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番外編 妻は魔窟に微睡む 1

何となく思いついてしまったので書きました。

楽しんでいただければ幸いです。

 妻のアリシアと俺が住み、そしてハーフエルフたちの隠れ里がある森は、国の中でもかなり辺境に位置している。

 辺境。つまり未だ人の手が及んでいない手つかずの自然がすぐ近くにまで迫っているという事だ。

 小難しげに言ったが、歯に衣を着せずにぶっちゃけてしまうと、ド田舎の頭上をはるかにを通り越した未開の地一歩手前という事である。


 当然現代社会にあった文明の利器などというものはほとんどなく、夏暑くて冬寒いという自然の摂理そのままの世界なのだった。

 そして今は冬。

 内陸部の平野故か、雪自体は降る量が少ないものの、凍てつくような寒さに晒されていたのだった。


 魔法なんていう摩訶不思議パワーに満ち溢れているのだから、もっと便利になっていても良さそうなものだが、魔物という身近な脅威が存在するためなのか、どうにも魔法イコール戦うための力という固定観念が根付いてしまっているらしい。

 まあ、日々生きていくことに汲々としていては、便利で豊かになんて考える暇もないという事なのだろう。


 だが反対に考えるならば、今日は大いなる変革を行える時期であるとも言えた。なぜなら数年前、魔王や魔族を名乗る侵略者を退けた際に多くの魔物も駆逐されていたからである。

 生と隣り合わせのように存在してきた魔物化の危険が少なくなった今、豊かで便利な社会の形成に向けて様々な技術が生まれ、進歩していったのである。


「……つまりヒュートがまたおかしなものを作った、と?」


 力説していた俺の言葉を遮って、妻は淡々とそう言った。

 その口調に最も多く含まれていた成分を一つ上げるとするならば間違いなく「呆れ」となるだろう。

 その率おおよそ九十パーセント。半分が優しさでできているという謳い文句の某頭痛薬もびっくりな含有率である。


 だが、今日の俺は一味も二味も違う。

 故郷である異世界の現代社会にあった数々の文明の利器を思い浮かべては再現できるものはないかと日々頭を悩ましていたのだが、先日、ようやっと納得のいくものを作り出すことができたのだから!


「くっくっく。その言葉は実際に体感してから言ってもらおうか!」

「……それ、こないだのパンを焼く機械の時にも言っていたわよ?」

「あれだって上手くいったじゃないか!」


 パンダの柄は妻にも村の子どもたちにも、そしてなんとピッピヨたちにまで好評だったのだ。


「そうね。焼けたパンが飛び出して天井に張り付きさえしなければね」


 ちょっと焼いた後の射出能力を強くし過ぎてしまったのは失敗だったかもしれない。

 ちなみに今は村に貸し出されており、新しい特産品に利用できないか検討中である。


「それで、今度は何を作ったの?私としては役に立つのかよく分からない物を作るよりも、新しい盤上遊戯を考案してくれる方が嬉しいのだけれどね」


 盤上遊戯の方はちょっと熱中の度合いが尋常ではない人たちがいたので、もうしばらくお預けとしておきたいところではある。

 まあ、一応案としては、前回戦略性の高い『戦盤』だったので、今度は子どもでも簡単に参加できる双六辺りにしてみるつもりだ。


 幸い既にサイコロは出回っているのですぐに慣れることができるはずだ。アレンジも簡単だし、やり方次第では子どもたちの算数等の勉強にも使えるだろう。

 だが、それもこれも『戦盤』熱がもう少し落ち着いてからの話だ。

 それよりも今は新しく作った例の物のお披露目の方が大切だ。


「実は少し大きくてな。運んでくるよりも見に来てもらった方が早い」


 結婚以前の居候だった頃の俺が使用していた部屋は、元々は二階にある客間の一つだ。

 一時、コケコとピッピヨに貸し出されていたのだが、庭に彼女たち用の小屋が完成したことによって再び空き部屋となっていた。


 せっかく掃除や片付けを行ったのに、また物置代わりに使用するのは忍びない、ということからなんとなく俺の勉強部屋兼研究室のような状態になってしまっていたのだった。

 例の物はこの部屋に置かれたままになっていたのである。


「さあ、驚く準備はできたかな?」

「……ヒュート、自信があるのは結構だけれど、余りしつこくやられると疲れてしまうわ」


 う……。

 自信作の完成にちょっとばかりテンションがおかしな状態になっていたのは否定できない。

 妻との温度差に少しばかり寂しい気分になりながら、俺は研究室の扉を開けたのだった。


「……うわあ!」


 と、さっきまでの疲労感満載の声とは打って変わって、夢見る少女が発するような生気に満ち溢れた声が妻の口から漏れ出してくる。


「え?いや確かに素晴らしいものだとは思うが、見ただけでは分からないだろう?」


 どちらかと言えば使用してみて初めてその良さが分かるような代物なのだ。

 困惑しながら妻に続いて部屋の中を覗き込んでみると……。


「こけ?」

「ぴよー?」


 庭の小屋にいるはずのコケコとピッピヨたちが、揃って炬燵(こたつ)へと入り込んでいたのだった。


「きゃー!コケコちゃん!ピッピヨちゃん!」


 こうして、俺の力作である炬燵のお披露目はピッピヨたちにおいしいところをかっさらわれる形で幕を下ろしたのだった。


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