Episode:00
色々とぶっ飛んでるので、軽い気持ちで読んで頂けると幸いです。
※国家や人物の名前をいくつか変更することにしました。混乱させてしまったらすみません。
西暦1994年。
今日より遡って30年前のある日、世界に新たな独立国家が誕生した。
"フィグリムニクス"。またの名を"シグリム"。
東経161度、北緯38度の太平洋に浮かぶ島国にして、君主制に近い制度をとる連邦国である。
公用語は英語。
面積は人工陸を継ぎ足した分も含めて、総計52.824.65km2。
総人口は2024年の時点で300万人ほど。
風土の特色としては、鳥との縁が深いという逸話が知られている。
島の輪郭が羽ばたく鳥に似た形をしていることや、珍しい鳥の固有種が生息していることが例に上げられる。
島の起源については情報が少ないものの、神秘の地として語られてきた歴史がある。
もともとは単なる群島かつ無人島で、一国家の領土となるまでは関心度も低かった。
ただし、それはあくまで"世間一般"の認識。
民俗学に精通した学者らの間では、予てより注目が集まっていた。
何故なら、本当に全くの"無人"島であったから。
広大な面積を有しているにも関わらず、先住民が暮らしていた痕跡が一切認められなかったからだ。
手付かずの緑と動植物のみが息づく聖域。
その領有権を定かにする文献は現存せず、となれば当然、聖域のままで置かれるはずはなく。
近隣諸国では長らく、版図を巡った緊張状態が続いていた。
調査や探求といった大義名分を掲げ、固有種の密猟を行ったり。
無断で陸地に道路を敷いたり、個人的な家や施設を建てたり。
あらゆる団体があらゆる手段を用い、既成事実を作り、一部区画だけでも私有化してやろうと目論んだ。
日増しに混沌としていく有り様は、まさに無法地帯だった。
あのまま小悪党同士の小競り合いが続けば、いつか戦争に発展していたかもしれない。
だが、現実はそうならなかった。
誰もが予想しなかった異例の形で、彼の領土問題は決着した。
1981年。
世界でも名だたる資産家の14人が同盟を結び、島々をそっくり買い取ったのだ。
莫大な費用と最先端の技術を以て急成長を遂げた島は、旗揚げから僅か20年ほどで近代都市へと姿を変えた。
既に開拓が進められていた分、無人島から有人島へ環境を整える手間を大幅に短縮できたわけだ。
そして1993年。
同盟の14人は、島を母体とした新国家の設立を宣言。1年後にこれが可決。
立ち上げに携わった少数精鋭と共にスタートを切るや否や、人口は右肩上がりに増えていった。
14人も実際に現地に移り住み、各自テリトリーを持つことで円満な連邦制が成立した。
テリトリーは便宜上"州"の扱いとなり、州を治めるリーダーは代々"主席"を名乗ることになった。
州の大きさや立地は建国宣言に至るまでの貢献度に応じて分配され、州の名前には初代主席のファミリーネームからとって命名された。
首都キングスコートを筆頭に、アメリカ籍のブラックモア、プリムローズ。
イギリスのロードナイト、ホークショー。
ロシアのヴィノクロフ、スラクシン。
中国のガオ、ユイ。
ドイツのキルシュネライト。
フランスのシャンポリオン。
イタリアのシャッカルーガ。
サウジ・アラビアのラムジーク。
日本のクロカワ。
先述したように大きさや人口比率は異なれど、そこに階級の差は設けられていない。
最も規模の小さいクロカワに対し、他が干渉することは無いし許されてもいない。
14の州全てが隔てなく、政に関わる資格がある。
しかし実権はキングスコート寄りで、キングスコートが良しとしない法案は実現が難しいとされる。
これはキングスコートの初代主席が同盟の主宰であったことに由来し、キングスコートが首都として登録された背景とも繋がる。
最後に。
永住権を得るための基準について簡潔に説明する。
人種、性別、年齢、宗教は原則問われない。
国民登録に必要となる条件は、大まかに分けて以下の二つ。
一つ、各州の主席その人から、直々に入国の許可を得ること。
二つ、必ず帰化すること。
つまりはリーダーの眼鏡に適った上で、自分はこの国の一部である誓いを立てろ、ということだ。
自然に恵まれ、経済に恵まれ、おまけに治安が良く人種的な差別もない。
今や医学と貿易の盛んな国として高く評価され、誕生間もないながらに大国と肩を並べるに至っている。
こうしてフィグリムニクスは、現代の理想郷と謳われるようになったのだった。
"あの国には秘密がある"
一つ疑問は残る。
このような前代未聞の珍事が、何故に罷り通ったのか。
賛否両論飛び交った中で、最終的には全世界が新国家設立に賛成。これといった障害もなく、建国計画は実行された。
謎は何処に起因するのか。
知る者は少なく、知らぬ者は生涯気付かない。
両者の間に立つ者がいるとすれば、果てに聳える大きな扉を目にすることになるだろう。
『It's anyone's call』




