表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
303/326

Episode50-2:最後の晩餐



その後、サンルームで守衛をしていたバルド。

二階三階で同じく守衛に徹していたヴァン、トーリ、東間が、ミリィに呼ばれてリビングに集合。

一時的に別行動を取っていたマナ達も、少し遅れてゲストハウスに到着した。



「───これで全員?」


「ああ。そちらは?」


「こっちも全員」



ミリィとアンリ両一行が揃ったところで、遅まきの夕食会が開かれた。

一同は各々ばらけて席に着き、暖かい暖炉の側で温かい料理の数々を囲んだ。



「乾杯してる状況じゃねえから挨拶は割愛。序列とか上下とかも今はナシ。みんな一緒にさっさと食う。

それでいいか?」


「ああ。簡潔でいい」



これだけの人数が集まれば最早ちょっとしたパーティーだが、今は口福に舌鼓を打ってもいられない。


適当に始まり、流れ作業のように飲んで食う。

無駄口は利かない。見覚えのないメンバーの紹介も碌にない。

黙々と咀嚼して嚥下する。その繰り返し。


ただ栄養を摂るための行為。

ただ英気を養うための時間。

いっそ事務的とも言える食事風景は、まるで刑務所のようだった。


それでも、沈黙の中にも確かな会話があり。

淡々とした空間の中にも、人間的な情緒があった。




「───首領から連絡はあったか?」


「いいや、まだ」



リンチは食事中であっても本来の務めを忘れない。

タイタスはリンチ以上に周囲への警戒を怠らない。



「───ウベェー、豆きらーい」


「そう言わずに。女性陣も手を尽くしてくれましたから」



ユーガスは子供のように駄々を捏ねている。

チェスラフは此処でも自ら給仕に回っている。



「───ヴァン、汁こぼしてる」


「ム、すまん」



トーリは料理を取り分ける所作が丁寧だ。

ヴァンは所作は粗雑だが食べ方が綺麗だ。



「───インターネットか?」


「外の状況をちょっと」



東間は片手間にスマホを弄って調べ物をしている。

バルドは軍人時代の名残で視野を広く保っている。



「───ウルガノ姿勢いいね」


「そちらこそ、流石お箸の使い方が上手です」



ウルガノは絨毯を汚さないよう姿勢に気を付けた。

マナは一人だけ箸とフォークの両方を使い分けた。



「───やっぱり無理そうなら私が食べますよ?」


「ううん。自分で作ったんだもん。たべなきゃ」


「じゃあ代わりに私のこれをあげるわ」


「ジャックは自分で食べなきゃだめだよ」



ウルガノとマナに挟まれた朔は、二人に見守られながら野菜をよく噛んで食べている。

ジャックは選り好みをして、肉類と豆類を中心に食べている。



「───お腹いっぱいになりそう?」


「ああ。全部おいしいよ」


「シャオ。嫌いなものをこっちに寄越すな」


「そもそも君がこんなもの装うのがいけないんだろう」



ジュリアンはマナと朔に構われて嬉しそう。

シャオはアンリに茸類を装われて不服そう。



「まったく。食い物の好き嫌いに年齢は関係ないな」



アンリは常と変わらず穏やかだ。

自らがどう振る舞うべきか意識し、束の間の休息を皆が安心して過ごせるよう配慮している。

だが、よく見ると目の奥は虚ろで、心ここに有らずな暗い影を背負っている。



「………。」


「ミリィ?どうしたの?」


「いや……。なんでもない」



ミリィは常と比べると物静かだ。

まだ体調が万全でないせいもあるが、自分と縁の深いシャノンや黒川らにも火の粉が行くかもしれない、と気が気でないのだ。

そして何より、兄の異変に気付いているからこそ、ミリィはアンリを一番に心配していた。




**


PM9:00。

夕食会が終わると、テーブルには料理皿の代わりにマグカップが並べられた。

中には温かいミルクやココアが入っている。


話のしやすいよう席替えも行われ、アンリ一行とミリィ一行に別れて固まった。

西側のイージーチェアにはアンリが、東側のスツールにはミリィが座り、双方の間にテーブルがある。

メンバーは自分達のリーダーを取り巻き、これからの作戦会議に臨んだ。

守衛に戻ったヴァンとバルド、彼らを手伝いに行ったジュリアンとジャックを除いて。




「───メッセージで説明はしたと思うが……。

顔を合わせるのは初めてなわけだし、挨拶も兼ねて、改めて紹介させてもらうよ」



先に切り出したのはアンリだった。

アンリは隣に座るユーガス、その奥に座るリンチとタイタスに一同の視線を集めた。



「こちらはユーガス・フレイレ。

我々の協力者であるウォレス氏の従弟で、俺達を死地から救ってくれた命の恩人だ」


「ハーイ命の恩人でーす。

今は仮契約だけど、こちらのオニーさんの用心棒みたいなことやらせてもらってます。以後お見知りおき~」



アンリの紹介を受けたユーガスは、呑気なテンションで挨拶した。

一見すると周りの状況など意に介していないように見えるが、これでも平素と比べれば控えめな方である。


前もってユーガスの情報を知らされていたミリィ達は、想像以上にトリッキーな実物に対し共通の印象を覚えた。

某の従弟というより、まるでシャオライの生まれ変わりのようだと。

アンリ達が最初に彼から受けた感じと、ほぼ同じである。



「そしてこちらが、リンチ・グルーソン氏と、タイタス・バーロウ氏。

二人ともスラクシンに籍を置く軍人で、現主席直属の部下だそうだ」



名前の上がった順に、リンチとタイタスは起立して頭を下げた。


リンチ・グルーソン。29歳。アイルランド出身。

色素の薄い髪と瞳、ヨーロッパ人にしては凹凸の少ない顔立ちをした、物腰穏やかな青年。

ライナス直属の部下の一人で、軍人としての階級は少尉。

頭脳派でもあり肉体派でもある、取り分け通信系に強いオールラウンダーである。


タイタス・バーロウ。36歳。南アフリカ出身。

黒人と白人の両方を祖先に持ち、リンチとは対照的にメリハリのある顔立ちが特徴。

彼もライナス直属の部下で、階級は曹長。

少隊長としての一面も併せ持ち、彼の率いるチームは部隊最強と言われている。



「ユーガスの方は元がフリーの傭兵というので、一時的に俺達に与してもらうことになった。

そちらの二人はライナス氏のご好意で、こちらも一時的にではあるが支援してもらっている。

彼らがいなければ、俺はきっと無事では済まなかっただろう」



ユーガスは現在フリーランスの身なので、アンリの支払い能力が続く限りは護衛として味方に付いてもらえる。

リンチとタイタスは期間限定ではあるが、ライナスの主命により当座はアンリ達に付き添ってくれることになった。

せめて事態が終息するまでは付き合ってくれるという。


敵勢力の規模を鑑みれば微々たる増援かもしれないが、三名とも"その道"のプロフェッショナル。

一戦力としても相談役としても、大いに役立ってくれるだろう。




「委細は追って説明するが、こちらの陣営に関して何か質問はあるか?」



ミリィ達全員に向かってアンリは問い掛けた。

すると何故かユーガスが張り切って挙手をした。



「ずっと聞きたかったことあんだけど、いーですか?」


「なんだ?」


「そちらの!金髪の美しいオネーさん!

もしかしなくても貴女はウルガノ・ロマネンコ嬢ではありませんか!?」



ユーガスは勢いよくウルガノを指差した。

ウルガノはびくりと肩を揺らし、一同も何事かと二人に注目した。



「ええ、私がそうですが────」


「やっぱり!!」



戸惑い気味のウルガノに、ユーガスは変わらぬ調子で食い付いた。



「征野を駆ける白翼の死魔!(ともがら)に誉を、敵に(うつろ)を贈るという無辜の怪物!落とした(こうべ)は数知れず!」


「私をご存知なんですか……?」


「もっちろん!戦争知ってて貴女を知らないやつは居ませんよ!

いや~、噂には聞いてたけどマジすっごい美人だね!彼氏いるの?」



興奮しっぱなしのユーガスと、どんどん腰が引けていくウルガノ。


どうやらユーガスは、ウルガノの熱心なファンであるらしい。

本人に自覚はなくとも、同業者の間でウルガノは相当な有名人。

彼女の知名度については過去にも度々触れてきたが、その片鱗をこんなところで垣間見ようとは誰も予想しなかった。



「ストップ。女性に対してそんな風に迫るものではない。

というか静かにしなさい」


「ゥウア~~~イィ……」



アンリに首根っこを掴まれ、ユーガスは椅子に座らされた。

まだ出会って数日しか経っていないのに、二人は早くも打ち解けた雰囲気。

というより、アンリがユーガスの扱い方を心得た様子だった。


やはり"よく似た存在"で慣らされているからこそ、ユーガスのキャラクターに順応するのも早かったのかもしれない。

掴み所のない剽軽なテンションはシャオライに、言葉遣いが時折回りくどくなるのはウォレスにそっくりだ。




「───じゃあこっちも。改めて彼の紹介をさせてもらう」



今度はミリィが、隣に座るチェスラフを示した。



「チェスラフ・マジーク。オレの友人で、シャノンとこの執事の一人。

今まではずっとヘイリー・マグワイアって名前だと思ってたんだけど……。訳はこの間キオラさんが話してくれた通り」



ミリィの紹介を受け、チェスラフは座ったままアンリ達に頭を下げた。


ヘイリー・マグワイア。

本名を、チェスラフ・マジーク。

バシュレー家に仕える専属執事で、ミリィの友人でもある好青年。


というのは、いわゆる表の顔。

何者かの手によって一から創作、改竄されてしまった仮の姿である。



「ってことは彼が、その……」



アンリはチェスラフと朔とを気まずそうに見比べた。

当人同士も自然と目を合わせたが、アンリが心配するような空気にはならなかった。

自身が何者であるのかをチェスラフは既に承知しており、朔も彼との関係を理解したからだ。



「そうだ。被験体ゼロツー、朔の事実上の眷属。

チェスの体には、少なからず朔のDNAが入ってる。ある意味二人は親戚みたいなもの、らしい」



ミリィは先に結論を述べてから、詳しいことは自分で話した方がいいとチェスラフに促した。

チェスラフは頷くと、控えめに咳ばらいをして、自らの半生について語り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ