11回 周りにいる愉快な面々という事にしておこう 2
「真面目に頑張ってると思ってたけど。
まさかこんな事を考えてるとはねえ……」
驚いて呆れて嘆いて、しまいには失笑をして。
行き着いたのは軽蔑を超えた何かの境地。
そんな調子のサキは、腕を組んで仁王立ちになっていた。
「いや、そうじゃないんだが」
念のために説明をしようと口を開くが、
「黙れ」
一顧だにされない。
「屑の言う事なんざ、聞くとでも思ってるの?」
「だから、違うんだ」
違うと言いたいのだが、話が進まない。
相手が一方的に決めつけてるし話をきかない。
今に始まった事では無いが、どうにもならない。
というか、タカヒロを無視して話が進んでいく。
「いい、お嬢ちゃん。
この屑が何か酷い事をしてきたらあたしに言うんだよ。
しっかりと落とし前をつけるから」
ミオに向けてそう語りかけていく。
「奴隷で、契約で言いたい事も言えないだろうけど。
でもね、何かあったら遠慮無くあたしん所に来るんだよ。
あたしじゃなくても、他の奴でもいいから。
大丈夫、あたしが声をかけておくから」
「え、あの……」
一方的に進んでいく話に、ミオも困惑する。
そんなミオに、
「ミオ、正直に言ってくれ。
本当の事を」
と告げる。
直接言っても埒があかないと考えての事でもある。
タカヒロの言う事は聞かなくても、ミオの言う事なら聞くだろうと。
そのミオは、
「あの、タカヒロ兄ちゃんは私を助けてくれたんです」
と語り始める。
それを聞いたサキは、
「……あんた、この娘に言い訳させるなんて、良い度胸じゃない」
と更に誤解を深めていく。
「だから違うと言ってるだろ」
もうため息しか漏れなくなっていった。
「ごめん……」
この言葉が出てくるまで、更に時間がかかった。
まず、ミオに出した指示が『正直に答える事』だという事を理解させたこと。
その上でミオが語ってるのは、奴隷の契約として命令された事だという事。
命令されて事実や真相を語ってる、語る事を命令され強制されてる事を理解して納得させる事。
ここまでで無駄に時間がかかってしまった。
だが、奴隷契約の魔術がどういったものなのかは知られていたので、これらが分かると話は割と早かった。
それでも、「でも、だって」と引き下がらなかったが。
「ふざけんな」
タカヒロが怒気も露わにそうなじるのも無理はないだろう。
「とりあえずお前と一緒の仕事は、金輪際お断りだ」
話を聞かない、一方的に決めつけるような奴とは仕事は出来ない。
仕事どころか、日常的に一緒にやっていく事も難しい。
共同作業が不可能だからだ。
「じゃあ、俺はこれで」
そう言ってミオを連れて寝床に向かうタカヒロを、ばつの悪い顔でサキは見つめる。
その場に居たカズマが、「まあ、しょうがねえさ」と少しだけ励ます。
「そのうち、挽回する機会もあるって」
今はまだ無理だという事は確定である。
それでも、可能性だけはあるだろうと言っておく。
それで人間は割と前向きに生きていける事もある。
本当にそんな可能性があるのかどうかは別として。
ともあれ、ミオをつれたタカヒロの初日はこんな調子で終わろうとしていた。




