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オルクス  作者: 和達譲
Side:A
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Episode07-8:心優しい怪物



ジュリアンの鉄拳制裁により、壊滅したマフィアのアジト。

当座の命だけは拾った残党達も後に全員逮捕され、ジュリアン自身も事件の重要参考人として拘留されることとなった。

現地の警察署まで連行されたジュリアンは執拗な聴取を受けたが、質問には全て正直に答え、決して抵抗はしなかった。


いや、できなかった。

この時のジュリアンは放心状態で、マノンを失った悲しみや、自身が犯した罪の重さで頭がいっぱいだった。

だから、どんな問いにも有るがまま答えた。答えるしかなかった。



そんな折、ふとジュリアンの視界から黒が飛んだ。

突如として彼の目の前に現れたのは、マジックミラー越しの隣室。

そこには二人の刑事と、見覚えのある若い男の姿があった。


男は、組織の残党の一人だった。

事件発生時は事務所から出ていたため、運良くジュリアンの破壊対象とはならずに済んだのだ。

だが間もなく御用となり、署まで連行された。ジュリアンが拘留されたのと同じ時期だ。


男もジュリアン同様に取り調べを受けている最中らしかった。

そわそわと落ち着かない態度で、刑事達に何かを訴え続けている。

音声は通じていないので、男の言葉はジュリアン側には届かない。ジュリアン側の様子が、あちらに伝わることもない。


ジュリアンが一方的に男を傍観できる状況。

どういう意図か分からないまま、ジュリアンは男の慌てふためく様を暫く眺めた。


するとジュリアンの傍らに立つ警部が、音声開通スイッチをONに切り替えた。

警部はジュリアンの耳元に顔を寄せると、こう囁いた。


"この男について、なにか知っていることはあるか"。


ジュリアンは首を横に振った。

男とは署で擦れ違った時に初めて会った。

それより以前の面識はないし、名前も知らない。

ジュリアンが答えると同時に、隣室では残党の男が退室していった。


程なくして、また別の男が隣室に入ってきた。

警部は再びジュリアンに尋ねた。


"こいつも組員の一人だった男だ。なにか知っていることはあるか"。

先程と全く同じ質問。

ジュリアンはまた首を横に振った。


それが三人、四人と続き、やがて七人目と八人目の男が入れ代わった。

警部曰く、まだ逃亡中の奴が一人いるが、今のところ捕らえた組員はこれで全員だという。

八人目の男が隣室に通されると、警部は八度目の問いをジュリアンに投げ掛けた。


"これまでの七人と、八人目のこいつと。見ていて何か気付いた点はあるか"。

八度目の問いは、これまでの内容とは少し異なった。

ジュリアンは考え、この男も知らないと答えてから、"だけど"と続けた。


"こいつらの言うリシャベールとは、一体なんの名前なんだ"。

今度はジュリアンが警部に尋ねた。


"リシャベール"

二番目と三番目と、五番目の男が口にしていたキーワード。

その名が何を示しているのか定かではないが、彼らはリシャベールを敬称付きで呼んでいた。

話しぶりからしても、どうやら人名であるらしいことはジュリアンにも理解できた。


"俺達はただ、リシャベールさんの指示でやっただけだ"。

"全ての黒幕は、リシャベールとかいう奴なんだ"。


食い違う意見、共通する文言。

細かいニュアンスに差はあれど、三人の男は揃いも揃って、リシャベールという人物に罪を擦り付けているようだった。


ただでさえ混乱していたジュリアンは、男達の話を聞いて益々分からなくなった。

実際に悪さを働いたのは彼らなのに、当の彼らは自分のせいではないという。


ならば本当は誰が悪いのか、本当の目的は一体何なのか。

数多いる子供達の中で、なぜマノンが狙われたのか。

正解は見付からないまま、ジュリアンの頭に残ったのはリシャベールの名前だけ。



"俺もそれが知りたいんだ"。


警部はミラーの向こうを睨んだ。

ミラーの向こうでは、八人目の男がこちらを睨み返していた。

あちらからは見えないはずのジュリアンと警部に対し、挑発するような笑みを携えて。


"リシャベールさんのことは、オレらより御宅のお偉いさん方のが、よっぽど詳しいんじゃないのか"。


これまでの三人とは明らかに違う。

こいつだけは何か、詳しい事情を知っている。

最後の最後で直感した警部とジュリアンだったが、確証を得るまでには至らなかった。



そして後日。

ジュリアンに課されるはずだった刑罰は、情状酌量により大幅に緩和。

実刑は役一年間の服役を言い渡された。


短い刑務所生活を送る最中、ジュリアンは他の囚人達から、こんな噂話を教わった。

ジュリアンと関わった組織の残党は、あれから漏れなく罪人島へ送られたらしい、と。






『Their eyes met.』


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