104回 愛だの恋だのより現実がある
「だが、それなら一緒になっても問題はないんだな」
嫉妬と羨望による嘆きの声が周りから消える頃合いを見計らってトシノリが尋ねる。
「結局そこかよ」
「当たり前だ。
これが面白いんだから」
「そんな事言うなら、まずオッチャンから片付けてくれよ」
とタカヒロは無理矢理矛先をそらそうとした。
「そっちはそのつもりで奴隷を買ってきたんだろ」
「まあな」
さすがにトシノリは動揺しない。
「そのうち一緒になるつもりだ」
「そのうちじゃなくて、今すぐでいいだろ」
「まあな。
出来ればそうしたいんだが。
やっぱり準備だとか色々あるしのお」
「それを言ったら俺だって同じだ」
「ということは、準備してでもやる気はあるって事だな」
「…………」
トシノリが上手なのか、タカヒロが下手なのか。
それは分からないが、矛先はついぞぶれる事無くタカヒロに向けられている。
「まあ、頭もしっかりと手を出したんだし。
ここは最後まで面倒をみるしかないのお」
「だから、何で分かった」
「いや、分からんかったぞ。
ただ、そうなんだろうなあとは思っていたが。
今、しっかりと白状してくれてようやく確信がもてた」
「…………なんてこった」
「まあ、いいじゃないか。
どうせいずれそうなるんだし」
「なんだそれは。
確定事項なのか?!」
「そりゃそうだろ。
あんな可愛い娘と一緒なんだ。
何もしない方がおかしい」
「全くだ」
他の者達もトシノリの追従する。
「むしろ、今まで何もなかったのが不思議だ。
てっきり色々と何かしてると思ったが」
「何が嫌だったんすかね?」
「そこが分からねえよな。
俺だったらとっくにヤリまくってるけど」
「お前はもう少し落ち着く事をおぼえるっす」
マサルにコウゾウがどうしようもない事をほざいている。
同じようなやりとりはそこかしこで起こっていた。
「まあ、大将がそう簡単に女に手を出さない根性なしなのは横においておこう」
フトシが余計な事を付け加えた窘めの言葉で周囲を制す。
「大将がようやく女に興味を示したんだ。
俺達はそれを盛大に祝ってやろう。
ついでに挙式までしっかり担ぎ上げていこう」
決して外に逃げ出さないようにがんじがらめにして。
「出来れば、このまま子供でも出来れば確実なんだが」
「お前はそれで何をするつもりだ!」
「もちろん、既成事実を作り上げて逃げ出せないようにするためですよ。
大将にはこれからも俺達の大将として頑張ってもらわねばならないですし」
「それと子供がどう結びつくんだ!」
「子供が出来れば仕事から逃げる事は無理です。
今更ただの義勇兵に戻るのも無理があるでしょう。
大将はここで俺達の大将を続けた方が無難になります。
だから、がんばって嬢ちゃんを手籠めにしてくれ」
理由としては最低最悪であろう。
だが、言ってる事はそれなりにもっともである。
タカヒロ一人なら食ってくだけならどうとでもなる。
だが、ミオを抱えていくとなるとそうもいかない。
出来るだけ多くの稼ぎが必要になるし、それを個人でどうにかするのは難しい。
集団でやっていく方が効率的だ。
そうなると、ここから逃げるというわけにはいかなくなる。
どのみちミオを放り出していくわけにはいかないので、タカヒロの選べる道はほとんどない。
観念するまでもなく、ここに残ってここにいる連中とやっていくのが一番楽な道だった。
「それじゃあ、あとは嬢ちゃんをちゃんと嫁にするんだぞ」
「ついに姐さんの誕生か」
「ついでに跡継ぎもな」
「挙式と子供、どっちが先っすかね」
「まあ、動き出したら一直線の大将だ。
どうせすぐにガキが出来たって言うだろうよ」
「おまえら……」
思った事を正直に口にする仲間達。
それを見てタカヒロは、こいつらと一緒で本当にいいのだろうかと思った。




