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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
271/326

Episode44-8:弾丸



ダイナー前での銃撃戦が始まってから数分。

ミリィ達の乱闘は白熱を極めていた。


ウルガノとヴァンはそれぞれ突撃組を倒した後、トーリの寄越した予備銃を用いて援護組との撃ち合いを始めた。



片やミリィは、因縁の敵との対決が思いの外長引いていた。


やはり、以前よりは戦えるようになったとはいえ、ミリィの技術は所詮付け焼き刃のもの。


手練れの兵士を武器なしで負かすには、何かしらのきっかけやラッキーが発動しない限り難しいということだ。




「い、……っ加減にしろッ!!!」




援護組とウルガノ達が撃ち合う銃弾が四方を飛び交う中。


決め手のなさに痺れを切らしたミリィは、カウンター覚悟で突撃男の顔面に殴りかかった。


突撃男は防御したが、衝撃で僅かに体勢を崩した。

刹那、どこからか飛んできた銃弾が、突撃男の臀部を直撃した。


援護組の流れ弾が当たったのかと思いきや、この弾が発砲されたのはダイナーの方からだった。


反射的にミリィがそちらに目をやると、北口の扉が拳一つ分開いていた。

扉の隙間からは銃口が覗いており、その銃を構えていたのはトーリだった。


どうやら、扉のガラス越しにミリィの援護射撃をしたらしい。



ミリィは、弾切れの銃を再び懐から出すと、固いグリップ部分で思い切り突撃男の頭を殴った。


トーリの不意打ちにより注意が途切れた突撃男は、反応する間もなくこめかみの辺りに打撃を喰らった。


そのまま横向きに倒れると、突撃男は完全に意識を失ったようで、ぴくりとも動かなくなった。




「間いっぱ────」




間一髪、とミリィがトーリに目配せをした次の瞬間。


ミリィの名を叫ぶ少女の高い声が辺り一帯に木霊した。


はっとしたミリィが後ろを振り返ると、突撃組でも援護組でもない黒服の男が、朔を抱えて北に走っていた。


その進行方向には、黒いバンが一台停まっていた。



先程南の方角に現れた同車種のバンは、当初と変わらず二台そこに停まっている。


この二台のバンから降りてきた黒服の人数は、全員で7人。

こちらも、ミリィ達が倒した3名を含めダイナー前に揃っている。


つまり、今まさに朔を連れ去ろうとしている黒服とバンは、知らぬ間に現れた敵の増援。


現在進行形でミリィ達に攻撃しているのは囮のチームで、彼らの真の目的は朔を連れ去ることにあったのだ。




「朔!!!!」




瞬時に状況を理解したミリィは、急いで朔の奪還に向かおうとした。


ところが、ミリィが北へ走り出した矢先。

西の援護組が放った弾が、ミリィの左脇腹を貫いた。


今まではウルガノとヴァンが守って戦ってくれていたおかげで、ミリィは一度も被弾せずに済んでいた。


しかし、急に走り出したことで、ウルガノ達が死守してきたセーフティーゾーンから出てしまったのだ。




「(しまった)」




たちまち、誰かに背中を押されたように転倒するミリィ。


あのまま走って追い掛けていれば間に合ったかもしれないが、このロスタイムで朔との距離は益々離れてしまった。



このままでは、止めに入る前に朔がバンで連れ去られてしまう。

行って追い付けないなら、ここから妨害するしかない。


転倒と同時に挽回の一手を切り替えたミリィは、地面に体が伏すより先に、前のめりに立ち上がった。


頭を低くしながら次に向かった先は、トーリが投げて寄越したトランクの元だった。




「ミリィ!!!」




ミリィが被弾したことに気付いたヴァンは、撃ち合いを続けたままミリィの側まで後退していった。


そのままミリィと背中合わせになると、ヴァンはミリィの動きに合わせて蟹歩きに移動し始めた。


今尚飛び交い続ける銃弾から、身を呈してミリィを守るために。



片やウルガノは、無防備なヴァンとミリィに照準が集中しないよう、決死の覚悟で西の援護組に突っ込んでいった。


その途中、真正面から放たれた迎撃弾が二の腕と頬を掠めたが、それでもウルガノは止まらなかった。




「クソッ、応戦しろ!!」




ウルガノの勢いを止められないと悟った西の援護組は、銃からナイフに武器を取り替えてウルガノを待ち構えた。


そこへウルガノは身一つで飛び込んでいき、内の一人の首を秒でへし折った。


もう一人の方は秒殺とまではいかなかったが、こちらもウルガノ優勢での肉弾戦に突入した。


元より彼女は肉弾戦の方が得意なので、敵の懐に入り込んでからの方が本領を発揮出来るのだ。



残ったヴァンは、ミリィの盾となったことで思うように動けなくなり、東の援護組に右脇腹を撃たれてしまった。


だが、ヴァンも負けじと撃ち返し、内の一人の脳天に直撃させた。



これで、東西それぞれで一人倒れ、援護組の人数は残すところ二名となった。


しかし、頭数を減らしたからといって、戦況的にはまだこちらが劣勢であるのは変わらない。




「(くそ、悪いヴァン)」




ヴァンが自分を庇って撃たれているのを感じつつ、ミリィはトランクからハンドガンを一丁取り出した。


そして、それを持って今度こそ北に向かおうとすると、進行方向の小路からまた新たな黒服が現れた。


この黒服は、朔を連れ去ろうとしている男同様、後から加わった増援である。




「(次から次へと羽虫のように──!)」




引っ切り無しに現れる新手に舌を打ちながら、ミリィは持ち出したばかりの銃を構えた。


しかし、そこから弾が放たれる前に、増援その2は地面に倒れた。


少し遅れて小路から現れたバルドが、増援その2に後ろから飛び掛かったのだ。




「ぐ───。ッやれミリィ!!!」




増援その2を力づくで地面に伏せながら、バルドは叫んだ。


その全身は、ウルガノやヴァンに引けを取らないほど傷だらけだった。


今の今まで所在の不明だったバルドだが、彼も見えないところでずっと戦っていたのだ。



ミリィはもう少し北に走ってから立ち止まると、銃口をバンに合わせた。


バンの付近には既に増援その1と朔の姿があり、増援その1が朔を後部席へ押し入れようとしているところだった。


朔も朔で必死に抵抗しているようで、車中から飛び出た細い足は何度も増援その1の腹を蹴っていた。




「(当たれ)」




ミリィの持つ銃から、一発目の弾丸が放たれる。


しかし、一発目はバンのサイドミラーに掠めてしまい、増援その1には当たらなかった。


自分が狙われていることに気付いた増援その1は、強引に朔を車内に押し込むと、後部席のドアを閉めた。



当てるなら今しかない。


今一度呼吸を整えたミリィは、増援その1が運転席に回ろうとした隙を見て、再び引き金を引いた。


二発目の弾丸は見事増援その1の側頭部に命中し、息絶えた彼は横向きに倒れていった。



ミリィは、血が溢れないよう左脇腹を手で押さえながら、朔が閉じ込められたバンまで走った。




「ミリィ!!」




ミリィがバンに近付くと、朔が車内から後部席の窓ガラスを叩いた。

内側からは鍵が開けられないようになっているらしい。


ミリィは倒れた増援その1からバンのキーを失敬すると、そのまま運転席の方に回った。




「───ミリィ!!大丈夫!?血がでてる!」




ミリィが運転席に乗り込むと、朔は顔を真っ青にしてミリィの傷を心配した。




「オレは平気だから、朔はシートベルトして、対ショック姿勢。

揺れるから吹っ飛ばされんなよ」




朔を宥めながら、ミリィはバンのエンジンを入れた。


朔は急いで後部席に座り直すと、ミリィの指示通りシートベルトを締め、上体を屈めた。




「行くぞ、」




朔が準備出来たのを確認してから、ミリィは南に向かってバンを急発進させた。


それに気付いたバルドは、取っ組み合いになっていた増援その2を突き飛ばすと、急いで距離をとった。


そこへミリィはスピードを緩めずに突っ込んでいき、増援その2をバンで撥ねた。


衝撃で飛ばされた増援その2は、地面に落下するなり動かなくなった。




「朔はここにいて」




バンを降りたミリィは、自分のジャケットを脱いで腹に巻くと、ダイナー前に集合した一同に対して声をかけた。




「総員撤退する!!!」




ミリィの声かけに気付いた一同は、それぞれ撤退のため行動を開始した。



まずミリィは、アパルトメントの前で壁伝いに倒れていた東間を回収に向かった。


実は東間は、朔を奪われた際に、増援その1に急所を突かれて失神させられていた。


ミリィもそのことに少し前から気付いていたが、朔の奪還を優先させたために、東間の救助を後回しにしてしまったのだ。




「しっかりしろ、東間。死ぬな、」




東間を抱き起こしたミリィは、背後から東間の上体を持ち上げた。


しかし、今のミリィには精々東間を引きずるのが精一杯で、とてもバンまでは運べそうになかった。




「ミリィ!そこ()けろ!俺が運ぶ!」




駆け寄ってきたバルドは、ミリィを退かせると、自分が東間を横向きに抱えた。


東間をバルドに任せたミリィは、一足先にバンに戻り、後部席のドアを開けた。


後部席の一列目に座っていた朔は、ミリィ達の邪魔にならないようそそくさと二列目に移動した。




「我々も行きましょう」


「ああ。そっちに散らばった分頼む」




片や、ようやく援護組を撃破したヴァンとウルガノも、自分達の武器を回収してバンに向かった。




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