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藤林家の勇者さま!  作者: 矢鳴 一弓
第一章 BAD END? いいえ、Welcome to New World
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第8話 魔族

「君という存在に巡り合えた事に感謝するよ。ありがとう」


 礼を述べ、樹希さんは右手を差し伸べる。それに応え、俺は彼と握手を交わす。

 話が終わり、壊した椅子を片付け書斎を出た俺は、そのまま真っすぐ自分に貸し与えられた部屋へと戻った。

 布団を敷き寝転がる俺は、彼の言葉を思い返していた。


「家族にならないか……か」


 樹希さんの発言は衝撃的だった。それは驚きの余り口を大きく開け、目を白黒させる程に。

 いきなり家族にならないか? と、問われ、ハイ喜んでと答える神経なぞ、俺は持ち合わせてはいない。

 ただ、その申し出はとても嬉しい。

 しかしそれだけに、彼はどうして見ず知らずの俺を、家族に迎えようとしたのか疑問に思った。

 だが、見も知らぬ異世界に一人投げ出された俺を、藤林家の皆は優しく手を差し伸べてくれたのだ。その一家の主から、家族にならないかと問われ、断ると言うのもどうかとも思う訳だが……


「ありがとうございます。とても嬉しいです。でも……その……」


 正直迷っていた。

 この申し出を受け、彼ら家族の一員になれるのなら、どれだけ幸福な事だろうか。それだけに、もし何か問題でも起きて、迷惑を掛けるのではないかと不安にもなった。

 俺は、「少し、考えさせて下さい」と答えて部屋を後にし、今こうして悶々とした考えに悩まされている。

 不意に、扉を叩く音が響いた。


「あの、ライト? 入って良いかな?」


 どうやらあかりのようだ。俺は「入って良いぞ」と彼女を部屋へ招いた。


「夜遅くにごめんね? もう寝る所だった?」

「いや、まだだよ。ちょっと考え事をしてた」

「そっか……」


 暫く沈黙が続く。

 それだけを訊きに来た訳ではないのは薄々気付いている。恐らく、樹希さんからどんな話をされたのか気になっているのだろう。しかし、どう訊けば良いのか分からない様子で、彼女は頻りに手を組んでは離したりを繰り返す。

 俺は痺れを切らし、話題を挙げた。


「親父さんに、家族にならないかって言われた」

「え?」

「行く宛が無いなら、この家に住んで良いってさ」

「ちょっと待って? ライト、家族に……なるの?」


 あかりは驚きの顔で俺を見る。

 そりゃそうだと、俺は自分で言った発言に苦笑した。

 しかし、次に見せた表情は、とても嬉しそうな微笑みだった。


「そっか、良かった」


 思わず俺は、彼女に見惚れてしまった。


「えっと、その……お前、抵抗無いのな」

「正直驚いたけど、あんまり無いかな」


 それに、と彼女は一言区切り、大きく伸びをした後こう呟いた。


「正直嬉しい方が大きいかな」


 はにかむような笑顔を浮かべ、まるで自分の事の様に喜ぶあかりを見て、俺の鼓動が大きく脈打った。


(あ、あれ? 何だこれ?)


 未知の感覚にどうして良いのか分からなかった。

 その後、他愛無い会話で盛り上がった後、彼女は部屋に戻っていった。

 俺は終始、あかりの顔を見る事が出来ず、別の意味で悶々とする羽目になった。




 翌朝、俺は寝惚け眼を擦り、何時もの様に歯を磨く。


(やばい、眠い)


 一度に考えさせられる事柄が増え、今まで以上に思考する時間を要され、結局昨日はあまり眠る事が出来なかった。

 朝食を食べ終え、日課の運動と、荷物事件を切っ掛けに使えるようになった魔力の制御練習を行うも、考え事や寝不足もあってか集中力が疎かになる。

 体内で循環させた魔力が、まるで繰り糸が切れた様にコントロールを失い、体外へと散って霧散した。


「はぁ、失敗か……。魔力勿体ねぇ」 


 因みに、魔力回復を促すマナメイトは、取り込んで魔力に変換すれば溜めこめる事が出来る。だが、使用しないままだと体外へ消えてしまう為、節約も含め、漏れ出ない様にする必要があった。

 元の世界ではそこまでする必要が無かった事もあり、実にこの練習が難しかった。

 だからと言って魔力が切れてしまったら、もう一度マナメイトを食べれば良いと言う訳にはいかない。数に限りがある事もそうだが、一日に使用出来るのは二つ迄とされ、それ以上摂取すると悪影響が出るようなのだ。

 荷物事件の後、たまたま荷物の整理として箱の中を調べてみると、使用上の注意と書かれたメモ書きを発見して知ったからだ。


「しかし、魔力が仕える様になったとは言え、せいぜい三十分……全力だと一瞬で切れそうだな」


 いくらマナを摂取できるとは言え、回復量はお世辞にも多いとは言えなかった。

 俺は雑念を振り払う様に首を振り、もう一度練習へと励むのだった。

 ある程度日課をこなした後は、明日美さんの手伝いとして家の掃除等を行う。

 一通り手伝いを終えれば、町の図書館へと赴き、調べ物や今後の為になるであろう勉強をする。


「いらっしゃい。今日も勉強?」


 館内に入ると、受付から女性の声が聞こえる。

 声の方へ振り向くと、眼鏡をかけたスーツ姿の女性が、笑顔で軽く手を振っていた。

 以前あかりに案内された当日、俺の大声に対して睨んできた職員だ。

 あれから良く利用する事もあってか、彼女に顔を覚えられていた。

 俺は軽く挨拶を交わし、めぼしい資料が無いかと様々なコーナーを物色した後、数冊選んで読書スペースへと向かった。

 陽も暮れ、一通り読み終えた俺は、本を元の位置に戻して図書館を出る。

 正直他にも読みたい物があったが、以前貸出を頼もうとしたら、どうやら所在を示す物が必要だと知り断念した。

 途中、立ち寄ったコンビニへで中華まんを購入し、それを頬張りながら家路へとついた。




「ただいま」

「あら、お帰りなさい」


 家へと辿り着き、明日美さんが出迎えてくれる。

 俺は居間へと向かい、ソファーに座る。

 ふと気付くと、樹希さんの姿が無い。

 どうやら俺が図書館に行っている間に出かけたようだ。


「お父さんなら、大学に行ったわよ? 仕事の事で報告があるからって」

「そうだったんですか」

「それで、お父さんに何か聞きたい事でもあったの?」

「はい。今日、図書館で読んだ本の内容に、少し分からない所があったんで」


 明日美さんは、「そうなのー」と、家事をしながら頷く。

会話が途切れ、特に話題も無かったので、俺は適当にテレビの電源を入れた。

 テレビを点けると、最初に映ったのはニュース番組の様だった。

 ニュースキャスターが様々な情報を読み上げていく。暫くすると、例の殺人事件についての特集が始まった。


「あら、最近多いわね。この前も同じ様な特集してたわ」


 明日美さんは家事を終えたのか、エプロンを外しながら俺の隣へと座る。


「犯人捕まらないみたいね。最近仕事先でもその話が多くて参っちゃうわ」

「そうなんですか?」

「だって、目撃者が貴方達じゃない。どうもその話が、職場の人の耳に届いちゃって」

「成程、依然のあかりみたいになった訳ですか」


 俺は苦笑を浮かべ、まだ議論を交わす番組を見ながら、事の事件について考える。

 あれから犯行は鳴りを潜めているようで、今はこれと言った事件は起きていない。

 現場が総じて墨田区近隣とされており、探すなら恐らくその付近となるだろう。

 問題は、縄張り意識の強い魔獣なら探すのは容易だが、相手が知性ある魔族なら、最悪の場合違う場所へと逃げられる恐れもある。

 本当なら、死体を発見した時、すぐにでも捜索するべきだったのだが、現場にあかりを置いて行く訳にもいかず、何よりろくな情報が無く、魔力コントロールも不安な状態では、見つけても返り討ちにされる恐れがあった。

 今は大体の魔力制御は出来るようになり、土地勘もある程度ついた。もし敵に接触してもなんとかなるだろう。


(なら、早いとこ終わらせないとな。明日美さん達に危害が起きない保証もないし)


 そうして俺は、今夜、捜索を慣行するのであった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 時刻は夜十時を迎え、俺は先に寝ると明日美さん達に伝える。

 自分の部屋へと戻り、密かに台所から拝借した包丁を鞄に詰めると、窓からこっそり家を出た。

 ある程度離れた所に出て、人気が居ない事を確認した後、俺はビルの屋上目掛けて跳躍する。後は同じように屋上や屋根を伝って目的の場所へと向かった。

 午前中、図書館で勉強の他にもある資料に目を通していた。それは、過去の新聞の切り抜きだった。

 初めて俺が事の事件を知った以前にも、数日前、あかりが病院に運ばれた時期に、同じ犯行と思われる事件があったそうだ。

 俺はその事件が起きた現場へと向かっていた。

 目的地の近くに着くと、人が居ない事を確認して地上に降りる。そして現場へと入り、辺りを見渡してみた。

 真っ暗な路地裏には、無数の傷跡が深く刻まれていた。

 時間が経っている為か、瘴気は既に感じられない。


「まぁ、予想通りだな。しかし、参ったなこれは」


 俺は付けられた痕跡を確かめながら呟く。

 あの時はろくに観察する事が出来なかった為、細かい推察が出来なかったが、今、目の前に刻まれた傷跡は、獣の爪痕と言うよりも、人の手に鋭利な刃物を装着して付けた様に見えた。


「獣人型の魔族か? いや、龍人型魔族の可能性も……」


 暫く思慮に耽るも、情報量が少なすぎる。

 俺は他に情報が得られないか、最初に死体を発見した場所にも足を運ぶ事にした。




「はぁ、結局目ぼしい情報は得られなかったな」


 最初に死体を発見した現場へと向かったものの、結局そこで得られたのは、最初に見た場所と同じ有様だった。

 結果、特に成果も得られず、俺はとぼとぼと重い足取りで帰路に付く。

 時刻は夜十一時をとうに過ぎ、恐らく家に着く頃には零時を迎える事だろう。


「コンビニ寄って何か買うか。あ、でも警察に見付かって補導されると面倒だしなぁ」


 等とぶつくさ呟いていると、不意に向かいから、白いフードを深く被った男性が歩いて来るのが見えた。

 顔は、辺りが暗い事もあって確認出来ない。

 背丈は俺と大して変わらない位か。ただ、体格よりもかなり大きめなフードを羽織る姿は、見ていて不気味に思った。


(アレが不良ってやつか? 治安が良い国とは言え、居るには居るんだな)


 俺は呑気にそんな事を考え、彼とすれ違う。

 すれ違った際、俺はある事に気付く。


(何だ、この匂い……それに――)


 一瞬俺は惚けたが、すぐに思考を戻し、踵を返して彼の後を追う。

 良く嗅いだ匂いが彼からした。

 それは、この世界では不釣り合いな、しかし、自身が良く知る世界では頻繁に嗅いだ匂いが……血の匂いがした。


(血の匂いだけじゃない! 微かだがこいつから――)


 追い掛けて彼の肩を掴み、深く被られたフードを取った。


「見つけたぞ……魔族め!」


 晒された男の顔は、人間の顔ではなく、牙を剥き出しにした獣の顔がそこにあった。

ここまで読んで頂き感謝感激♪

次の更新は2月22日22時を予定しております♪

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