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対『戦匠』戦作戦会議

本日三話目。


「本っ当にゴメン!」


 バリントスと戦うことが決まってから少し後、村長の家の裏手で俺は妻に向かって何度も頭を下げていた。

 なんでも、ああやって戦いをしかけては、勝って自分たちの言い分を通すというのが彼のいつもの手なのだそうだ。

 そして見事にその手に嵌ってしまった俺は、こうして妻からお説教を受けていたという訳である。


 それにしてもこうやって怒っていても妻の美しさはほんの少しも陰りはしないな。

 おっと、そんなことを考えている場合ではない、いやいや、彼女が美しくて可愛らしいのは本当のことであって、それを誤魔化すようなことはしたくはない。

 ……一体俺は何を考えているのだ?いきなりの展開に自分で思っている以上に緊張して混乱しているらしい。


「全くもう……。あれでもバリントスは『戦匠』の名に恥じないだけの腕の持ち主なの。私だって魔法なしの接近戦オンリーなら勝てるかどうかは分からないくらいよ」


 そんな俺の様子を見て妻は大きくため息を吐くと、嬉しくない情報を開示してくれた。

 ……勇者の仲間ということで相当強いだろうと覚悟はしていたが、妻が「勝てないかもしれない」と口にする程のレベルだったとは。


「どうするの?何か勝つための策があったりするのかしら?」


 そんなものがあるはずもない。精々が勝てるかもしれない案が一つあるだけだ。

 これまでにも妻には俺の弱い部分や情けない部分を散々見せてきたので、今更強がっても仕方がない。無駄な抵抗はせずに、正直にそのことを告げた。


「勝てるかもしれないと言えるだけでも凄いことよ。てっきり勢い任せで受けたのはいいけれど、何の手立てもないものだとばかりに思っていたわ」


 実際のところは彼女が言う通りだったのだが、せっかく見直してくれたところでわざわざ呆れさせる必要はないだろう。

 という訳なのでこちらの方は黙っておくことにする。


「それで、どういう作戦なの?」

「ああ。それなんだが――」


 思い付いた考えを話していくと、妻は最初こそ目を見開いて驚いていたのだが、徐々に悪戯っぽい笑顔へと変わっていった。


「良いわね、凄くいい!これなら十分に勝の目がありそうよ!」

「そう言ってもらえると一安心だな。だけど、今回は絶対に負ける訳にはいかないから、保険をかけておこうと思う」


 と、更に説明を加える。


「……確かに、バリントスを相手にするならそのくらいの備えは必要ね。だけど、その分これが失敗したら後がきつくなるわよ?」

「あまり考えたくはないが、その時はもう死に物狂いでやるしかないな……」


 さすがは『戦匠』だと褒め称えるべきだろう。願わくばその強さが俺の想像の枠内に収まっていて欲しいところではある、がな。




 妻との作戦会議を終えて村の中央の広場へと進むと、時間を持て余したのか子ども剣術教室が開催されていた。

 講師はもちろんバリントス、だけかと思いきやレトラ氏も指導に回っていた。


「だからな、敵がこうガッときたらグッと返すんだよ。そうやってがら空きになったところにズバッて切り付けてやればこっちの勝ちって訳だ」

「攻撃をされても焦らずに相手の体勢を崩してやれば、大きな隙を作りだすことができるのですよ」


 感覚頼みのバリントスの言葉を分かり易く説明しているようだ。


「よくあの擬音語満載の台詞を理解できるな……」

「レトラさんはドラゴンの中でも上位(ハイクラス)の古代竜種に当たるのだと思うわ。言葉だけじゃなくて、バリントスが発している思念を合わせることで正確な内容を知ることができるのよ」


 人型になれることといい、どうやら彼はただの足代わりではなく、お目付け役に近い立場なのかもしれない。

 その割に目立つ竜の姿のまま村に直接飛来してきたのだが、それはこちらの常識に疎かったからだろう。

 俺たちの気配に気が付いたのだろう、バリントスがこちらを向く。その顔には村長の家で見せたあの獰猛な笑みが張り付いていた。


「なあ、あの顔って反則じゃないか?めちゃくちゃ怖いんだが……」

「完全にやる気ね。内面の凶暴さを抑えきれていないわ」


 子どもが泣き出すどころか、大人でも夜中にいきなり遭遇したら悲鳴を上げてしまいそうだ。……まあ、そんなことを全く気にせずに喜々として剣術を教わっている子どもたちがすぐそこにいる訳だが。

 あれは単に妻というハイレベルな存在の動きを常日頃から目にしているからだ、と思いたい。


「さて、それじゃあさっそく始めるか!」


 心の底から楽しそうに、バリントスはそう告げたのだった。


 うん?俺を試すとかいう流れはどこに行った?


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