Episode02:迷い子よ、私の声が聴こえるか
神隠し。
近年になって世界各国で稀に発生し始めたという行方不明事件の俗称。
何者かがインターネット上で神隠しという概念を広め、それが事件の内容と類似しているとして定着したスラングである。
神隠し事件の主な被害者は、10代後半から30代前半までの若い男女。
彼らはある日忽然と姿を消し、向こう3日間は完全に消息不明の状態が続くという。
そして4日目以降を迎えて突然、見るも無残な遺体となって発見されたと世間に報じられるのだ。
身内の訃報を知らされ、悲しみに暮れる遺族。
しかし、被害者の遺体が遺族の前に出ることは絶対にない。
損傷が激しいから等の理由により、面会は不可。
発見された遺体が本当に探していた当人であるのか、一目見て確認することも許されないのだ。
"DNAの一致"
"身に着けていたものも、失踪前に確認されていたそれで間違いない"
"確実に、本人である"
警察からは大まかな経緯が語られるのみで、詳しい事情は一切明かしてもらえない。
後日、公には事故死、または失踪の末の自死として処理されてしまう。
一刻も早く、世間の関心が事件から逸れることを望むかのように。
関係者の多くはそこで絶望して諦めてしまうのだが、中には事件の概要に疑問を抱く者もいた。
"突然の失踪の訳は?"
"頑なに遺体を隠そうとするのは何故?"
"DNAの一致は本当に間違いないのか?"
様々な憶測が交錯し、インターネット上では度々陰謀説なども唱えられてきた。
だが事件の話題が持ち上がる度に関連の書き込みは削除されてしまうため、信憑性の高い情報は決して世に流れなかった。
いつしか事件は数多の見解の果てに都市伝説化し、根も葉も無い嘘や噂話までもがあちこちで飛び交うようになった。
"神隠しを追求すると呪われる"
"事件に首を突っ込むと、ミイラ取りがミイラになる"
禁忌のワードを口にすれば、自分の身にも災いが降り懸かるかもしれない。
そんな畏れから、例の神隠し事件を語ろうとする者は少しずつ減っていった。
そして現在。
自分達が追い求めているものの正体は、この中に潜んでいる。
ミリィとトーリの二人は、そう確信している。




