109回 こんな何気ない会話が普通に行われている 3
「それで、モンスター退治に?」
「ああ、金が欲しい」
はっきりと言うタカヒロに、他の者達は少しばかり渋面になる。
「それはまあ、当然だけど」
「あんまり無理しない方がいいんじゃねえのか?」
「もう一人ってわけじゃないっすから」
「そりゃそうだけどさ。
一人じゃないから稼がなくちゃならんのよ」
危険なのは分かっている。
それでも必要なのが生活費だ。
「義勇兵が怖がってちゃ話にならんし」
「それもそうだがのお」
トシノリが言いよどむ他の者達の代弁をするように声をあげる。
「しかし嬢ちゃんがいるんだ。
無理はしちゃいかん」
「分かってる。
出来る範囲でやってくさ」
「なら、まあ、仕方ないか」
それが分かってるなら文句はなかった。
トシノリも、他の者達も。
「まあ、嬢ちゃんを未亡人にしないよう頑張るんだぞ」
「それはオッチャンもだろ。
俺らはいいから、早く式を挙げろ」
「なに、まずは頭からでないと。
順番てのは、そういうもんだ」
さりげなくタカヒロを急かしてトシノリは話を終えた。
モンスター退治に復帰したタカヒロは、自分がいない間に行われていた作業の変化をおぼえていく。
適度なところにおびき寄せて倒すのは今まで通りだが、大小様々な違いが出てきていた。
起伏のある山地なだけに、それに応じた変化が発生していた。
それは手間を増やしもしたし、それ以上に効果的に使える場所も存在した。
窪地を利用して追い込み、おびき寄せる事で成果は増大している。
だが、手順を間違えれば逃げ場のない場所に追い込まれる可能性も出てくる。
気が抜けないのは今までと同じである。
だが、やり方が確立してきているので、おぼえればそれほど困難はない。
試行錯誤の上に出来上がった手順は、モンスター退治から離れていたタカヒロをしっかり現役として動かしていった。
「てなわけで、割と稼ぎは良かった」
家に戻ってきてミオにそう伝えていく。
「あぶないところもそんなになかったし、これならやってける」
「本当に?」
「もちろん。
嘘吐いてもしょうがないだろ」
「だったらいいけど。
兄ちゃん、変に頑張るところがあるから」
「いや、そんなに無茶はしないって」
「兄ちゃんの場合、それが信じられない。
無茶しないっていって無理するから」
「いや、まあ、それは」
「だいたい、無茶しないっていうならモンスターを倒しに行かないでよ」
「そんなご無体な……」
義勇兵としての仕事を否定するような事を言われてしまう。
「仕事が大切なのは分かるけど」
「だったら少しはおおめに見てくれ」
「おおめに見て大変な事になったらどうするの」
「…………」
何も言い返せなくなり、無言になる。
「とにかく危ない事は絶対に駄目だからね」
「はいはい」
適当な返事をするのが、唯一出来るささやかな反撃だった。
「でも、先の事を考えるとな。
どうしても金は稼がないと」
「それはそうだけど。
もうちょっとどうにかならないのかな」
「無理だな。
モンスター相手だからどうにもならん」
結局はここに行き着き、タカヒロとミオの話は平行線で終わってしまう。
それも仕方ないというのは二人とも分かってるが、分かっていてもどうにかならないかと思ってしまう。
「まあ、死なないように気をつけるよ」
「絶対だよ」
「当たり前だ。
お前を残して死ねるか」
「…………そういう事をどうして真顔で言うのかな?」
「何か問題か?」
「そういうわけじゃないけど」
多少顔を赤らめながら、ミオは呟くように反論した。




