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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
312/326

Episode51-5:決戦前夜



「あとは、どっちがどっちを攻略するかだな」



話を戻したミリィがアンリの方に振り返る。



「リトルアウルってのはウォレスさんも居たとこだから、怪しいって意味では然して優先度高くないわけだろ?」


「ああ。ヴィクトール達が居着いているのは、ゴーシャークとマグパイだ。

そこにプロジェクトの機密もある」


「で、二つは地下で繋がってると」


「そのようだ」


「なら、どうやって振り分けする?

全員一緒に突入して、片っ端から虱潰しにしてく?」


「いや、突入は別々にした方が袋の鼠にできる」


「別々の入口から中に入って、別々に探索して、後で地下で合流する?」


「そうした方が取り零しも少ないと俺は思う」


「いいよ。異議なし」



手分けして進んだ方が盤石だろうということで、進攻は各研究所別々に決まった。

どのみち建物の中で落ち合えるはずなので、別行動から始めても危険は少ないはずだ。

キオラの言う"開かずの間"の先へ進むまでは。



「中に入ってからの手順は───いや、入るまでの段取りが先か」


「そこは司令官の意向に従おう」


「だってよ。ざっくりと流れ纏めてくれるか?」



アンリとミリィは東間に視線を移した。

一同からも注目され、東間はやや気まずそうに咳ばらいをした。



「二手に別れるってことは、"これ"を発動させるのは、どちらかが代表してってことになる。どっちが持つの?」



これ、と東間はUSBを手に持った。



「例のゲートってやつ、二つとも同じようにあんのかね?」


「一方にだけとは書かれてなかったから、そうなんじゃない?」



ここで、キーコードの使用方法について説明する。


手始めに、例のOSを東間のパソコンにインストールしておく。

このままの状態では、まだキーコードは発動しない。あくまで土台が整ったのみである。

使えるようにするには実働斑がUSBの現物を持参し、現場に赴かなければならない。


研究所の通用口には、スキャナーゲートと呼ばれる侵入防止用のアーチがある。

潜った者の身体データを自動的にスキャンし、関係者と認識すればロック解除の操作を行える。

関係者以外だと操作段階に移れず、行き止まりとなるよう設定されている。


そのアーチに備わった専用ポートに、USBを直接繋ぐ。

するとUSBに元々取り込まれていたOSが、東間のパソコンにインストールしたOSと同期。USBから東間のパソコンへ、研究所のシステム情報が送られて来る。

あとは東間がパソコンから専用のコードを入力すれば、キーコードは発動。

セキュリティハックが実現し、アンリ達は研究所への出入りが可能となる。


とどのつまりキーコードとは、USBそのものと暗証番号の二つが揃って初めて成立する。

OSのコピーだけ持っていても、暗証番号だけ知っていても意味を持たない。

実働斑と扶翼斑、両者の連携が必須となる代物だったのだ。



「オレが持つか、アンリが持つか」


「俺はどちらでも構わんが……。初動で躓くわけにはいかないし、東間君と阿吽の呼吸でやり取り出来た方がいいな」


「てことはオレか?」


「自信がないなら代わるか?」


「自信とか関係ねーだろ。どっちみち向かうとこは一緒なんだし。

条件ないならオレがやるよ。いい?東間」



ミリィが東間の顔色を窺うと、東間は目を伏せた。



「おれは自分の仕事やるだけだから、そっちの分担は好きにして」


「お前のそういう分かりやすいとこ好きだよ」



ゴーシャーク研究所はアンリ達、マグパイ研究所はミリィ達が攻略。

肝心のUSBを持つ係はミリィに決まった。




「ここまでキーコードを頼りにする前提で話してきたが、現実問題、可能だと思うか?

システムジャックを維持するには、そちらの負担が相当になるわけだろう?」



申し訳なさそうなアンリに対し、東間は肩を竦めてみせた。



「あちらのエンジニアとやらが如何程かにも依りますけど、おれ一人じゃまず無理でしょうね。最低二人はアシスタントがいないと」


「三人揃ったとして、どう分担すんだ?」


「システムの上書きとヘッドクォーターはおれが主導でやる。あとは上書きを手伝う係が一人。機密データとやらをこっちに吸い出す係が一人かな。

それでもかなりギリギリ。はっきり言って全部上手くいく保証は出来ない。最悪、あんたらの方が袋の鼠になるかもしれない」



いつになく自信なさげな東間だが、それだけ対象の規模が計り知れないのだ。

三名とは必要最低限の人数なので、欲を言えば五名以上は補助要員が欲しいところ。



「だよな。アリスが無理でも、何としても人材確保しなきゃな」



ミリィは悩ましげに首筋を撫でた。

猫の手も借りたい今、アリスへの協力要請は"出来れば"から"何としても"に変わった。




「───現時点で固まった方針を纏めるぞ。

俺達はゴーシャーク、ミーシャ達はマグパイ研究所に別れて進攻。それぞれにライナスさんから頂いた戦力を割き、キーコードの使用はミーシャが行う。

システムジャックが安定次第、実働斑は研究所内に突入。扶翼斑には同時進行で作業を進めてもらう。

以降は扶翼斑のディレクションを仰ぎながら、実働斑が手分けして探索。

所属の研究員ないしスタッフと接触した折は、対象に敵意が認められた場合のみ、これを叩く。投降の意思を見せた場合には、捕縛等の無力化を施す」


「最終目標は?」


「キオラの保護とヴィクトールの確保、機密データの奪取。

何かしらの障害が起きればその都度処理するが、撤退は原則なしだ」


「決行日は?」


「予定では明日に」



当日の大まかな流れをアンリが説明し、一同もそれを承諾した。

せめてキオラと機密データが無事であること、ヴィクトールが既に国外逃亡などしていないよう、今は祈るしかない。



「厳密な作戦内容は、主要メンバー全員の意見を元に練り上げる。

まずは必要の人材を集めよう」



作戦会議の続きは後で改めるとし、一旦お開きに。

アンリは席を立って各々に指示した。



「マナ、ジャック達に今の話を伝えて来てくれ」


「わかった」


「シャオ、お前はウォレスさんに連絡を」


「あいよ」



マナとシャオは言われた通りに動き出した。



「俺はライナスさんに部隊の補填をお願いして来る。

そちらはお前に任せるぞ」



ミリィに一言言い残してから、アンリもロビーを後にした。

一足遅れたミリィ達は、互いに目配せをし合った。



「オレらも動くか。

東間、さっきのOS使えるように。あと見取り図も、みんなで見れるようにでっかくプリントアウトしといてくれ」


「わかった。桂一郎さんにも連絡しとく」


「いろいろ任せちまって悪いな。

朔とチェスは東間の手伝いしてやって」


「うん」

「分かりました」


「ウルガノ、ヴァン達に伝えてきて」


「すぐに」


「トーリはアリスに連絡頼む。お互い足着かねえようにな」


「言われるまでもない」


「オレはシャノンとコンタクトとれねえか探ってみる。済んだらまた此処に集合。じゃ一旦解散!」


「はい!」



ミリィの締めの一声に、全員の勢いづいた返事が重なる。

散らばっていくメンバーを見送ってから、ミリィも自分の役割にと動き出した。



「(最後の最後で運試しとはな)」



吉と出るか凶と出るか。

どちらの目が出ても明日で最後。

長い旅のエンディングが待っている。


はじまりに母を、道半ばで想い人を失った。

次に失うのは誰か、自分か。






『A friend in need is a friend indeed.』


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