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オルクス  作者: 和達譲
Side:M
143/326

Episode23:後戻りはできない



11月11日。AM10:30。

倉杜花藍殺害事件の発生した夜から、六日目の朝。


数日に渡ってバシュレーの一族に匿ってもらっていたミリィ、そしてアンリ一行は、今朝共に屋敷を発ち、新たな目的地に向かってそれぞれ行動を開始した。


身寄りのなくなった朔のため、ミリィが彼女の後見人になるべく行政に掛け合っていた件については、昨日の内に決着がついた。

現地の主席であるシャノンの口添えもあったおかげで、通常より早くに申請が通ったのだ。


花藍の遺言にあった、スタンフィール夫妻への挨拶も既に済ませてある。

朔本人からも同行の旨を承諾済みだ。


というわけで、これからは朔もミリィ一行に加わることとなった。




"あまり権力を盾にするような真似はしたくないけれど、今は非常事態だ"

"プリムローズの長が背後に控えているとなれば、敵も少しは手を出し辛くなるだろう"


"ピンチになった時は、いつでもボクを頼ってくれ。

両親も君達のことをとても気に入ったようだし、頼めば二人は必ず力を貸してくれる"



この数日、最も良い働きをしたのは、やはりミリィ達の身の安全を確保してくれたシャノンだろう。


あの最中で、関わった全員が避難できる場所を提供したのは大きい。

完璧な安全地帯があったからこそ、ミリィも落ち着いて花藍の喪失から立ち直ることができたし、傷付いた朔にも心細い思いをさせずに済んだ。




"ボクにはこんなことしかできないけれど、この家はどんな時でも、君達のことを心から歓迎するよ"



プリムローズの主席という重要な立場にある彼なら、滅多に手を出される心配はない。

側には有能な使用人達も控えていることだし、命の危険に晒されるようなことはまずないだろう。


だが、今回の一件でスポットの当たったミリィ、朔、フェリックスの息子であるアンリと深い関係を持った以上、シャノンもまた敵の視野に入ったのは間違いない。


直接攻撃されることはないにせよ、見えない敵は今後シャノンの周辺も監視するようになるはずだ。

ミリィ達が再び彼と接触を図った時、万一生まれるかもしれない隙を見落とさないために。



それらを全て踏まえた上で、それでも毅然としているシャノンに対し、ミリィは屋敷を出る直前まで頭が上がらなかった。




"なにがあっても、ボク達は皆の味方だ"

"ボクはこれから、他州の主席と掛け合って、いざという時は我々の味方をしてくれるよう地固めをしておくから"


"だから、ミリィ。

どうか無事でいてくれ"


"武運を"



シャノンは交遊関係が広いため、他州の主席らとプライベートな付き合いをすることも少なくない。


それは偏にシャノンと、養父のナルシスの人柄あってこそ培われたものだが、この切迫した状況下で彼の人脈はとても頼りになる。


首都キングスコートのヴィクトールが黒であるのは、既に決定事項だとして。

巨大な勢力に立ち向かうためには、やはり味方は多い方がいい。


敵の射程圏内にとうとう踏み込んでしまったミリィ達を、彼らはいつどんな手を使って陥れようと仕掛けてくるかわらかない。

だからこそシャノンの言う通り、いざという時に助け舟を出してくれる存在が、一人でも多く必要なのだ。


ミリィ達が敵の本丸に王手をかけてしまえば、そこから先は遅かれ早かれ、必ず権力者同士の争いに発展する。


フェリックスの口車に乗せられ、自分達が善意で援助していた寄付金が、実は殺戮を伴う人体実験のために使われていた事実。

これが明らかになれば、ヴィクトールら関係者に非難が集中するのは目に見えている。


そして、ヴィクトール達も黙って非を認めることはしないはずなので、衝突は避けられない。

その後の流れ方によっては、多数決で是非が決する可能性もある。




"ありがとう、シュイ"

"必ず戻ってくるから"

"オレの帰りを、ここで待っていてくれ"



シャノンも、ミリィ達とは別の舞台で戦っている。

だからこそミリィは、もうシャノンに謝ることはやめた。


最後に交わした抱擁は、不安でも後ろめたさでもなく、確かな信頼が込められたものだった。


それをしっかりと受け止めたシャノンは、朔達を連れて去っていく親友を、力強く送り出した。




ここで、アンリとミリィは再び別れた。

プリムローズから西に向かったアンリ一行は、以前にも足を延ばしたというキルシュネライトに再訪することになった。


実は、シャノンの生誕記念パーティーの少し前に、アンリの携帯宛てに一報があったのだ。


連絡をしてきたのは、現地の主席であるエヒト・キルシュネライト。

一報の内容は、例の重要人物、ウォレス・フレイレがアンリとの面会を承諾したとの知らせだった。


前回接触を試みた時には本人の姿を確認することもできなかったのだが、エヒトが彼を説得することを約束してくれた。

おかげで、恩人のエヒトの頼みとあらば、とウォレスが譲歩してくれたのだ。



一方ミリィ達は、プリムローズの北東側、ラムジーク州へと向かうことになった。


理由は、先日のパーティーにラムジークの主席が顔を出さなかったことと、最近ラムジークの領域内で訳ありの失踪事件が頻発しているらしいとの情報を掴んだためだ。


ブラックモアに並んで閉鎖的な街といわれるラムジークだが、ブラックモアの主席と違い、こちらは内向的であるという話は聞かない。


となれば、全国の主席が一堂に会する機会にも現れなかったのは、単なる出不精が原因ではない。

何らかの疚しい事情を抱えているが故に、公の場には出てこられなかった可能性が高いのだ。



加えて、定期的に発生している失踪者の存在。

詳しい事情は不明だが、ラムジークでは近頃、若者の行方不明事件が急増しているのだという。


しかし、失踪者の親族らから捜索願いが出ているにも関わらず、ラムジークの自治体は積極的に調査を行っていないらしい。


身内を探す親族らにとって、この粗末な対応ぶりは不満以外の何物でもないだろうが、シグリムはそれぞれの州が独立した国だ。


ラムジークで起きた事件は、当然ラムジークの管轄で対処される。

被害が一個の領域内に留まっているのであれば、他州の自治体が横から口を出すことはできない。


とどのつまり、現地の警察が動いてくれない限り、被害者はただ泣き寝入りするか、自分達が個人で調査をする他ないのだ。


こうなってしまえば最早、警察など形だけのお飾り。

国内で最も治安が悪いと言われているのはガオだが、あそこは主に薬物の流通や違法賭博が野放しにされているだけなので、人の命に関わるような事件は今のところ起きていない。


それに比べ、ラムジークは一見クリーンなイメージで通っている。

日頃街で起きた暴力事件などには、警察もしっかりと対応している。


にも関わらず、前述の失踪事件についてだけは黙認で、まるでそんな出来事は最初からなかったかのような扱いだというのだ。



神隠しは世界各地で見られていた現象だが、何故かシグリムではそれらしい被害者が一人も出ていなかった。


それは単に、この国が全ての終着点であるからに違いないが、だとすれば何故この時期に、国内でも疑わしい失踪事件が発生するようになったのだろうか。



ラムジークで失踪事件が発生し始めた時期は、今から約一年前。

奇しくも、アンリが母を失った時期と、ほぼ同じタイミングだった。


ここまで条件が揃っているとなると、恐らくこの一致もただの偶然ではない。

例の神隠し現象がとうとうシグリム国内でも発生するようになり、その手始めの舞台がラムジークであると仮定するならば。


突けば必ず、なにか出る。



試しに鎌をかけてみて、顔を出すのが蛇であればまだいい。

下手をすれば、もっと凶悪なものを目覚めさせてしまうきっかけに成り兼ねない。


それでもミリィ達は、正面からぶつかっていくと決めた。


今更尻込みをしたところで、既に周りは敵に囲まれている状況。

ならば、躊躇う理由はあれど、諦める道はない。


自分達の正体が、敵陣営にも知られるところとなった今。

この逆境を逆手にとれば、もうこそこそと嗅ぎ回らなくてもよくなった、ということでもある。


攻撃は最大の防御。

こうなったら、向こうが潰しにくる前に、こちらから先に仕掛けていくしかないと。




「───待ってろよ、ヴィクトール・ライシガー。

お前を追い詰めるまで、オレは絶対に諦めないからな」


「───全ての真相に手が届くまで、もう目と鼻の先だ。

必ず、ヴィクトールをこの国の玉座から引きずり下ろす」





赤い髪の兄弟は、精鋭の仲間達を引き連れて、今、物語の最終章に向けて歩き始めた。



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