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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
275/326

Episode45-3:予期せぬ来訪者



同日午後。

遅れて起床してきたトーリ達も交え、ミリィ一行とシャノンが朝食兼昼食をとり終えた矢先。

ある人物がバシュレー家別邸を訪ねてきた。




「───何やら酷く焦燥したご様子で…。

本人はミレイシャ様のお知り合いを名乗っているのですが、いかが致しますか?」




代表して来客の対応をしたヘイリーは、ダイニングに戻って来るなり怪訝な顔でそう告げた。

曰く突然やって来たその来客は、焦った態度でミリィの知人を自称していたという。




「このタイミングで知り合いが来るって、なんだか胡散臭い気がするけど…。

心当たりはないのかい?」




ドリップしたてのコーヒーカップを一つ一つダイニングテーブルに並べながら、シャノンはミリィに尋ねた。

テーブルの左端に座るミリィは、腕を組んで思案した。




「そいつの見た目はどうだったんだ?この辺りでよく見る感じだったか?」


「うーん…。少なくとも僕には見覚えがありませんが…。

清潔な身なりをした、黒人の方でしたよ。

髪がこう、ふわふわとした感じで…。目付きは少し鋭かったように思います」




来客の姿を思い出しながら、ヘイリーは身振り手振り付きでミリィに説明した。




「………。ちょっと、オレが自分で確認していいか?」


「……?ええ、勿論です。屋敷の前でお待ち頂いているので、どうぞこちらに」




ヘイリーの説明に思い当たる節のあったミリィは、自分の目で例の来客とやらの正体を確かめることにした。

それにシャノンも付き添い、ミリィ達はヘイリーに案内されて玄関へと向かった。


玄関に着くと、ヘイリーはドアの覗き穴を示してミリィを促した。

ミリィは頷き、自分達の動きを来客に悟られないよう足音を忍ばせて、覗き穴にそっと右目を当てた。


覗き穴の向こうでは、寒さに身を竦ませながら、何やらぶつぶつと独り言を呟く来客の姿があった。

ドアを隔てたミリィ達にはその声までは届かないが、表情と挙動を見るに何かに文句を言っている風だった。


納得したミリィは思わず笑みを浮かべると、ヘイリーとシャノンにそれぞれ頷いた。




「大丈夫。本当に知り合いだ。

このまま中に入って貰ってもいいか?」




シャノンとヘイリーは互いに顔を見合わせると、ミリィがそう言うならと了承した。

ミリィは念のためもう一度覗き穴を確認し、他に誰もいないかを警戒してからドアの施錠を解いた。




「全くいつま、で────」




ドアが開くと同時に、来客は怒った声で家人に向かって文句を言おうとした。

だが、いつまで待たせるんだと言い終える前に、来客はぴたりと固まって口をつぐんだ。

何故なら、先程対応したヘイリーではなく、今度はミリィが顔を出したからだ。




「久しいな、アリス。また会えて嬉しいよ」




来客としっかり目を合わせて、ミリィは嬉しそうに微笑んだ。

来客ことアリスは、あんぐりと口を開けてミリィの全身を見遣ると、一気に瞳を潤ませてミリィに抱き着いた。




「いき、てた…っ。生きてて良かった……っ!」




アリスの抱擁を受け止めたミリィは、アリスの頭や肩に降り積もった雪を払ってやってから強く抱きしめ返した。




「ああ。心配かけたな。君も、息災そうで何よりだ」




アリス。

ミリィの古い友人であり、ミリィとトーリを引き合わせるきっかけを作った情報屋でもある重要人物。


登場するのはかれこれ半年ぶりになるが、彼とて今までぼんやり過ごしていたわけではない。

こうして自らミリィ達の元を訪れたのは、以前交わした約束を守るため。

今回のアリスは友人としてではなく、情報屋としてミリィに会いに来たのである。






―――――



玄関先で久方ぶりの再会を祝ったミリィ達は、揃ってリビングまで戻った。

リビングのドアを開けると、その場に集まっていた一同が一斉にミリィ達に視線を向けた。




「みんな席に着いてるな」




ドアを抜けて一度立ち止まったミリィは、頭数が揃っているか辺りを見渡した。



リビングのソファー席では、トーリ、バルド、朔、東間の四人が並んで座っている。


ダイニングのテーブル席では、ウルガノとヴァンが向かい合って座っている。

ウルガノの隣には先程までミリィが座っていたので、今もその席は空席となっている。


バシュレー家の使用人達は各々別行動中だが、全員一階で仕事に取り掛かっているので、呼び掛ければ集まって来るはずだ。




「早速だけど、紹介したい人がいるから、それぞれ作業を中断して、こっちに集中してくれるか」




一同に呼び掛けてから、ミリィはアリスを引き連れてダイニングに向かった。

二人の後ろからは、シャノンとヘイリーも続いている。



ミリィの様子に気付いたウルガノは、一度席を立って、向かいに座るヴァンの隣に移動した。


ミリィはウルガノにありがとうと会釈すると、テーブルの左端の席にまずアリスを促した。

ここは先程までミリィが座っていた席だ。


アリスが着席したのを見てから、ミリィはその隣に腰を下ろした。

こちらはたった今までウルガノが座っていた席だ。


最後に、シャノンはミリィの右隣へ。

ヘイリーはシャノンに促されてウルガノの左隣へ着席し、一先ずの顔ぶれが配置に着いた。




「───じゃあ、改めて。

彼はアリス。前に話したと思うけど、オレとトーリが世話になってる友人で、名の知れた情報屋だ」




一同の注目が集まる中、ミリィはアリスの紹介をした。

アリスは着ていたチェスターコートを脱ぐと、気まずそうに数回会釈をした。




「ミリィから話は聞いてたんで、誰なのかは知っているが…。今日はどういう用事で来てくれたんだ?

というか、何故俺達がここにいると分かったんだ?

誰か彼に連絡したのか?」




第一声を上げたバルドは、誰にでもない質問を投げ掛けて周囲を見遣った。

だが、全員首を振るか否定の言葉を返すばかりだった。


そんな中、唯一反応しなかったミリィがおもむろに話し出した。




「今回だけ特別にってわけじゃないが、オレとトーリは定期的に連絡をとってるんだ。

こちらの近況や、彼に依頼した仕事の進捗を報告し合うためにね。

で、もしなにかあった時には、オレの自宅か、ここを訪ねるように言ってあったんだが…。

よくこっちにいるって分かったな?」




ミリィとトーリの二人は、以前からアリスと定期的に連絡をとっていた。

そのため、ミリィ一行が目下なにをしているか、どこにいるかはアリスも大方把握していた。

こうしてバシュレー家の別邸を訪ねてきたのも、万一の合流場所としてミリィが指定したからなのだ。


ただ、前述の合流場所は他にもあり、その内の一つがミリィの自宅であるアパルトメントだった。

トーリ達と旅を始めてからはすっかり寄り付かなくなったが、今でも部屋は借りたままにしてあるのだ。




「最初は自宅の方行ってかラこっち来よう思タんだけど…。

さすがにこの状況で自宅帰るバカはおらんナと思うタからな。

先にこっち来たらビンゴだったわけダ」


「………。シャノン。テレビ付けてもいいか?」


「ああ、もちろん」




アリスの返答を聞いたミリィは、なにかを察した顔でシャノンに許可をとった。

それからトーリに呼び掛けると、トーリはソファー脇にあったリモコンを手に取り、リビングにあるテレビの電源を付けた。

ぱっと明るくなったテレビ画面には、既に設定してあったチャンネルのニュース番組が映った。




「"この状況"ってのは、こういうことか?」




ミリィの示したニュース番組では、若手の男性アナウンサーが繰り返しある報道を伝えていた。


その報道というのが、昨日起こったブラックモアでの銃撃戦。

ミリィ達が引き起こした事件の概要を知らせるものだった。




「そうさ。次の行き先がブラックモアだってのは教えてもらってたからネ。

ニュースでやってんのを見て、ピンときたのさ。こりゃミリィ達が巻き込まれたんじゃネエかってネ」


「……なるほどな。こんだけ大々的にやられちゃ、オレから連絡入れるまでもなかったわけだ」




実はこのニュースは事件が起きて間もなくから続いており、ミリィ達も朝食の席で初めて確認した。


主席のサリヴァンが根回しをしたのか、今のところ被害者と加害者の素性は不明となっている。

確かな事実として伝えられているのは、関係者と思われる者達と、現場に残っていた怪我人及び死人の人数だけ。

則ち、ミリィ一行とレヴァンナ親衛隊、双方の人数の数字のみということだ。


だがアリスは、確証がなくとも、ミリィ達がこの事件に巻き込まれたものと直感したという。

事前にミリィが次の行き先を伝えていたため、同じエリアに居合わせて無関係なはずはないと思ったらしい。




「それで、ここまで会いに来てくれた理由は?

ニュース見て心配したから、だけじゃないんだろ?」




ミリィがアリスの目的を尋ねると、アリスはミリィの顔を一瞥してから二度頷いた。




「どうしても、知らせたいことがあったんだ」


「……それは、電話やメールでは出来ない話ってことか?」


「そうだ。直接会って話したかった。だから来たンだ」




椅子の背もたれにかけたコートのポケットから、アリスは私物のスマートフォンを取り出してテーブルに置いた。




「報告したいことは色々あるけド…。

とりあえず、奴の正体は多分分かったヨ」


「奴?」




ミリィが首を傾げると、アリスは眼光を鋭くして答えた。




「ヴィクトール・ライシガー。

あいつがどこから湧いた亡霊なのか、この半年をかけて、やっと突き止めたよ」




一同は互いに顔を見合わせ、じっくりアリスの話を聞かせてもらうことにした。



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