Episode04-2:境界線
ウルガノの事情も考慮してタクシー移動をすることとなった一行は、二手に別れてプリムローズを出発。
約三時間をかけて、クロカワ州に到着した。
「────すごい街ですね、ここ。まるで刀の時代にタイムスリップしたようです」
「ウルは日本のこと詳しいのか?」
「いえ。ただ、日本刀には以前から興味がありまして。
銃が主流となった現代では、純粋な武器としての価値は下がったかもしれませんが……。
しかし何より、日本の刀剣は美しく洗練されている。昨今では、芸術品として欲しがるマニアも多いそうですよ」
「へー」
武器の話となると途端に饒舌になるウルガノ。
しかし彼女だけじゃない。
クロカワの独特な雰囲気に圧倒されているのは、他の三人も同じだった。
フィグリムニクス・クロカワ。
初代主席・黒川貴彦が統治した、日本愛に溢れる街。
幕末から明治にかけての日本をイメージして造られた街並みは再現度が高く、当時にタイムスリップしたような気分になれると、歴史ファンの間でも評価されているという。
クロカワに住む住人達は原則として和服の着用が義務付けられているため、有事外で彼らが洋装を身に付けることは滅多にない。
生活もテクノロジーには極力頼らないのが粋とされており、電化製品は必要最低限のものしか置いていない家庭が大半を占める。
つまり、洋服で街を歩いているのは殆どが観光客。
住人とそれ以外とを一目で見分けることが可能なのだ。
そして、クロカワが異色と言われる一番の所以。
"国内で最も永住審査の基準が低いこと"について。
秀でた才能や経歴がなくとも、クロカワは割と容易に民として受け入れる地域であるとされている。
実際の住人の中にも、白人や黒人の姿が多く見受けられ、人種的な隔たりがないことが窺える。
他州で居場所を失った国民らにとっては、今や最後の砦とも言える街となりつつあるのだ。
「───見ろよヴァン!こっち着物いっぱい売ってる!国民は割引だってよ!
スゲー、さすが本物はオーラが違うな。せっかくだし、帰りに一着くらい買ってくか……」
「こっちのは雑貨屋だな。珍しいものばかりに見えるが、全部日本の民芸品か?
あ、国民割引って書いてある」
「ミリィ!刀売ってますよ刀!模造刀ってやつですかね……。
あ、ここにも割引って書いてあります」
「マジかよカッケー!」
「ちょっとあんた達。なんのためにここまで来たと思ってるの。修学旅行じゃないんだよ」
日本の歴史情緒溢れる品々に目を輝かせる三人を、唯一冷静なトーリが順に回収していく。
よく見ればスーパーやコンビニなど近代的な商品を扱う店も点在しているが、どの建物も日本家屋風の造りで町の景観や雰囲気が損なわれないよう配慮されている。
その分外観で見分けることは難しくなっているため、目的の場所を探すには注意が必要だ。
「うーん、これは人気が出るのも頷けるな。街全体がテーマパークみたいなもんだ」
「でも、慣れてない奴は不便も多いんじゃないのか?
案内板なんかを見れば済むことだが、一目見て何の建物か分からないのは、ちょっと面倒臭いぞ」
「そのちょっと面倒臭い感覚も、ここでは粋ってことらしいよ?僕には理解できないけど」
「詳しくはネットに頼るか、現地の人間に聞けってこったな。
ここはあくまで、クロカワの民が住みやすいように出来てる。観光目的の外人も歓迎はされるが、郷に入っては郷に従えってな。
……それでも、どうしてもテクノロジーの便利さが恋しくなった時は、ここだ」
ミリィが自分のスマホを操作すると、地図の映像が空中に浮かび出た。
地図の"ある一点"には印が付けられており、印の横には日本語で"楓"の文字が並んでいる。
「"カエデ区"。通称"電気街"。
元はエンジニア向けに設立された区域で、エキゾチックな暮らしが苦手って奴は大体こっちに移住するらしい。
……ここに、例のハッカーがいるはずだ」
クロカワは大きく分けて三つのエリアに区分されている。
一つは、今ミリィ達の立っているここ、"ミカド区"。
和の文化を愛する者らが集ったメインエリアで、クロカワ州最大の面積と人口がある。
通称は"城下街"。これは初代主席、黒川貴彦の遺した御殿が正に城に見えることが由来とされている。
現在の御殿は、彼の孫である桂一郎の住まいとなっている。
二つは、二番目に住人の多い"サクラ区"。
ここは通称"芸術街"とも呼ばれ、文字通り芸術家が多く暮らすエリアとなっている。
ただし一口に芸術といっても表現方法は様々で、アニメーションや所謂萌え文化などもこれに含まれるため、一部の住民達からはオタク街などとも呼ばれている。
そして三つが、ミリィの着目する"カエデ区"。通称"電気街"。
前述のミカド区やサクラ区のように、性に合っているからという理由でも居住できるエリアとは少し毛色が異なる。
カエデ区は実際にエンジニアとして技能がある、乃至その道を志している者しか住めないシステムとなっている。
故に他二つのエリアとは温度差があるが、似た者同士の集まりということもあって、カエデ区の住人達は特に絆が強いとも言われている。
「今のところ、例のハッカー君について判明してるのは、若い男でめっちゃ頭いいってことと、物凄く人付き合いが苦手らしいってことだ。
みんな気を引き締めて行くぞ!」
「ざっくりしすぎでしょ。もっと他にないわけ?
外見的特徴とか、エンジニアとしてどんな活躍をしてきたかとか」
「それは直接会って聞けば分かることだ!
前情報に頼って判断を誤れば、二度とコンタクトをとれなくなる可能性もある」
「また行き当たりばったりか……」
あっけらかんとした様子のミリィを見て、トーリは今にも頭痛がしそうな気分だった。
「そんなに気難しい人なんですか?偏屈で人嫌いとか……」
「かもしれん。だから、どんなやつが出てきても絶対に狼狽えちゃ駄目だぞ。
すんごいデブでも、チビでもブサイクでも、絶対笑っちゃ駄目だからな。いいなお前達!」
「はーい……。(前途多難だ……)」
ミリィ以外の三人は覇気のない返事をして、一行はさっそく電気街へと向かったのだった。




