107回 こんな何気ない会話が普通に行われている
とにもかくにも、タカヒロの日常は多少は変わっていった。
ミオと一緒なのは変わらないが、今までとは中身が違う。
妙に気遣う必要もなくなってきたので、気が楽になった。
やる事は特に変わってはいない。
今まで通りに生活をしている。
それでも何かしら違いはあった。
良い意味で変わっている。
それをタカヒロは楽しんでいた。
「それじゃ、行ってくる」
「うん、気をつけてね」
そんな何気ない言葉も、今までとは何かが違っていた。
表面的には特に変化のない、内面においては大きな違いのある生活になっている。
そんな中にあって、タカヒロはミオと今までより積極的にあれこれ話をするようになっていた。
お互い今まで必要のない遠慮を無意識にしていたが、それが無くなって言いたい事を今までよりは口にするようになってる。
ただ、話の内容は色気のあるものではない。
「さすがに竈とかは欲しいよ。
あと料理台も」
「水はくみ置きが出来るからいいけど、これももうちょっとどうにかしたいな」
「出来ればお湯が出るようにしてくれれば嬉しいけど、無理かな」
「今の状況じゃなあ……。
魔術機具だから高くなるんだよな」
「でも、あると凄く便利だから」
「分かってる。
いずれは購入する事にするよ。
全員の共有って事になるだろうけど」
おおむねこんな調子の、生活に必要な物について語る事がほとんどだった。
だが、今まではそれでも遠慮はどこかにあった。
それが無くなり、思った事を口にするようになっている。
気をつけてるのは、不快な物言いにならないようにすること。
普通に生きていれば当然の気遣いである。
それを踏まえて、二人は気兼ねなくあれこれと言うようになっていた。
「先の事になるけどな」
話の締めくくりにタカヒロはそんな事を漏らしもする。
欲しい物などが出尽くしたあとの決まり文句になりつつある。
「稼がないと」
先立つものがないとどうしようもない。
幸い、稼ぎは割と順調ではある。
だが、必要なものを揃えるとなると、それでも足りない。
高価な魔術機具を導入するだけに、簡単にはいかない。
皆で出し合えばどうにかなるのは分かってるが。
「皆も自分の事で手がいっぱいだし」
家の改修もあるし、奴隷の購入も考えてる。
誰だって金が必要なのは変わらない。
「今年中に一つでも何かを手に入れられればいいけど」
「とりあえず温水器は欲しいね。
それか着火機」
色気も何も無い、世知辛さしか滲み出ない事を言いながら、二人は先々について話をしていく。
不思議なもので、それはそれで楽しいと思ってはいた。
二人のこの先について語ってるからかもしれない。