110回 こんな何気ない会話が普通に行われている 4
「とりあえずこれでいいのか?」
「うん。
毎日使うものだから」
魔術機具の購入でミオの意見を聞いていく。
ようやく金がまとまり、何かしら魔術機具の導入が可能となるにまで至った。
その最初の機具をいったい何にするかで少々紛糾もした。
しかし、最終的にはもっともよく使うであろうミオ達生活担当者の意見を聞くことで落ち着いた。
それを経て町にやってきての事である。
購入する魔術機具を既に決めていたミオに迷いは無い。
「じゃあ、これで」
結構な金額と引き替えに魔術機具を購入する。
手に入れたのは調理用発火装置。
平たく言えば、コンロである。
調理に限らず、この世界において火おこしは頻繁に行われる。
そして、着火方法は火打ち石などがほとんどである。
ライターのような便利な道具は存在しない。
例外は魔術機具であるが、これも携帯可能なほど小型化はされてない。
なので調理用の発火装置は非常に便利な火おこしの手段となる。
本来ならガスコンロのように火を連続して灯し続ける事が出来る。
それが調理用発火装置なのだが、そうした使い道は意外とされていない。
燃料としてモンスターの核を使わねばならず、これの消費がバカにならないからだ。
富裕層でもなければ調理の間中火を点け放しにする事は出来ない。
だが、スイッチ一つで着火させられるというのは大きな利点である。
これで火種に着火させ、それを薪などにくべていく事で火おこしの手間を軽減出来る。
また、灯りや暖房として竈や囲炉裏に火を点ける場合にも便利だ。
これ一つでかなり手間が省けるようになる。
「人も増えてきたし、こういうのが有ると便利だから」
「確かに増えたもんな」
この買い物に至るまでに、タカヒロの集団はかなりの変化を起こしていた。
仲間の大半が奴隷を購入した。
おかげで生活面での作業から解放される者が増え、モンスター退治などにより一層専念出来るようになっている。
当然の流れとして、ミオが手がける生活面での作業の人手も増えていた。
おかげで炊事・掃除・洗濯・裁縫などの作業はかなり効率的にこなせるようになっている。
そこに着火装置が加わる事で、更に効率は高まる事が期待されていた。
他にも、下っ端の連中も家(というか倉庫)を建築したりしていた。
共同で寝泊まりしていた小屋を使ってる者がどんどん減っている。
既に小屋を建てていた者達は、その内部を改築していっていた。
物置の延長でしかなかった家が、着実に住居としての機能を持つようになっていっている。
生活全般の質が着実に上がっていた。
「まだまだ足りないものだらけだけどな」
「そうだよね。
脱水機とかも欲しいし。
冷蔵庫もあると便利だし。
灯りなんかがあるととても助かるし」
「欲しいよな、それ全部」
これらを全て手に入れるとなると、何百万ではきかないほどの金が必要になる。
それでもどうにか調達したいと思えるほど便利な道具である。
「どうにかして揃えたいね」
「がんばって稼ぐよ」
「うん、任せた」
ミオは笑顔を見せる。
「でも、無茶は駄目だからね」
「はいはい」
いつもの言葉も出てきた。
これには苦笑するしかない。




