事がはかどるとたいそう喜んでいた。
それはそれで大問題ではあるだろうが。
ただ、求めてる物が手に入ったのだから、それはそれで喜ばしい事ではある。
(でも、それでいいのか?)
付き合ってるもの同士でそれはさすがにないのでは、と思いはした。
どうにも恋人同士らしくは無いように思えてしまう。
(まあ、仕事と生活が最優先だし)
そのために必要なものを先にしなくてはならないのは分かる。
娯楽優先でいるよりは健全ではある。
余裕が出て来るまで、他の事に目が向かないのは良い事ではあるだろう。
生活を破綻させる事にはならないのだから。
(そこまで面倒を見ればいいけど)
そうなる前にミオを捨てたりしたらどうしてやろうかと考えながら、サキはため息を吐いていく。
「いや、そこまで考える必要ないんじゃねえの」
そう言ってサキを制していくのは、腐れ縁のカズマであった。
「あれはあれで上手くやってるだろ」
「そう?
だったらいいけど」
「いや、見てて思ったけど、あれは二人とも楽しんでるだろ」
あくまで見ててそう思えるというだけであるが、カズマはきっぱりと断言した。




