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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
292/326

Episode47-9:呼んだ?



ホテルの非常口を抜けると、足元が一面芝生となった屋外に出た。

しかし此処はまだカジノリゾートの敷地内であり、本当の意味で外に脱出するには、周囲を取り囲む高い外郭を潜る必要がある。


すると一同の前に、どこからともなく小柄な人影が近付いて来た。

暗がりから現れたその影の正体は、長らく一同の到着を待ち侘びていたマナ。

彼女は一同に正しい逃走ルートを案内するため、わざわざ待機ポイントから離れて迎えにやって来たのだった。



「アンリ、シャオ……!こっちだ!」


「マナ……!良かった無事だったか」



マナは一同の満身創痍ぶりに顔を顰めながらも、特に重傷のアンリをジャックと交代で支えた。

アンリはマナに怪我がないことが分かると、一先ず安堵の息を吐いた。


今のところ周囲は無人だが、遠方からは何やら物々しい喧騒が響いている。

一足先に難を逃れた一般の観光客らが、表の方で何グループかに纏まっているようだ。


身を隠すならそちらに合流するのも有効そうだが、先手を打った武装集団が網を張っているかもしれない。

もはや損害の大きさは度外視のようなので、どさくさに紛れて観光客ら諸とも攻撃されては詰みだ。

やはりここは、一刻も早くカジノリゾートを離れた方が無難だろう。



「世話かける。こっちは大事なかったか?」


「ボクらのことはいいから!この先に車を待たせてある。行くよ!」



アンリに肩を貸したマナが先導し、一同は外郭の出入口の一つを通ってようやく敷地から脱した。


外に出ると、二台の黒いハッチバックが並んで停車されていた。

この車こそ、アシスト組であるマナ達の移動式待機ポイント。

及び、今作戦に於いて無くてはならない、最重要と言える脱出手段である。



「アンリとジャックはこっち!シャオはボクに付いて来て!」



二台ある車のうち、手前に停めてある方にアンリ、ジャック、銀髪の男が。

奥に停めてある方にジュリアン、マナ、シャオが別々に乗り込むこととなった。


各運転席には既に運転手の姿があり、いつでも発進できる準備を整えている。

そんな彼らの存在もまた、今作戦に於けるキーパーソンの一つ。

アンリ達の車を運転するのがタイタス、シャオ達の車を運転するのがリンチという。

詳細はここでは省くが、二人とも特別な訓練を受けたエリートだ。



「おいアンタ、運転代われ」



マナと共に奥の車に向かったシャオは、すぐに乗車することなく運転席の窓を叩いた。

後ろではマナが首を傾げながら、ジュリアンの待つ後部席に乗り込んだ。



「はっ?しかし────」


「この街はアンタより俺のが詳しいんだよ。いいからそこ退()いて」



困惑するリンチを強引に助手席へ追いやったシャオは、自らが運転席に座った。

確実に追っ手を撒くためには、ガオの街に馴染みのあるシャオがハンドルを握った方が良いということだ。

状況を理解したリンチは、無線を通じてタイタスの車に前述の旨を連絡した。




「───少々荒っぽいドライブになりそうですね」



リンチからの連絡を受けたタイタスは、助手席に座ったアンリと後部席に座ったジャックに対して一方的に告げた。

アンリとジャックは返事をする余裕がなかったが、タイタスの発言に内心で同意した。




「───いたぞ!逃がすな!!」



最後となった銀髪の男がジャックの隣に乗り込もうとした時。

先程通ってきたホテルの非常口と、カジノリゾートの正面入口から迂回して来たらしい武装集団の生き残りが、続々と一同の元に集まってきた。



「お出でなすったお出でなすった」



銀髪の男は持ち前の長い腕を生かし、迫りくる武装集団に向かって発煙弾を投げ付けた。

発煙弾は武装集団のすぐ手前で着地すると、短い破裂音を生じさせてから一気に白煙を放った。

それによって武装集団が足止めを食っているうちに、銀髪の男も速やかに車に乗り込んだ。



「しっかり付いて来いよ」



無線に一言告げたシャオは、エンジンを吹かせて車を発進させた。

合図を受け取ったタイタスも次いで車を発進させ、二台は初っ端から急加速してリゾートを出発した。


間もなく、武装集団の運転するシルバーのセダンが、後方から二台追い縋ってきた。

こちらが車で逃走するだろうことを、あちらも可能性の一つとして予測していたようだ。



「キタキタ。オレがお相手していー?」



追撃の執拗さに何故か嬉しそうな銀髪の男は、無線越しにシャオに話し掛けた。

アンリとジャックは銀髪の男の言動に些かの不安を覚えたが、車中備えつけの救急道具でまず自分達の怪我を処置することに努めた。



『出来るだけお上品にな』


「アーイ。

んじゃ、そういうわけだから上あけて~」



シャオの了承を得た銀髪の男は、サブマシンガンに弾倉をセットしながら誰にでもなく指示を出した。

上、というのは天井のサンルーフのことを指している。


アンリは処置を続ける傍ら、怪我を負っていない方の右腕でサンルーフ開閉のレバーを操作しようとした。

そこへジャックが身を乗り出してきて、アンリの代わりにレバーを操作した。



「アンリは早く自分の血を止めて。こいつは私が見張っとくから」



こいつ、と銀髪の男を顎で示したジャックは、自分の応急処置を手早く完了させた。



「悪い。すぐに済ませる」



自分の止血に専念させてもらうことに決めたアンリも、他方向からの追っ手がないか窓の外に目を配った。


サンルーフが開くと、車中はたちまち凍て付くような風に吹かれた。

しかし銀髪の男は、肌寒さなど全く意に介さなかった。



「君らは耳塞いで窓開けないで、ドライバーくんは何があっても運転集中ね」



そう言い残すと、銀髪の男は体を反転させて座席に膝を着き、サブマシンガンのマウントレールを車体に載せた。

狙われていることに気付いた武装集団のセダンは、させるまいとアサルトライフルで先制してきた。


こちらのハッチバックは防弾仕様となっているが、高火力の武器で連続攻撃を仕掛けられては絶対に安全とは言い切れない。

シャオとタイタスは余計な被弾を避けるため、何度も左右にハンドルを切った。



「こういうのスパイ映画とかで観たことあるわ!」


『私もです!』



4台の車で展開される苛烈な追いかけっこは、瞬く間に激戦へと発展。

街中とは思えないスピードで走行していることもあり、誰か一人でもミスをすれば、全員が一瞬で命を落とし兼ねない局面となった。



「ヒヒヒヒ。どーこ撃ってんだよ。

こういう時は、────"ココ"を狙うんだよ」



一時銃撃が収まった隙にサンルーフから顔を出した銀髪の男は、構えたサブマシンガンでセダンに発砲し返した。

いくつか撃った弾のうち一発がセダンの前輪に当たると、セダンは勢い余って回転。

もう一方もその巻き添えを食ってクラッシュしてしまい、両者は道端に取り残された。



『イエーイ!二匹同時ー!』



銀髪の男の嬉々とした雄叫びが、無線を通してシャオ達の車にも響き渡る。

彼のおかげで一行はまたしても助けられたわけだが、突然ドンパチを始めた影響は少なからずあった。

ジェットコースター並に両車が激しく揺れ動いたのは、先導するシャオの運転がワイルドなせいだけではない。



「チッ。とんだサイコ野郎に助けられちまったな。

合流地点に変更は?」



不機嫌そうに舌を打ちながら、シャオは目線をやらずにリンチに話し掛けた。

この頃アンリ達の車では、アンリとジャックが擬似ジェットコースター体験により気分を害しているのは言うまでもない。



「今のところは。

随時対応可能ですので、まずは確実に追跡を振り切ることを考えましょう」



シャオに運転の仕事を取られたリンチは、後に合流する予定の仲間と連絡をとり続けていた。


その仲間というのは、リンチやタイタスと同じ組織に属する同僚。

アンリ達が無事に追っ手を撒けた際の支援、更にそこから一行を安全圏まで送り届ける役目を担っている。

ちなみに先程から一人で燥ぎ倒している銀髪の男とは一切無関係である。



「そりゃいいや。

マナ、そっちは何か言ってるか?」



シャオは次に後部席に向かって話し掛けた。

対してマナは、イヤーカフのようなものに耳を寄せながら大きな声で返事をした。



「このまま真っ直ぐ、1km先に伏兵。

そこから西に1km進んだ先にも似たようなのが待ち伏せしてるって」


「だってさ。東に逸れるよ」



マナの状況報告を聞き、シャオは無線に合図してから目前の交差点を右折した。


何故マナにこんなことが分かるのかというと、これもまたバレンシアの力なのである。

各地に散開したバレンシアの部下が敵の布陣を偵察。彼らが独自に得た情報を伝達係のマナが受け取り、現場に伝えるという構成だ。

マナの耳に装着されているイヤーカフのようなものは、実際は小型の通信機だったのだ。



「そろそろだね。ジュリー出番だよ」


「ん」



バレンシアの部下との通信を切り上げたマナは、ジュリアンに短く指示した。

ジュリアンは頷くと、上着のポケットから旧型の携帯電話を取り出し、ある番号に発信した。

すると遥か西の方角から、大きな爆発音と閃光が上がった。


これも今作戦に於ける術計の一つ。

特定の電話番号による発信・着信を起爆装置とした爆弾で、敵陣を混乱させる役割を持つ。


設置されているのは、カジノリゾートを中心とした西方・北方・東方の計三箇所。

それぞれが開けた空き地に近く、滅多に人通りのないエリアであることは事前に調査済み。

爆弾自体も、演出効果が高く殺傷威力の弱いものを使用している。

万一付近に民間人が通った場合にも、大事には至らぬよう徹底した配慮を施してある。

所詮目くらまし程度にしかならないトラップだが、混乱させるくらいの効き目はあるはずだ。




「このまま突っ切るぞ!はぐれんなよ!」


『了解』



その後も更に追っ手があったりしたが、銀髪の男とジュリアンが場に応じた武器を以って順当に鎮圧。

ジャックやマナも、鎮圧の手伝いに索敵情報の伝達と、自分達に出来うる限りの役割に徹した。


中でも一際功績だったのが、シャオとバレンシアだ。

二人の知識と連携の甲斐あって、一行は伏兵にも掛かることなく、蓮寧の一味を撒くことに成功した。

アンリを筆頭に深手は負わされてしまったものの、誰も欠けずに修羅場を潜り抜けられたのは奇跡に近かった。




「───お待ちしておりました!急ぎ我等と共に安全な場所へ!」


「ありがとうございます……。行き先は?」


「我等の頭目が御座します、スラクシン州にございます」



最終的に一行は、ガオ州の外れにてタイタス達の同僚らと合流。

彼らの車に乗り換えて、安全圏であるというスラクシン州へと向かったのだった。






『No pain, no gain.』


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