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藤林家の勇者さま!  作者: 矢鳴 一弓
第一章 BAD END? いいえ、Welcome to New World
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第6話 不穏

 すっかり陽も暮れ、昼間の暖かさが嘘の様に、頬を叩く風はとても冷たかった。

 両手に荷物を抱えた俺は、自身の身体を擦る事も出来ず、ぶるぶると震えていた。

 あかりはというと、自分だけ暖かい飲み物を買って、隣でちびちび飲んでいる。不公平だ。


「なによ、荷物持ち位で文句言わない」


 やれやれと、彼女はわざとらしく肩をすくめ、片方の荷物を取り上げる。俺はやっと空いた手を軽く振って、近くの自販機へと向かった。

 機械に小銭を投入して、「あったかーい」の欄から何時もの様にコーヒーを選ぶ。ボタンを押して、ピッという電子音が鳴り、選んだ商品が出るのを待った。


 しかし、自販機からは何も出ない。


 もう一度押しても、釣銭のレバーを押しても、自販機からはうんともすんともしないのだ。


「もしかして……飲まれた?」


 必死で笑いを堪えるあかりは俺に問う。

 もしかしなくてもその通りだった。


「おのれ自販機め! 俺の小遣いを返せ!」


 往生際悪く、俺は只管に釣銭レバーを何度も押す。しかし、お金は返って来る気配は無い。

 俺はガックリと肩を落とし、その場を後にしようとした。

 そこでふと、自販機の下に何か光る物が見えたような気がした。俺は思わずそれを覗き込む。


「ちょっと、みっともないから止めなさいよ」


 あかりの制止も気にせず、俺は底を覗いてみると……


「ん? 何だ? 銀の……歯?」


 そこには、小銭では無く歯医者の治療で使われる銀歯が転がっていた。

 拾い上げ、よくよく見てみると、それには血がビッシリとこびり付いていた。

 無理やり引き抜かれたのか、それとも何かにぶつかってなのか、それは普通に取れるよりも汚れていた。


「うわっ、ライト、何拾ってるのよ」


 気色悪いと顔を歪ませるあかりを他所に、俺はその銀歯を凝視する。そして、ちょうど自販機の脇、ビルとビルの隙間に視線を移した。

 残り片方の荷物を無言で手渡し、その隙間へと入っていく。彼女は慌てて俺の後を追おうとするが……


「来るな!」


 俺は語気鋭く言い放ち、彼女をその場で制止させた。

 恐らく彼女は見えていないだろう。いや、見なくて良い。そこには――


 ズタズタに()()()()()()()()()()()()が転がっていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 死体を発見して暫くした後、現場に警察が駆け付ける。俺があかりに指示して呼んでもらったからだ。そして、俺達は遺体の第一発見者として取り調べに応じていた。

 発見した際の事細かな事を聞かれたり、指紋を採取されたりと、とにかく長い時間を警察署で過ごす。事情聴取が終わり、やっとの事で開放された俺達は、家に着いた頃には夜中の一時を過ぎていた。


「いきなり仕事先に、警察から電話が来た時は何事かと思ったわ」


 明日美さんはというと、警察からの電話に驚き、慌ててパートを抜け出して来たそうで、仕事着のまま待合室で、俺達が開放されるのをずっと待っていたようだ。俺達が取調室から出て来ると、力強く彼女に抱き締められた。

 あかりはよっぽど堪えたのだろうか、明日美さんを見た途端、安心感からかストンとその場で眠ってしまった。

 結果、俺は彼女を担いで家まで連れて帰る羽目になり、現在に至る訳なのだが……


「そう言えば、警察の方が言ってたけど、ライト君、すごく落ち着いた対応をしたそうね。今時珍しいって」


 明日美さんは夜食を作りながら問う。

 俺は、「別に大した事は無いですよ」と答えた。

 と、言うのも、ヴァーリ・スーアでは人死になんて日常茶飯事の事だったからだ。魔物や盗賊に襲われるとか、疫病で倒れるとかも含め、今居る日本に比べるとそこは、とても治安が悪いのだ。だがらと言って、死体を見慣れてると答えるのは不謹慎だと思った。特にこの世界では。

 それに、俺も例に漏れず、元の世界で人類を守っていたとは言え、その過程で人死に・人殺しを経験しているからだ。

 刃を突き立てて刺した肉の感触や、火炎魔法で焼けた人の臭い等……それらをその一言で片付けるのに抵抗があった。

 そう言えば昔、ガルオゥムが言ってたっけ……


『生殺与奪を許されたのは我々人類だけでは無い。この世界に生きとし生けるもの全てに与えられた権利じゃ』


 あの時、まだ俺が旅に出て間もない頃の事だった。

 とある村が盗賊団に襲われ、焼き払われていた所に遭遇した俺は、怒りを露わに襲い掛かった。

 我を忘れ、がむしゃらに振るった剣は、盗賊達全てを斬り殺していたのだ。

 事が終わり、我に返った俺は、そこで初めて人を斬ったのだと理解した。それは、とても気持ちの悪い事だった。

 だが、そんな俺にガルオゥムは優しく諭してくれた。


『確かにお前は人を殺めてしまった。じゃが、ほれ見よ。あそこに居る者を。お前が救った命だってある』


 ガルオゥムの言葉はまだ続く。


『救った命があるなら誇れ。じゃが、無暗に奪う事は愚かじゃ。例えどうしようも無い悪党じゃったとしても、な。じゃが、奪わなければ救えない事もあるのもまた然り――』

「ならば、その責任を負うのもまた、生きとし生けるものの権利……か」


 俺は、そう呟き、あの死体の事を思い返していた。

 アレは、許されない事だ。殺す事が、では無く、殺し方が……だ。

 人を殺す事は大きな罪だ。だが、あれは明らかに異常なのだ。人間があの様な殺し方をするなんて出来る訳がない。

 何故なら、飛散した四肢、傷口、そしてあの血塗れの銀歯には、ある何かが付着していたのだ。


(アレは……間違いない――瘴気だ)


 傷口の至る所に、僅かながら瘴気の残滓を感じ取れたのだ。

 さらには、何か鋭い物で抉られ、引き千切られた様な箇所だってあった。


(恐らく、魔族か魔獣の類だと思う。それに、あれは明らかに捕食としての殺され方だ)


 憎むべき敵、人類にとって最大の悪。ヴァーリ・スーア中を混沌の渦へと叩き落したそれが、この世界に現れたのだ。

 奴らだけは生かしてはならない! 人道に反した奴らだけは!


(だが、どうしてこの世界に? そもそも一体どうやって?)


 俺はぐるぐると思考を巡らせるが、いくら考えても答えが出ない。

 不意に、ぐぅ、と腹の虫が鳴りだす。そう言えば、百貨店の帰りから今まで何も食べてなかった。

 そう自覚すると、余計腹が減ったので、俺は一旦考えるのを止め、明日美さんの夜食が出来るのを待った。

毎度読んで頂き感謝感激(´;ω;`)

矢鳴です♪


さて、別に気にしていませんがバレンタインデーですね~

爆発すればいいのに


ともあれ、2話分更新

次回の更新は2月20日の22時を予定しております♪


閑話休題

地元のコンビニで、その店員の男が、後輩の女子にチョコをプレゼントされる所を目撃したんだが……

うん、消し飛ばしたい


なんていうねw 冗談ですよ! 別に羨ましくなんてないんだからぁ!

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