10回 周りにいる愉快な面々という事にしておこう
「おいおい、どうしたんだよその娘」
そう良いながら寄ってきたのはタカヒロの顔見知りだった。
「なんでもねえよ、カズマ」
「何でもねえって事はねえだろ」
カズマと呼ばれた男はしつこく食い下がる。
「なに、ついに女に手を出したか?」
「違う、なんでそうなる」
「だってなあ────」
良いながら不躾な目をミオに向ける。
見つめられてミオはタカヒロの背後に回った。
その仕草が更に下卑た想像力をかきたてたようだ。
「────こんな娘をつれてきてるわけだし」
「馬鹿な事言うな」
拳骨を掲げて殴るふりをする。
カズマは「おっと!」と言って避けるふりをする。
いつもやってるじゃれあいだ。
とはいえ、そのやりとりを見ていた周りの連中も、面白そうに見つめはじめていった。
「こいつは同じ村のもんで、今日から同業者だ」
そう言ってタカヒロは周りの連中に聞こえるように声を張る。
ここでしっかり言っておかないと、今後に響く可能性があった。
何せ娯楽の少ない時代、面白そうなネタは延々と語られていく。
今まで女っ気がなかったタカヒロのこと、女をつれてきたというのはそれだけで話題にはなる。
ネタとしては弱いし小さいのだが、当面のつまみにはなる。
それが分かってるから最初の段階で水をぶっかけておく必要があった。
(勝手な妄想のネタにされてたまるか)
親切で助けてネタにされるなんて、冗談でも認めたくはなかった。
なのだが、そこに乱入者がやってくる。
「あんた、とうとうやったんだ」
威圧的で高圧的な雰囲気の女の声が近づいて来る。
基本的にむさくるしい男所帯では珍しい。
それを聞いてタカヒロは、血の気が引いていくのを感じた。
「ええとな、何か誤解があるようだが……」
「黙れ」
有無を言わさない一言が、そこからのタカヒロの言葉を遮る。
そして、タカヒロの後ろに隠れていたミオを見る。
見られたミオは、その視線の強さと鋭さに身をすくめる。
が、そんな事を気にもせず、女はミオの左手を掴んで持ち上げた。
「…………へえ」
「なんだ?」
今までよりも更に寒々しい声に、タカヒロは嫌な予感を増大させていく。
その予感に違わず、女はタカヒロを睨みつける。
「あんた、よりにもよって…………奴隷なんかを買ってくるなんてね」
周囲の喧噪が消え去り、静寂が生まれる。
「大きなものを買うとか言ってたけど、それがこれってわけ?」
「いや、あのな、サキ」
女────サキと呼ばれた者は、自分への呼びかけに軽蔑と侮蔑と見下げ果てた何かを込めて睨み返す。
「寄るな、汚らわしい。
女欲しさに奴隷を買ってくるような屑だったなんて思わなかったよ」
「いや、そうじゃない……」
あらぬ誤解が発生してるので、それを解消しようと声をあげようとした。
しかし、それは周囲の、
「なにいいいいいいいいいいいいいい!」
という絶叫の大合唱で打ち消された。