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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
311/326

Episode51-4:決戦前夜



「他はどうだ?仲介や連絡役に回ってくれるだけでも助かる。目星はあるか?」


「……頼めば絶対力になってくれそうな人達は、いるにはいるけど」


「なんだ?」


「シャノンとこの使用人。さすがに殺しを生業にしてるような連中には敵わねえだろうけど、用心棒くらいならイケるやつが何人かいて、こっちもシャノンからは使って良いって言われてんだけど……」



もう一つミリィが当てとして思い付いたのはシャノンだった。

シャノンの専属執事であるグレンとアクセルは武芸にも精通しており、シャノンが外勤を行う際には警護を任されている。

バシュレー家に属する従者全体を見れば、該当する者はもっといるだろう。


なのにミリィが言い淀んでいる訳は、これまでシャノンに頼りすぎてしまった自覚があるから。

いくら本人から望まれているといえど、生死を危ぶむ計画にまで協力してくれとは言えない。



「ヘイ───、チェスはどう思う?さすがに今コンタクト取るのは危険だよな?」



一瞬"ヘイリー"と言い間違えながらも、ミリィはチェスラフに尋ねた。

チェスラフは心苦しそうに眉を寄せた。



「バシュレー家ほどの名家に今更手を出してくるとは考えにくいですが……。

ミレイシャ様と懇意の間柄として、マークされている可能性は高いと思います」


「だよなあ……。オレらがお邪魔してた時がギリギリセーフだったのかも」


「ギリギリアウトだったのを僕らが気付いてないだけかもよ」


「こわいこと言うなよ……」



現実味のありすぎるトーリの冗談に、ミリィは頬を引き攣らせた。


ミリィ一行がここへ移動してくる際にも、アクセルやグレンらの手を借りている。

彼らが丁重に匿ってくれたおかげで追っ手に付かれることなく、現在地も今のところは特定されずに済んでいるのだ。


しかし何度も同じ絡繰を使えば、段々と通用しなくなってくる。

ミリィの親友であるシャノンは勿論のこと、シャノンの従者達も既にヴィクトールから危険視されているはずだ。



「助けを求めれば、無論応じてくれるでしょうが……。

いざ合流するとなった時に、彼らが余計なものを引き連れて来ないとも限りません。今は得策ではないかと」


「僕も同感。シャノンさん達に危害はなさそうっていうなら、尚更合流すべきじゃないと思う」


「オレらの巻き添え食わすわけにいかないもんな」


「それもあるけど、シャノンさんには最後の砦として機能していてもらいたいってこと。

襲撃事件の後、真っ先に僕らが逃げ込んで、受け入れてもらったようにさ」



チェスラフとトーリの念押しを受け、ミリィは自らの懸念を肯定した。



「だな。一応、候補としては考えとくけど、数には入れないでおく。

悪い。さっきの一回ナシ」


「了解だ」



ミリィはアンリに一言断り、シャノンの伝手を頼る件は保留とした。



「そっちはどうなん?味方は多いつっても、現場まで応援に来てくれる───となると、だいぶ限られんだろ?」



今度はミリィがアンリに尋ねた。



「力になってくれそうなのはウォレスさんだな」


「ウォレスってーと……。花藍さんの昔馴染みか」


「彼ならプロジェクトについて詳しいし、ITに強い一面もある」


「なら東間のアシスタントに良さそうだな。すぐ動けるのか?」


「なんとか聞き入れてもらうさ」



ウォレスの所属はリトルアウルだったが、彼はFBプロジェクトに関する知識を豊富に持っている。

なにより本人が、当時の贖罪と花藍の仇討ちを望んでいる。

協力を申し入れれば、よほどの支障がない限り駆け付けてくれるだろう。



「バレンシアさんはどうしてるの?あれから音沙汰ないみたいだけど、無事でいるの?」


「ない便りは良い便りってね。

ただ、こないだ使った魔法のコストが相当だったようだから、当面は頼れないだろうね。残念だけど」


「そっか。大変なことお願いしちゃったもんね」



マナの疑問にシャオが答える。

カジノでの一件で活躍してくれたバレンシアは、現在その火消しに奔走する身。

彼女と彼女の手下のみならば何とか立ち回れるが、こちらの応援までは暫く余裕がないという。



「他に動いてくれそうな人っていうと……。あ、ヨダカさんとヘイズさんは?」


「信用はできるが、今度ばかりは二人の出る幕がなさそうだな」


「それもそっか」


「じゃあミカちゃんは?彼お抱えのブレーン達なら、良さげなアイデア量産してくれるかも────」



他の当てはどうかと、アンリ達は内輪で話し合い始めた。

一方ミリィ達は、バレンシアと同業という流れで、ウルガノがアリスの名前を出した。



「情報屋といえば、アリスさんはどうしておられるんでしょう?

一度お越し頂いて直ぐ、また何処かへ発たれてしまいましたけど……」



ヴィクトールの情報を伝えにミリィ達の元へ訪れた直後、彼も保身のため雲隠れをした。

最低限の連絡は取れているが、バレンシア同様、今現在の居所は分かっていない。



「生存確認は取れてるから、一応無事ではいるんだろう。命狙われてるって意味では、彼も大概ヤバいけどな」


「いっそこっちに呼び戻してみる?東間ほどじゃないにしろ、彼だってハッキングのノウハウくらいあるんだろ?」


「自称、素人に産毛が生えた程度な」


「ヤバい立場なのは皆一緒だし、だったら結託した方が生存率あがるかも」


「言えてんな。期待は程々に、打診するだけしてみるか」



トーリの提案で、アリスにも召集をかけてみることに。

もし応じてくれたなら、ウォレスともども東間のアシスタントに回るのが適任そうだ。




「で、お前はどうすんの?お前も元々はデスクワーク派なわけだけど。東間達と留守番、するか?」



そういえばトーリの最終意思を確かめていなかったと、ミリィは改めて尋ねた。

トーリは皮肉っぽく鼻で笑った。



「冗談。なんのためにここまで来たと思ってんの」


「来るか?」


「もちろん。この手で暴いてやらないと気が済まないよ」



本来ならデスクワーク派のトーリも、ミリィ達に同行することになった。

マナがチェルシーを求めているように、トーリもセレンの行方を追って現在に至るのだ。

恐怖はあれど引き下がる理由にはならない。




「お前はどうする?シャノンとこにはまだ帰してやれそうにねえけど、自分自身どうしたいか希望はあるか?」



ミリィはチェスラフの最終意思も確かめた。

チェスラフは今一度、自分の中で覚悟を決めて頷いた。



「僕も連れていってください」


「いいのか?分かってると思うけど、五体満足で帰れる保障はないぜ?」


「理解してます。ですが留守を預かったところで、僕に出来ることはほぼ無いと思います。

それに、僕の中には彼女の一部がある。上手く作用してくれれば、何か皆さんのお役に立てるかもしれない」



チェスラフも同行したい意思を示した。

彼女こと朔の一部を内に秘めた自分ならば、朔の潜在能力を扱えるようになるかもしれないと。

せめて朔の記憶や経験値だけでも共有できれば、チェスラフは研究所に馴染みのある唯一のメンバーとなる。




「───そちらの面子は決まったか?」



互いのチームに別れて相談した末、アンリとミリィは再び向き合った。



「まだ確定ではないけど、おおよそは。

研究所に突っ込むのはオレと、トーリとウルガノ。あとヴァンとバルドと、チェスも来てくれるって」


「残るのは?」


「まず東間。と、もしOKだったら、アリスを東間のアシスタントに呼ぶつもり。

東間達の護衛には、黒川さんとこの側近二人と、これももしOKだったら、シャノンとこの執事を何人か」


「実働斑が6人と、留守を預かる扶翼斑が4人だな」


「ああ。そっちは?」



アンリも自分達の主要メンバーを数え始める。



「実働斑が俺、シャオ、マナ、ユーガス。ジャックとジュリアンはまだ未定だが、ジュリアンの方は付いて来るだろうとマナは言ってる」


「ってーと、突っ込むのがとりあえず5人か。同じくらいだな」


「東間くんの護衛にはリンチとタイタスを。アシストはウォレスさんにお願いするつもりだ。返事はまだ聞いてないがな」


「未定ばっかで勝手に色々決めちまってんなオレら」


「仕方ない。謝るのは最後だ」



相も変わらず背水の陣。

自分達の頼りなさに、ミリィもアンリも苦笑せざるを得なかった。



「あと、ライナスさんの部隊を追加で派遣してもらうつもりだから、頂いた人材をそれぞれで分けようと思う」


「実働斑と扶翼斑と両方か?」


「数が足りればな」


「なら、オレの伝手を全員東間の護衛に付けるから、ライナスさんの部隊は成るだけ実働斑に回してくれ」


「分かった」



本作戦の基盤が固まってきたところで、ずっと静かだった朔が怖ず怖ずと発言した。



「あ、あの。わたしはどこに行けばいいですか」


「朔は東間達と一緒に留守番だよ」


「え……」



即答するミリィに、朔は納得いかない様子で食い下がった。



「で、でも、わたしなら研究所にいたことあるし」


「いた時のこと覚えてるのか?」


「お───、ぼえてないけど。今日思い出すかもしれないし」


「思い出せなかったら?」


「で、も。でも……」



珍しくミリィは朔の気持ちを尊重しようとしなかった。

アンリ達も口を出したい衝動をぐっと堪え、ミリィが如何にして朔を諭すのか見守る。



「キオラさんが悪い人達に捕まって、そこにいるんでしょ?

わたしだってキオラさんと同じなのに、キオラさんだけ酷いことされて、わたしだけ安全なところで、みんなに守ってもらって……」



朔は俯き、膝の上で拳を結んだ。



「わたしだけなんて、ずるいよ」



ミリィ達に付いて行ったところで足を引っ張るだけなのは、朔自身が一番よく理解している。

理解した上で、それでも高見の見物をするだけの自分が、自分で許せないのだ。

境遇は違えど立場は同じキオラの安否が懸かっているからこそ、余計に。



「朔。君の気持ちはよく分かる。分かるけど、今度ばかりは聞いてやれない」


「………。」


「同じ立場だからこそ、キオラさんが危ない今、君には無事でいてほしいんだ。

君が安全な場所にいてくれればオレ達は安心できるし、そのぶん戦う力になる。

君が実際に戦いに出なくても、君が君を守るために頑張ってくれるだけで、オレ達は助かるんだよ。

何もしないことは、必ずしも何も出来ないわけじゃない」



朔が顔を上げる。



「それに今回は、オレ達より留守番の東間達のが大変な仕事をするんだ。

だから、東間達が自分の仕事に集中できるように、朔は身の周りの世話をしてやってほしい。

そういうの朔、得意だろ?」


「……得意じゃないけど、すきだよ」



ミリィは朔に優しく微笑んだ。



「オレ達はオレ達で、他の皆は皆で頑張る。やることは違くても、頑張るのは一緒だ。

全部が終わったら、朔のところに全員で帰ってくる。

それまで東間達と一緒に、待っててくれるか?」



朔はプクッと小さく頬を膨らませながらも、無言で頷いた。



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