表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルクス  作者: 和達譲
Side:S
120/326

Episode16:不死鳥

優性の法則についてなど、勉強はしましたが、正直言って理論がかなり滅茶苦茶です。

あくまでファンタジーとして割り切ってお読み下さい。



FIRE BIRD PROJECT。

通称、CODE:FB。


その名の由来は、かの伝説の不死鳥、フェニックス。

俗に火の鳥とも呼ばれるフェニックスには、文字通り不死という属性が秘められている。


寿命を迎えると共に、自ら燃え盛る炎の中へ飛び込み、命を落とす。そして、再び蘇る。

何度も、何度でも。



誰しも一度は夢を見る、不老不死。永遠の命。

今や、人類の平均寿命も大幅に更新され、僅かであれば、意図してそれを引き延ばすことも不可能じゃなくなった。


だが、どれほど時代が進もうとも、技術が、文明が発達しようとも。

人の力で"永遠"を作り出すことだけは、何年先の未来でも不可能だった。


ここから先は、神の領域。

天変地異でも起こらない限り、決して人の手には届かない代物だった。



そう、不可能だった。はずだった。

しかし、ある一人の男が、不可能を可能にするために、許されざる禁忌の扉を開けた。


フェリックス・キングスコート。

彼がこのFIRE BIRDプロジェクトを計画した訳は、純粋に己が知的探究心を満たすためだけではなかった。




フェリックスは、過去数十年の研究の中で、ある一つの法則を導き出していた。


一昔前までと比べ、国際結婚もポピュラーな文化として浸透した近年。

昨今では、世界中でハーフやクォーターなどといった、混血人種の存在も多く見受けられる時代となった。


無論個体差はあるものの、異なる人種の血を受け継いだ彼らは、一般的に高いステータスを持って生まれるとされている。


中でも西洋と東洋のミックスは、双方の外見的特徴や文化に大きな差があることから、異なる血統から良質な部分のみを抽出して引き継がれる、という場合が少なくない。

ファッションモデルやタレントなど、芸能活動を行っている人間に混血人種の存在が目立つようになったのも、単純に彼らの容姿が美しいから、という理由が根底にある。



その中で、フェリックスはあることに気が付いた。


五種族以上の血統を引く人間が、軒並み長寿であったということ。

彼らのテロメアの長さが、平均値の倍以上を有していたということに。


驚くべきことに、条件に当て嵌まる人間のおよそ八割が、老衰という形で生涯を終えていたのだ。

一言で言ってしまえば、純血の人間よりも、より多くの血統を引いている混血者の方が、圧倒的に寿命が長いという研究データが出たのである。


これは、今ほど国際交流が盛んでなかった50年代、60年代の時点では、決して判明しなかったことだった。



悩んだフェリックスは、数多の葛藤の末に、ある一個の可能性を思い付いた。


"混ざった血の種類が多いほど、生まれてくる子供は、いいとこどりの洗練された人間になるのではないか"と。


当時1979年。

国家フィグリムニクスが創立されるよりも前の話。

壮大なプロジェクトの発端は、割と軽率な発想から始まったのだった。



FIRE BIRDプロジェクトの概要は、要約すると実に単純な研究だった。

言ってしまえば、優秀な人間から才能の一端を分けてもらおう、ということだ。


条件に当て嵌まる一部の混血者からDNAを採取し、それを元にワクチンを精製する。

このワクチンが正常に働けば、誰の肉体にも丈夫なDNAを取り込ませることができる。

即ち、素質のない一般人の寿命も、後天的に底上げが可能になるのでは、という理屈だ。



実験の第一段階は、まずその土台を作ることから始められる。


最低三種族以上の血統を引く若い男女から健康な精子と卵子を提供してもらい、それらを体外受精させ、被験体の女性に代理出産させる。

土台というのは、上記の手段で量産したデザイナーベビー、所謂試験管ベビーのことである。


この土台から採取したDNAを元に、本格的なワクチン精製が開始される。

言い方を変えれば、第一段階を突破しない限り、いつまで経っても肝心のワクチン作りに着手できないということでもある。


しかし、上記の仮説が正しければ、生まれてくる子供はより強靭なテロメアを有することになる。

土台のポテンシャルが高いほどに、ワクチンの効能も更に高まることが期待される。


そして、それらの組み合わせをパターン化することが出来れば、後のワクチン開発、流通に繋がる近道ともなる。

とどのつまり、改良を重ねていく毎に人類の寿命も右肩上がりに上がっていく構図になる、というわけだ。



だが、現実はそう上手くはいかなかった。


実験によって生まれてきた子供達には、これといった特質が見られず、テロメアの含有量も両親のものと比べて大差なかったのだ。


単純計算で考えれば、両親から最低でも三つずつ種族の異なる血を引いていることになるので、合計六種族以上もの血統を受け継いだ彼らは、その分だけテロメアを伸ばしているはずだった。


ところが、結果は期待通りとはいかず。

一般人と比べれば多少は優れているものの、最終的に土台として機能しそうな者は一人もいない始末に終わった。



これでは堂々巡り。

やはり、混血という要素のみでは、平均より勝る程度にしか成り得ないのか。

自分の仮説は、所詮現実味のない妄想に過ぎないのか。


試行錯誤の末の失敗続きに、フェリックスは生まれて初めての挫折を味わった。

途中で匙を投げることはなかったにせよ、一時期はプロジェクトが頓挫するかもしれないところまで困窮したほどに。


やがてフェリックスは、藁にもすがる思いで、あるものに手を伸ばした。

それが、彼の犯した第二の禁忌だった。



近親相姦。インセスト。

古来から最大のタブーとされてきたその行為が、何故に禁忌であるのか。


それは、単なる倫理や道徳の問題だけではない。

近親相姦によって生まれた子供は、遺伝的リスクが高いという説があるのだ。


生物を構築する物質の中には、劣性遺伝子と優性遺伝子なる二つの遺伝子が存在する。

そして新たな生命は、後者の優性遺伝子を体現して誕生するものと言われている。


劣性と優性という呼称は、客観的に見て優れているか否かという区別ではなく、どちらがより優先的に体現されるかということ。

つまり、両親から優性遺伝子と劣性遺伝子の両方を受け継いだ場合、その子供は優性遺伝子を体現し、劣性遺伝子は継ぐだけに留まって体現されないのだ。


ただ、中には有害なものを含む劣性遺伝子も存在する。

それを遺伝した子供は、確率は低いものの、生まれながらにハンディキャップを背負う可能性がある。


禁忌の所以は、つまりそういうことなのだ。


血族とは、祖先が同じであるということ。

祖先が有害な劣性遺伝子を有していたとすれば、当然その子孫達にも同様の遺伝子が引き継がれていることになる。


故に、近親相姦による遺伝的リスクが高いのは、どちらか一方ではなく、どちらも有害な遺伝子を持っている可能性があるからなのだ。



反面、血族同士の妊娠によって生まれた子供は、極稀に高いポテンシャルを秘めている場合がある。


これは、前述の混血者よりも更に能力が上であるという事例が多い。

極論を言うと、近親相姦はリスクが高い分、無事に生まれた子供が優等になる可能性も高いということなのだ。



追い詰められたフェリックスが、最後に着目したのがそれだった。


優性の法則については十分理解していた。

血族同士の交配は子供に悪影響をもたらす可能性があることも、万一の成功例にさえ明確な根拠がないということも。

全て承知していた。


全てを承知した上で、彼は賭けに出たのだ。

"混血の血族同士で交配をすれば、未だかつてないケミストリーが生まれるに違いない"と。



当時のフェリックスには、最早道徳心など欠片もなかった。


彼の頭にあったのは、ただ自分の立てた仮説を失敗に終わらせたくない、このまま引き下がるのは惜しいという執念だけ。

自身の強欲な発想が、軽率な行いが、いかに罪深く許されざるものであるかなど、全く気に留めていなかったのだ。


やがて、倫理感も、人としての責任も。一研究者としてのプライドさえ、いつの間にか塵と化し。

そんな彼を諭そうとする者もなく。


次第にフェリックスの情熱は、暴走へと変わっていったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ