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オルクス  作者: 和達譲
Side:ZERO
263/326

Episode43-2:眷属



数年前にシャノンがスカウトして以来、バシュレー家の専属執事として務めていること。

それ以前の経歴については不明な点が多いが、本人が言うには長らく路頭に迷っていたらしいこと。

加えて、シャノンやミリィとの関係性、本人の外見的特徴や性格など。

傍から見て分かるだけのヘイリーのプロフィールを、ミリィはキオラに伝えた。


そして、一通りの説明が済んだ後。

シャノンから返信があり、ミリィは送られてきた数枚の写真をダウンロードした。




「これがヘイリー。

順に古い写真に遡っていくから、一番上のこれは近影だよ」



キオラ達の方へ移動していったミリィは、携帯をキオラに手渡して写真を確認させた。

キオラは一枚一枚を確かめながら、新しい順にスクロールさせていった。



「この顔────」




送られてきた写真の中で最も古い一枚が画面に表示されると、キオラの動きが止まった。


"一番下の写真は、ボクが彼を引き取って間もない頃のものだよ"。

"今とは大分イメージが違うように見えるけど、当時の彼はとても内向的で、滅多に喋らない青年だったんだ"。

"雰囲気は、やんちゃしてた頃のミリィに近かったかもしれない"。


そうシャノンがメッセージに添えていた通り、若かりし頃のヘイリーは今からは想像もつかない姿をしていた。

伸ばしっぱなしの髪によれた着衣、青ざめた肌に生気の宿っていない瞳。

見るからに浮浪者といった出で立ちは、路頭に迷っていたという言葉に信憑性を持たせるに充分だった。


ちなみにミリィも、この時点でのヘイリーとはまだ面識がなかった。

何故なら、正式に雇うことになるまで、バシュレー家はヘイリーを極秘に匿っていたのだ。

万一ヘイリーが札付きであったとしても、彼の身の安全を守るために。

故にヘイリーが浮浪者だった頃の顔を知っているのは、バシュレー家に属する一部の者だけなのである。




「どうした?なにか気付いたのか?」



アンリが窺うと、キオラはヘイリーの写真をアップにして答えた。



「最近の写真は、眼鏡をかけているから分かりにくかったけど……。この一枚を見て、やっと思い出した。

ヘイリー・マグワイアっていうのは、たぶん偽名だよ」



確信めいた言い方をするキオラに、ミリィは待ったをかけた。



「シュイの話によれば、ヘイリーが自分でそう名乗ったらしいんだけど……。

偽名だっていうなら、なんでわざわざそんなことを?」


「それは、私にもはっきりとは分からない。

ただ、本人に欺く気はなかったと思うから、きっと自分はそういう名前なんだって刷り込まれていたんだろうね。

本名は、チェスラフ・マジーク。出身は確か、チェコだったはずだよ」



言いながらキオラはスクロールを戻していき、今度は最も新しい写真を画面に表示させた。



「聞いたことのない名前だが、ミーシャはどうだ?」


「オレも初めて聞いた。多分シュイも知らねーんじゃねえかな」


「じゃあ、キオラはどこでそれを知ったんだ?」


「人格が入れ代わってる間のことだった気がするから、具体的な時期はまだ思い出せないけど……。

ヴィクトールの持ってる資料の中に、たまたまヘイリー君の写真が載ってるのを見かけたことがあったんだ。

それで、これは誰?って聞いたら、詳しいことを教えてくれた」


「詳しいこと?」



アンリが続きを促すと、キオラは朔の方を一瞥した。



「平たく言うと彼は、試作品のワクチンに初めて適合した人間。

いわゆる、被験体ゼロツーの眷属に当たる存在だよ」




"被験体ゼロツー"。

それは朔の出生時の仮称であり、FIRE BIRDプロジェクトを知る者なら誰でも知っている名前である。

つまりキオラの言っていることが事実なら、ヘイリーもプロジェクトの被害者ということになる。

そして同時に、既に眷属が生まれているということは、朔に由来した何らかの薬も完成済みということになる。

キオラと朔はいわばオリジナルの存在なので、そのレプリカといっていいヘイリーは初めて明らかになったケースだ。




「ってことは、シュイに拾われる以前の経歴が曖昧なのは……」


「経歴というより、本人の記憶そのものが改竄されているんだろうね。研究所にはその手に使えそうな劇薬が豊富にあるから。

私が今まで、自分を普通の人間だと思わされていたようにね」


「研究所に捕まった理由は、やっぱり神隠しが原因?」


「そう。奴らに拐かされる前までは、彼も地元で暮らす一般人だったはずだよ。

奴らが目を付けたほどだから、優秀には違いなかったんだろうけど」



ミリィからの質問に答えつつ、キオラは研究所でのことを思い出して、不快そうに眉を寄せた。



「つまり彼は、意図してキャラクターを作り替えられた上で、君のように世に放たれたというわけか?だとしたら何のために?」


「そこまではヴィクトールも話してなかったと思うけど……。

私と同じで、本人の行動原理を調べるために敢えて外界に放したか、或いは────」



アンリの質問に答えている途中、キオラは一度区切って再び朔に目をやった。



「行方の知れなかった朔さんに接触させるために、飼い犬に匂いを辿らせる目的で利用したか」




現段階でキオラが思い出せたヘイリーの情報は四つ。


彼の本名、出身地。

元は神隠しに遭った一般人であったこと、今は朔のDNAを取り込まされた眷属であることだ。

記憶を書き換えてまで人里に戻された理由は不明だが、何かしら朔と関係する目的はあったと思われる。

でなければ、敢えて自分達の手元から遠ざけるメリットは、研究所側にないはずだ。




「とりあえず、後でシュイに訳を話しておくよ。

ヘイリーの処遇については、まだなんとも言えないけど……。朔と接触したのをきっかけに、今後記憶が戻るかもしれないし。少なくともそれまでは、今まで通りバシュレー家に居させてやった方が良さそうだ」



この事態をシャノンとヘイリーにどう説明しようか、ミリィは悩んで頭を掻いた。



「そうだな。ワクチンの存在が明らかになったのは、こちらとしては頭の痛いところだが……。だからといって二の足を踏んでもいられない。

今は、せめて朔の身柄がこちらにあることを良しとしよう」




まだ話は纏まっていないが、今日集まったのはヘイリーについて論ずるためではない。

ヘイリーの件は一旦保留とし、アンリはそれぞれの身の振り方について話題を変えた。






――――――――



会議の結果、ミリィ一行とアンリ一行、そしてキオラは各々別の場所で作戦に移ることとなった。

まず前者の二組は、予定通りブラックモアとガオへ赴き、現地の主席に接触する。

ただしラムジーク州での前例があるので、当時のように体裁を繕う手は使えなくなった。否、必要なくなった。

ラムジークに繋がりがあるとされるブラックモアとガオでも、既にミリィ達の情報が伝わっている可能性が高いからだ。

つまり今回の来訪はただの謁見ではなく、直談判に近い形となる。

最悪、あちらに宣戦布告と解釈されてもおかしくない状況なので、下手をすれば争いに発展するかもしれない。

仮にそうなった場合、ラムジークの時以上の混乱と苛烈が予想される。


片やキオラは、黒幕の現在の動向を調べるため、平素通り研究所を出入りすることになった。

敵の本拠に改めて飛び込んでいくのは危険だが、キオラの記憶が戻ったことはまだ研究所側に知られていない。

今まで通り通院や検査の体で通い続ければ、今までにはなかった発見が見付かるかもしれない。


三者とも非常なリスクを伴う筋書きだが、その分真相に迫っているということでもある。


加えて、今回判明したヘイリーの正体。

彼の存在が今後どのように影響してくるのか。

出来ればこちらにとって有益であってほしい、とミリィとアンリは願った。







『A deadly poison』



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