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そして翌日

 バリントスとレトラ氏の歓迎会も終わり、家に帰って翌日、ようやく落ち着けるようになったかと言えば、そんなことはなかった。

 今でこそレトラ氏は人の姿を取っているが、村へとやって来た時には竜の姿のままだった。

 つまりとてもでかい。そしてでかいということは目立つということである。


 俺たちが世話になっているハーフエルフの村がある森は、人族が中心となって興した国の地方領の中にある。

 楽観的に考えてもこの領内の人間には見られているだろうし、最悪、領外や国外の連中にも目撃されているかもしれない。


 言うまでもなく竜は強い。最近では魔族というこの世界に住む者にとって共通の敵が存在したため発生していないが、それ以前は度々、竜が飛来しては村の人々や家畜が襲われるということが起きていた場所もあるらしい。


「群れから逸れた者による仕業のものもいくつかあるのでしょうが、大半は下級種の繁殖地の近くにまで人間たちの側が進出してきたためでしょう」


 レトラ氏の話によると、開拓に邁進する人間の側が距離を測り間違えて、竜の警戒範囲にまで入り込んでしまったのが原因だろうということだった。

 しかし、現状において残念ながらそうした事実は役に立たない。なぜなら「時に竜は人を襲うことがある」という認識が人間社会に蔓延してしまっており、竜は基本的には危険な存在であると信じられてしまっているからだ。


 レトラ氏のように人の姿に変化することができる者や、人と意思の疎通が図れる者は半ば伝説上の存在として扱われているのではないだろうか。

 そんな竜がいきなり領内にある森に飛び込んで来たとしたら?

 目撃された数にもよるが、間違いなくパニックを引き起こしているはずだ。

 しかもこのハーフエルフの村の存在は一般には隠されている。事情を知らない者たちが大挙してドラゴン討伐に訪れないとは限らないのだ。


「その前にこの村のことを知っている領主様の部下の誰かが派遣されてくるとは思うわ」


 幸いなことにこの地を治めている領主はできた人であるだけでなく、頭も切れる。あの人の裁量でどうこうできる枠内であれば心配することはないと思う。

 問題となるのは先ほどのような事情を知らない者、例えば冒険者などが集団でやってきた場合や、領主よりもさらに上、国が出しゃばってきてしまった場合だろうか。


「対策は練っておくべきでしょうけれど、細かなところは領主様側の人を交えて詰めていくべきだと思うわ」


 今の俺たちには森の外側の情報が一切ない。妻の言う通り、ある程度の方向性を決める程度に留めておくのが賢明な気がする。


 そんな訳でこの件は一旦保留にし、いつも通りの生活へ、は戻れなかった。

 バリントスに引き続き、なんとレトラ氏まで朝食に出したマヨネーズに嵌ってしまったからである。


「あ、アリシア様にヒュートさん!この食べ物は一体何なのですか!?こんな美味しいものは食べたことがありませんよ!?」


 いまさらという気がしないでもなかったが、歓迎会の時には村長たちと話し込んでいてほとんどの料理を口にしていなかったそうだ。

 そうこうしている間に俺がバリントスを連れ帰って来てしまい、子どもたちと一緒に食べ尽くしてしまっていたのだとか。


「これほどの美味、恐らくは食べ歩きをしている同胞でも食したことがないでしょう」


 食べ歩きとか何をやっているんだドラゴン種族!?

 というか歩くのか!?翼があるから飛んで行けばいいんじゃないのか?

 ああ、ダメだ。いきなり突っ込み所満載の台詞を聞かされて混乱気味になっている。


「ドラゴンは長命だからな。しかも力が強いから一定の年齢になると里にいるのに飽きちまうんだよ。だからレトラのように人化が使えるやつは変身して世界中を巡っているそうだ。その時に人間の技術や娯楽にのめり込んでしまうやつも多いらしい」


 とバリントスが補足してくれる。さすがは数年間『竜の里』にいただけあって詳しいな。竜の生態研究とかをさせたら第一人者になれるんじゃないだろうか。いや、バカではないのだが脳筋だから無理か。


「その通りです。先程の食べ歩きをしている同胞ですが、食べること自体を目的にしている者と、各地の珍しい料理を再現することに心血を注いでいる者がいますね」


 建築や細工、鍛冶といった成果の形が残る分野で作者不明とされるいくつかの有名な代物は、実はそうした者たちが作り出したものなのだとか。


「同じ長命でもエルフと違ってこいつらは名前を残そうとしている訳でもないからな。どちらかというと本人たちはひたすら趣味に没頭しているという感じだ」


 バリントスの口からエルフという単語が吐き捨てるようにして飛び出てきた瞬間、妻だけでなくレトラ氏も顔を歪めていた。

 おいおい……、ハーフエルフである妻や彼女の仲間として旅をしていたバリントスだけでなく、竜のレトラ氏にまでそんな反応をさせるとは一体何をやらかしたんだエルフ!?


 元の世界でも排他的だったり、反りが合わないのかドワーフとは仲が悪かったりするという設定の話は聞いたことがあるが、基本的に思慮深いことが多く、ここまで嫌われているものはなかった気がする。

 何があったのか知りたい衝動に駆られるが、触らぬ神に祟りなし――こちらの世界のあのお方も怒らせるとおっかないようであったし……――とも言うし、好奇心は猫を殺してしまうものだ。

 本題からも外れることだし今は忘れることにするべきだろう。

 それに知っておく必要があることならば、そのうち妻が教えてくれるだろうからな。


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