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オルクス  作者: 和達譲
Side:M
27/326

Episode04-5:賢すぎた青二才



モニターに映し出されているグラフ。

これは西暦2000年から現2024年にかけて、神隠しに関連しているものではないかと仮定された失踪事件の件数と、その被害者を元に作成されたデータである。

作成者は無論、ここにいる東間羊一本人に他ならない。



「おれが個人的に怪しいと思った内容のものだけだから、正確さは保証できないけど……。

ほらこれ。四年前から急に失踪事件の件数が増えてる。

国籍はみんなバラバラだけど、半数以上が40代より下の若者」


「四年前……」


「割と最近だね。四年前に何か変化があったってことかな」



東間によると、数ある行方不明事件の中から怪しいと着目するものの基準は、事件発生から被害者の死亡が確認されるまでの日数にあるという。



「本当にただの失踪だった場合、そのまま行方が知れない状態が何年と続くか、すぐに見付かって保護されるのが殆ど。

もし遺体で見付かった場合でも、事件発生から数ヶ月、数年後だったりね。

けど神隠しは違う。ある日突然いなくなって、最短三日で失踪者の遺体が上がってくる。

そして神隠しの場合、上がった遺体が遺族の前に出ることは絶対にない。損傷が激しいからとかって適当に理由を付けられて、早々に警察側で処理される。

残された遺族からすれば、家族が急にいなくなったかと思えば、また急に死んだって言われて……。

なんでそうなったのかも分からずに、ただ泣き寝入りするしかなくて───」



多くは失踪後に何らかの事故に巻き込まれたか、失踪した先で自殺を図ったものとして処理されてしまう。

神隠しが都市伝説のように巷で囁かれるようになったのも、その謎が一切明かされないことに疑問を持った遺族らが、抗議の声を上げ始めたのが起点と言われている。



「最近ので怪しいなと思ったのは、アメリカの女子大生失踪事件。

被害者の名前は、チェルシー・カルメル。国籍はフランス。

去年の八月上旬頃に行方不明になって、以降音信不通。

んで、失踪の五日後に死亡が確認されて、死因は首吊りによる自殺と」



東間がパソコンを操作すると、今度はモニターにチェルシー・カルメルの写真と、彼女の事件に関連する新聞記事の一部が映し出された。

新聞記事の方は、現地で発行された現物をコピーしたものである。



「自殺か……。公には死んだってことにして、その後どこかに連れ去ったんだとしたら……。

一番手っ取り早いかもな、自死ってことにすんのが」


「胡散臭いでしょ?

それに彼女の遺体は、郊外の人通りの少ない公園で見付かったってことになってる。

今時、20歳の女の子がそんな場所で首吊ったりするかな?」


「……もしこれが警察のでっちあげだったとして、動機の方はどうなんだ?

わざわざ郊外まで出向いたってことは、途中で邪魔が入らないようにしたかったのか、知人に遺体を発見されたくなかったのか……。なんにせよ、発作的にやったわけじゃないってことだろ?

その辺もある程度の根拠がないと、自殺なんておかしいって看破されるんじゃないのか?」


「同じ大学に通ってた人達の話によれば、彼女はかなり引っ込み思案な性格で、友人と呼べるような相手は殆どいなかったってさ。

影でいじめみたいなこともされてたっていうし、それが原因で……、らしいよ?便宜上は。

ただ────」




地元警察の発表によれば、チェルシー・カルメルが自殺を図ったとされる場所は、ペンシルベニア州郊外に位置する、とある公園であったという。


当日早朝、遊具に括り付けたロープで首を吊っている彼女を、近隣住民が偶然に発見。事件が発覚した。

それが失踪した女子大生と同一人物であることが後に判明し、死亡推定時刻および彼女が公園を訪れたのは当日の夜更けであった旨が一部報道された。

そも突発的に失踪をした訳も、現実を悲観して穏やかな最期を求めた末、という第三者の意見が適当と断じられた。


結論として、チェルシー・カルメルは自殺を目的に失踪をした、ということにされてしまったのだ。

孤独な女性の哀れな死は、事件性が低いとの理由で大きくは伝えられず。

やがて彼女の名前は、周囲からも世間からも忘れられていったのだった。




「事件が起こる少し前に、友人が出来ていたらしいんだ。たった一人だけど。

その人と一緒に美術館へ行く約束もしてたみたいで、彼女の自宅には前売りのチケットが残されてた。

それも遺体が発見された日の、少し前の日付でね」


「動機の根底が揺らいでるのか。そりゃ怪しまれるのも無理ないわな」


「そのたった一人の友人と、彼女の家族はずっと反発してたみたい。彼女はそんなことする人じゃないって。

……でも結局、彼らの声は世間に届かなかった」



チェルシー・カルメルの唯一の友人とされる人物、彼女の親族らは何度も抗議の声を上げ、事件の再調査を求めた。

しかし警察側がそれを聞き入れることはなかった。


納得のいかなかった彼らは、ついには訴訟を起こす動きまで見せたそうだが、その訴えも結局は通らずに終わってしまったという。



「おれが警察を嫌いなのは、単に印象が悪いからってだけじゃない。

神隠しが何らかの陰謀で、意図的に行われているものなんだとしたら、警察もグルってことになる。

警察だけじゃない。世界中の有りと有らゆる公的機関が糸を引いている可能性だってあるんだ」


「なるほど。ようやく輪郭が見えてきたかね」



東間達の会話に黙って耳を傾けていたトーリが、ここで徐に発言する。



「あのさ。僕からも一ついいかな」


「どうしたトーリ?」


「この女子大生の子が、彼女と同じように何者かに誘拐されたんだとすれば、今もどこかで生存してるって線はないかな?」



そう言ってトーリは、部屋の扉付近で待機中のウルガノに振り返った。

つられてミリィと東間も振り返り、突然注目されたウルガノは目を丸くした。



「え。なに、この人誘拐された経験あんの」


「ああ。ついこないだな」



事情を知らなかった東間は静かに驚き、ミリィは他人事のように肯定した。



「あと、この間アリスさんと話して気になったことがあるんだけど……」



続けてトーリは、先日アリスと話したことを手短に説明した。


マックス・リシャベールと呼ばれる疑惑の存在と、彼の人物が国内で不審な動きを見せているらしいとの噂。

加えて、キングスコートの医療関係者が特に怪しいという、アリス自身の見立て。


どれも確証があるわけではないが、後者は当人の経験に基づいているため、信憑性は高いと思われる。



「キングスコートの……」



東間は何か思い当たる節があったように眉を寄せ、ミリィは何か閃いたように息を呑んだ。



「そうだ、罪人島!

忘れてたよ。それも聞こうと思って君に会いに来たのに」


「ああ……。やっぱり神隠しと関係あるんだね、あそこ」


「やっぱり?貴方もそう睨んでいたんですか?」


「なんとなくだけどね」



東間が再度パソコンを操作すると、今度はとあるサイトのトップページがモニターに映し出された。



「あ、これ……。罪人島のオークションサイトじゃないか。

流石ハッカーは先を行ってるな。なんでも知ってる」


「それはこっちの台詞だよ。あの島の実態まで把握済みなら話が早い。

ちょっと待ってて」



短く息を吐き出した東間は、一拍の間を置いて勢いよくキーボードを叩き始めた。

彼の指の動きに伴ってコンピューターは稼働し、モニターには不規則な記号が次々と打ち込まれていった。


一見すると何の意味もなさそうな文字の羅列だが、東間にとっては重要なスキルの一つ。得意のクラッキングというやつだ。

それに関しては全くの専門外であるミリィとトーリは、目の前の有様に目を白黒させるしかなかった。



やがて文字列がモニター一杯に満ちると、画面が切り替わった。

黒の背景に白文字で、機能性のみを重視した味気ないウェブデザイン。

そこに記載されているのは、恐らく世界各国の人名と思われる。


人名横のスペースには、ドル単位の金額が表示されている。

まるで、その者の価値を明示しているかのように。




「───オマエ、すっげえな。

オレらがあんだけ試行錯誤してもウンともスンとも言わなかったのに、こんなあっさり……」


「あれ、おたくらはアクセスできてなかったの?

サイトの存在知ってるなら、もうとっくに目を通してあるのかと……」



実はミリィ達も、このサイトの存在を以前から把握していた。

だが一般人もアクセスできるトップページから先は、厳重なパスワードが掛けられていたために進めなかったのである。



「ぐ……。まあいい。結果オーライってことで本題だ、チキショー」


「僕達の苦労は一体……」




このサイトはあくまで、島送りにされた罪人達の略歴を掲載した、島の収容所が管理するものとされている。

しかし、それは便宜上の標題。いわゆる表向きの顔である。


実際は例のオークションサイトとなっており、表示された人名の部分をクリックすると、詳細情報の他に現在の最低落札価格も閲覧できる仕様となっているのだ。


公開されているのは、本人の経歴や罪状を始めとした、性格、特技、個人的な趣味嗜好から主義主張に至るまでのプロフィール。

加えて、本人の全身とバストアップを写した写真画像である。


ここまで詳らかにやる理由は、商品としての価値を正しく紹介するため。

選ばれたVIP達は、これらの条件を吟味して目星をつけていくのだ。




「なんつーか……。やり方は普通にネットオークションだな。

罪人の一人一人が一個の商品だとして、取り扱い説明と、それぞれの値段と」


「名前の横にある値段は最低額で、あくまで基準だから。欲しいと思ったなら、少なくともこれ以上の金を用意しなきゃならない。

……こんなゲスいことが今でも普通に成り立ってるんだって、考えただけでゾッとするよ」



三人は暫くサイトを巡って罪人島の現状を調べたが、これといった収穫は得られなかった。

分かったのは、今尚あの場所では非道な人身売買が行われているという事実だけ。



「もうそろそろ閉じたいんだけどいい?あまり長居したくない」


「ああ」



人通り目を通した後は、万全を期して東間がページを閉じた。

モニターには先程のグラフが再び表示された。




「それから、もう一つ」



東間がトーリの方に顔を向ける。



「さっきあんたの話にも出たけど、キングスコートの医療機関が怪しいってやつ、おれも同意する」




落札された罪人達の行く末はどうなるのか。

いつぞやに東間は、彼らの足跡を辿ってみたことがあった。

結果、オークションに参加していたVIP達の身元が、おおよそ明らかになった。


内の七割は、海外からのアクセス。

オークションに参加した目的も、個人的に飼うため、もしくはボディーガードや下僕として囲うためという道楽的な理由が殆どだった。


一方で、残りの三割は何故か、国内の医療機関が占めていた。

世界各国に散らばる前者と異なり、こちらの元締めはキングスコートに集中していた。


残念ながら、彼らがどういう意図で罪人の身柄を買い取ったのかまでは定かでない。

ただ東間は、この件を経てキングスコートに目を付けるようになったという。



「(キングスコートの医療機関に、なにかある……?)」



アリスに続き東間も共通の推論を出したということは、手練(てだれ)の情報屋とハッカーが同じ点に着目しているということになる。

となれば、必ずそこに、なにかある。




「おれが把握してるのは、大体こんなもんだよ」



一区切り付いたところで、東間は椅子の背凭れに深く寄り掛かった。



「もっと深く掘り下げたいってんなら別に止めないけど、これ以上は協力してやれない。悪いけど、おたくらだけで何とかして」



急に突き放すような態度を取る東間に、ミリィは納得がいかず首を傾げた。



「なんだ、ここまで来といて断念したのか?かなり真相に近いところまで迫ってると思うのに」


「だからだよ。あと一歩でも踏み込んだら、取り返しのつかない事態になり兼ねない。

あんただって気付いてるんだろ?おれ達、相当ヤバいことに片足突っ込んでんだよ」


「………けど、お前ほどの力があれば、この先だって────」


「ミリィ」



なんとか食い下がろうとするミリィを、トーリが冷静に止める。



「残念だけど、もうよそう。

ここまでは、彼の手持ちを共有させてもらうだけに留まってるけど。これ以上もっととなると巻き込むことになる。

ハッカーといえど彼は一般人だ。僕らと違って執念もない。

本人が望んでいないなら、後はそっとしておいてやろう」




珍しくトーリが他人を気にかけている訳は、先日のアリスと東間の立ち位置が似通っているからだった。


東間と同じように疑問を持ち、同じように真相を解き明かしてやろうと行動に出たアリス。

情報屋とハッカー。究明の手段こそ異なるが、最終的に二人は同じ場所に辿り着いた。


そして、東間より少し先を行っていたアリスは、自分がこじ開けようとしていたものの正体がパンドラの箱であったことに気が付いた。

太陽に近付き過ぎて翼をもがれた男のように、常人は決して立ち入ってはならない領域にまで手を伸ばしたせいで、アリスは大切な部下を二人も失ったのだ。



"出来るなら、リシャベールとは接触せずに済ませてくれ"



引き返せる内はいい。

神隠しと直接関係のない東間に、アリスの二の舞を演じさせるわけにはいかない。

これ以上頼って、危険に晒すわけにはいかない。


そう懸念したからこそトーリはストップをかけたし、ミリィ自身もよく理解している。

だがミリィは、ここで放置するべきではないという確信も同時に持っていた。




「───わかった。君がそう言うなら、無理強いはしない。

ハッキングはあくまで趣味の範疇で、本業じゃないんだもんな」


「………。」


「ここまで協力してくれただけでも、オレ達的には充分な収穫だ。報酬は必要に応じて払わせてもらう。

他にも、オレ達に頼みたい事なんかあれば、遠慮なく言ってくれ」



ミリィが東間の肩に手を乗せる。



「ただな、少年。

オレにはどうしても、さっきの言葉が君の本音とは思えないんだよ」



もう関わりたくないと口では言いながら、ミリィに向けた東間の目は何かを訴えているようだった。

そんな怯えたような影を背負う東間を、このまま見過ごすべきではないとミリィは判断したのだった。



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