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白衣  作者: 櫻又維笑
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入院履歴

 入院初日、午前9時50分に一階の入退院センターに行き入院手続きを済ませ、五階の婦人科病棟へ向かった。この病院に入院するのは三度目で毎回一人で来ている。都内に馴染みのない両親に来てもらったところで、病院まで毎日無事に辿り着けるのか不安要素しかなく、余計なことを考えたくないので来なくていいと毎回言っている。気軽に考えているわけではない。命に関わる手術ではなくとも、万が一を考えたりはするもので、でも、万が一その場合でも私は一人の方が良いのではないかと思っている。


 一度目の入院は巨大化した子宮筋腫の摘出手術で開腹したため、私の下腹にはピンク色のミミズのような傷跡がある。術後目が覚めた時、朦朧としながらも尋常じゃない寒さに震えたことを覚えている。麻酔が切れる頃、体が温度調節をできなくなりこのようになることがあるのだと、当時付き合っていた人に看護師さんが説明していた。その人はすぐに売店でカイロと軍手のような手袋を買って来てくれたが、私は死にかけのようなこの姿に軍手は嫌だとはっきり思い、カイロだけ手足に挟んでもらいまた意識がなくなった。次に目が覚めた時、自分の両腕と下半身に計四本の管が繋がっていること、首から下を1ミリでも動かそうとすると激痛に襲われること、ベットの横にその人が座っていることを同時に知った。管の一つに血液パックがあったので血液パックに書いてある名前を知りたくてその人に「名前何て書いてある?」そう聞こうとして、開腹後の腹筋には力が入らないこと、腹筋に力がないと声を出すのも一苦労だということに気付いた。でもどうしてもすぐに確認したくて、意地で聞いた。手術前に自己血採血をして聞いていたのだ。恐らく輸血の必要はないと思うが、出血が多かった時に自己血輸血をできるように念のための採血だと。さらに自己血輸血も足りなかった時には、同種血輸血(他人の血液の輸血)になると。要するに術後輸血されている私は、出血量が多かったということ。他人の血液をいただくのは嫌だった。だから聞いた。その人は今にも死にそうな弱りきった私の一声がそれだったので驚いていたが、すぐに私の名前だと教えてくれた。ほっとして私はまた眠った。

完全に意識が戻った時、今まであった筋腫がなくなったからかぽっかりとお腹に空洞ができているように感じた。空洞に半分水が溜まっていて、そこに必要な臓器が浮かんでいて、まだ新しい定位置に定着できていない様子で、体を少しでも揺らすと空洞の水が波打つのがわかる。痛みをこらえて寝返りを打つと、空洞の中に浮かんだ臓器が水に流されるように大移動する感覚がした。そんなこんなで他にも体にまつわる奇異な体験や困難はあったが、手術自体が大成功。入院した八日間食べれない日もあったが、栄養バランスの良い美味しい食事が毎食配膳され、クリーニングされた寝巻きとタオルが毎朝届けられ、掃除、ベットメイキング付き、昼寝し放題。ぐうたらしていても皆が優しくお世話してくれる。当時付き合っていた人も毎日お見舞いに来てくれた。全ては周囲の配慮のおかげであり、無事退院できたから言える一言だが、あの入院生活はパラダイスだった。痛みのない今、余計にそう思う。




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