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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
270/326

Episode44-7:弾丸



血に濡れた東間と、その傍らで涙を流す朔。

すっかり人通りのなくなった中、一人銃を手にした黒服の男。


これらの光景を目にしたミリィは、一瞬のうちに全てを悟り、黒服の男を止めるべく向かっていった。


すると、ミリィより速いスピードで走り出したヴァンが、問答無用で黒服の男に殴り掛かっていった。


ヴァンが代わりに相手をするなら、黒服の男は彼に任せて大丈夫だろう。


走りながら行き先を変更したミリィは、早速バトルを始めたヴァン達を通り過ぎ、更に先にいる東間達の元へ急いだ。




「ミリィ!東間さんが、東間さんが……っ!」




ミリィが東間達の元へ駆け寄ると、朔は一層大きな涙を零してミリィに縋った。


ミリィは朔を安心させるため軽く抱きしめてやってから、膝を折って東間の状態を調べた。




「肩を撃たれたのか。

血は……。まだ少し出てるな」




東間の傷を確認したミリィは、自分の上着を脱いで東間の上体に被せた。

そしてその袖部分を東間の患部に巻き付けると、きつく縛った。


締め上げられた瞬間東間は痛そうに呻き声を上げたが、黙って身を委ねた。




「こんなもんで止血になるか分からんが…。

とりあえず今は我慢してくれ」


「だい、じょうぶ……。

おれ、いつも足引っ張ってばっかだね」




力無く呟いた東間は、悔しそうに眉を顰めて、顔を背けた。


脇で聞いていた朔は、また首を振って東間の手を握った。




「なに言ってんだよ。お前がいなきゃきっと朔は無事じゃなかった。

待ってろ、今助けを───」




東間を励ましつつ、ミリィは改めて周囲を見渡した。


しかし、ダイナーの付近には自分達以外誰も残っていなかった。


先程まで騒いでいた通りすがりの者達は、みな屋内に退去してしまったようだ。




「!ダイナーの中にいるのって……!」




発端となったダイナーの中では、トーリとウルガノがまだ戦っていた。


当初ウルガノと相対していたハンチングの男は、既に倒されたのかもうそこにいない。


ただ、今のウルガノには新手が迫っていた。

長い赤毛をハーフアップにした、バンドマンのような格好の若い男だ。


実はこの男も最初からダイナーにいて、朔の千里眼に引っ掛かったうちの一人だった。



この様子だと、ウルガノがミリィ達の増援に来てくれるまでには、まだしばらくかかりそうだ。




「くそ、全員手一杯か。

じゃあせめてお前らだけでも、どっかの民家に────」




どっかの民家に避難させてもらった方がいいな。


途中までミリィが言いかけたところで、南の方角からなにやら黒いフルサイズバンが二台やってきた。


バンは、ダイナーからおよそ100Mの地点まで近付くと、ミリィ達の対角線上にある道路脇で停車した。




「………冗談だろ」




停車したバンからぞろぞろと降りてきたのは、東間を撃った男と全く同じ身なりをした連中だった。


その姿は一見警察のようにも見えるが、彼らは全員覆面をして顔を隠していた。


あの日アブドゥラーで奇襲を仕掛けてきた、レヴァンナの親衛隊と同じように。




「………朔。どこでもいいから建物の中に避難して」


「一人じゃだめ」




ミリィが朔に避難を促すと、朔は困った様子で拒否した。



普段の朔は、ミリィの言うことには基本従うスタンスである。


則ち、朔がミリィの指示を嫌がる場合には、よほど従えない理由があるということなのだ。


そのことをよく知っているミリィは、ただ説得するだけでは埒が明かないと思い、指示を変えることにした。




「じゃあ、血止まるまでここ押さえて。

止まったら、東間と一緒にこの場を離れて。体勢は低くしたままだ。

できるか?」




ここ、と東間の患部を示しながら、ミリィは改めて朔に言い聞かせた。


朔は、やってみると頷くと、言われた通りに頭を低くし、東間の止血を始めた。



直後、大きな銃声と共に、ミリィの後頭部を鋭い弾丸が通り抜けていった。


発砲された方角にミリィが目をやると、黒服達は早くもダイナーから60~70Mほどの距離まで迫っていた。


内の二名は、配列を整えるまでもなくミリィに銃口を向けていた。




「っ!絶対頭上げるなよ!」




再度朔に注意しながら、ミリィも懐に忍ばせていた護身用の銃を構えた。


ミリィがあちらに向かって三発発砲すると、先程の二名を含めた黒服達は東西に人数を分け、各々死角に隠れた。


それでもミリィは、碌に当たらないのを承知の上で、黒服達への牽制射撃を続けた。


朔と東間を庇いつつ、ヴァン達が助っ人に来てくれるまでの時間を稼ぐために。




「────チッ。もう弾切れかよ」




やがて、ミリィの銃が弾切れとなった時。

死角から様子を窺うばかりだった黒服達に動きがあった。


彼らは突撃組と援護組にチームを分断させると、前者の3名を一斉にミリィに向かわせた。


残りの4名はまだ東西の死角に潜んでおり、突撃組の援護射撃をするつもりらしい。



そこへ、それぞれの相手を倒してきたヴァンとウルガノが、ミリィに近付けさせまいと突撃組に向かっていった。




「ウルガノ……!!!」




ヴァンは無傷だったが、ウルガノの方は上体に二箇所ナイフで切り付けられたような傷を負っていた。


ダイナーでの戦闘の際に受けたものらしい。



それを見て、ミリィは再びダイナーの方に目をやり、見当たらないトーリの姿を探した。


すると、ウルガノ以上に満身創痍のトーリが、大きなスーツケースを手にダイナーの北口から出てきた。


このスーツケースは、ミリィ達の予備の銃や弾倉などの武器を納めたものである。




「ミリィ!!!」




叫んだトーリは、ミリィに向かってスーツケースを放り投げた。


しかし、見た目以上に重量のあるスーツケースは、ミリィから5Mほど離れた地点に落下してしまった。



直後、ウルガノとヴァンの防壁をかい潜った突撃組の一人が、急に方向転換をしてトーリに向かっていった。


この男が狙っていたのはミリィだったはずなのだが、途中でトーリに標的を切り替えたらしい。


気付いたトーリも直ちに臨戦態勢をとったが、今の状態で戦っても相手にならないのは明白だった。




「させるか!!」




地面を蹴ったミリィは、トーリに向かっていく突撃男に背後から飛び掛かった。




「く……っ。お前は外に出るな!!」




おぶさるような形で突撃男を羽交い締めにしたミリィは、驚くトーリに対し叫んだ。


一瞬悔しそうに表情を歪めたトーリは、踵を返してダイナーの中に戻ると、倒したサングラスの男らを拘束し始めた。



トーリの姿がなくなると、突撃男は一層激しく暴れてミリィを振りほどいた。


勢いで吹っ飛ばされたミリィは転倒したが、即座に起き上がって突撃男と対峙した。




「お前みたいな卑怯モンには、絶対負けねえよ」




ミリィが挑発すると、突撃男は一気に距離を詰めて殴り掛かってきた。


それをミリィは腕で受け止めると、突撃男の間接部分を重点的に反撃を繰り出していった。


これは、指南役のヴァンから教わったやり方で、ヴァンのかつての同胞達が得意としていた戦術でもある。



そうしてしばらく素手での取っ組み合いを続けていると、ミリィはあることに気が付いた。


相手の体格、身の熟し。

なにより、覆面の隙間から覗く鋭い眼光。


間違いない。

今相対しているこの男は、以前自分に致命傷を負わせた、レヴァンナ親衛隊の一人だと。




「てめえ………!」




確信のいったミリィが突撃男を睨むと、突撃男はミリィの首目掛けてチョップを振り下ろした。


ミリィはそれを再び腕で受け止め、すかさず突撃男に蹴りを返した。


突撃男は一歩後退することでミリィの蹴りを避けると、嘲笑するようにわざとらしく肩の骨を鳴らした。




「忘れねえぞその目……!

今度はトドメ刺してやる!!」




互いにあの時のリベンジとでも言うように、ミリィと突撃男は一対一(サシ)での対決に突入した。






―――――



ミリィ達が各々戦っている頃。

東間の止血を終えた朔は、東間を支えながら近くの民家を訪ねて回っていた。


しかし、一軒目の家は留守で、二軒目の家も応答がなかったため、なかなか避難には至っていなかった。




「───すいません!誰かいませんか!」




三軒目に訪れたのは、縦長のアパルトメント。


そこの玄関扉を叩きながら、東間は中にいるだろう家人達に助けを求めた。


だが、いくら繰り返しても、やはり応答はなかった。




「くそ、ここも駄目か。

なんで誰も出て来ないんだよ」




息も絶え絶えに、東間は落胆した様子で扉に頭をもたせ掛けた。



さすがに三軒連続留守という可能性は低いので、恐らく中にいる者達は居留守を決め込んでいるのだろう。


主席のサリヴァンがそうするようにお触れを出したのか。

あるいは住人達が自らの意思でそうしているのか。


事実は不明だが、もし後者であった場合、自分達に火の粉が回ってくることを懸念しているのかもしれない。


非情な話だが、今尚絶えず銃撃戦が行われている以上、今更外からやって来た者に巻き込まれくないと。




「東間さん、しっかり。

お家が駄目なら、あそこの喫茶店まで行ってみましょう。

ちょっと歩くけど、お店の人なら入れてくれるかもしれません」




朔が指し示した先には、一件の喫茶店が建っていた。


喫茶店と東間達の間には少し距離があったが、朔の言う通り民家よりは当てになると思われた。




「そう、だね。駄目元でも、停滞してるよりマシだ。

負担、かけてごめんね」


「わたしは大丈夫です。

もう一回歩きますから、さあ、もっと体重をかけて」




同意した東間は、朔を気遣いつつアパルトメントを離れようとした。


その時。

アパルトメントの脇の小路から、一人分の影が飛び出してきた。


突如現れたこの影は、朔の視界を覆い尽くすほどのまがまがしいオーブを携えていた。




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