第2話 突き付けられた現実、こんにちは異世界
俺の目の前には、三つの何かが置かれていた。
一つ目は三角形の固形物。薄く透明な紙で包装された、中身が黒い物体だった。隙間からは、白い物が覗いており、それが米を用いて作られた食品だと分かった。
次の品はすぐ分かった。
薄くスライスしたパンに具材を挟んだ料理、サンドイッチだ。それも同じ様に薄く透明な紙で包まれいた。
最後は特徴的な紙の箱だが、おもむろに振ってみると液体の音が中で響いている。どうやら飲み物の様だ。
さて、どうしたものか……
中身を取り出して食べようにも、開け方が分からない。
俺は、この品々を提供してくれた少女に問う。勿論言葉は通じない。
彼女は少し困った表情を見せるが、どうやら俺が封を開けれない事に困っていると察してくれたようで、代わりに中身を取り出してくれた。それを受け取り、俺はすぐに頬張った。
久しぶりに食べたまともな食事は、とても……しょっぱかった。
腹も膨れ、体力も回復した俺は彼女に礼をする。彼女もどう致しましてと笑顔で礼を返す。
何かお返しが出来ないものかと荷物の中身を漁ってみたが、あるのは薬草位で、彼女が喜びそうな物は無かった。
不意に少女は立ち上がり、俺を指さした後、身振り手振りで何かを表現する。
最初は両手で三角を大きく描こうとしたと思ったら、途中で平行に腕を下す。それを脇に置いて、その中に入る仕草を俺に見せた。
始めは何だ? と思って見続けていると、その描写が家に入る仕草だと分かった。
次に彼女の両手が合わさり、それを頭の側面に添えて首を傾げるポーズを取る。これはすぐに分かった。そして最後、また俺に指を向ける。
つまり彼女はこう伝えたいのだろう。「貴方の帰る家は何処ですか?」と。
質問の意図が分かり、俺は首を横に振る事で答えた。
因みに寝る描写は必要だったのだろうか? と、今は突っ込まないでおこう。
少女は再び困った表情を浮かべ、何か考える素振り見せた後、いきなり俺の腕を掴んだ。
「え? あ、ちょっと!?」
俺は突然の行動に驚き問うが、彼女には言葉が通じない。ついてきてと言わんばかりに、ぐいぐいと腕を引っ張る。
何か意図があっての行動なのは分かる。その為俺は、されるがままに彼女の後をついていく事にした。
暫くすると、とある家の前に立ち止まる。どうやら彼女の家のようだ。
少女は中に入るよう促し、俺は玄関をくぐる。更に奥へ進もうとした時、彼女が俺を制止させた。
彼女が足元を指さす。
どうも、俺がブーツを履いたまま上がろうとした事を止めたようだ。
そうして中へと進み居間に案内されると、此処で待つように促され、彼女は奥へと行ってしまう。
暫くすると、数冊の本と丸い模型を持って戻ってくる。その一冊を開き、俺に見せてきた。それは全く見たことの無い地図だった。
彼女は続けざまにに丸い模型を指さし言う。
「ちきゅう、ち・きゅ・う」
「チ・・・キュウ?」
どうやら円形の模型をそう言うらしい。
更に先ほどの地図に指で円を描き、また模型を指さした。そこで俺が彼女の伝えたい意図が分かった。
良く見ると、球体にも同じ図柄が描かれている。そして、俺はその地図を見て、一つの考えが浮かんだ。
その地図には、自分の知っている土地が描かれていない。
少女はその一部分を指でなぞり、次に自身の足元、もとい、今俺達が居る土地を指さして語る。
「ここ、にほん。に・ほ・ん」
そう、俺はやっと自分の置かれた事態を把握した。
知らない土地ではなく、知らない世界、異世界に来てしまった事を理解した。
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どうやら俺は、魔王城の崩壊に巻き込まれた後、ヴァーリ・スーアから地球、その内の一つの国、日本へと転移してしまったらしい。
ちなみにヴァーリ・スーアとは、俺が元居た世界の名前である。
世界の中央に位置する巨大大陸、セント・エメテ、その四方を様々な大陸や島が浮かぶ広大な世界で、俺はそこで勇者をしていた。
しかし、魔王城の崩壊で生き延びれたのは幸運だったが、あとからこの様な不幸がおまけに来るとはこれ如何に? だ。正直嬉しくない展開である。
ともあれ、こうして生きているのだから、この先どうしていこうか考えないといけない訳だが。
そんなこんなで、俺は未だ目覚めきっていない頭を動かし、今後の事を考えながら洗面台で歯を磨いていると……
「おっはよう!」
「がっ!? んぐっ!?」
思いっきり背中を叩かれ、口に含んだ歯磨き粉を盛大に飲み込んでしまった。
げほげほっと咽る俺。その様子に、「あ、ごめん」と笑顔で謝る少女の姿がそこにあった。
「あかり……てめぇ!」
「ごめんって謝ったじゃん。ほら、めんごめんご」
「それが人に謝る態度か! そこになおれ!」
憤慨する俺に、きゃははと笑う彼女の名は、藤林あかりと言う。
そう、俺がこの世界で最初に出会った少女で、路頭に迷った俺を救ってくれた恩人だ。
性格は快活の一言。とにかく明るく忙しない。
あかりは後ろに結った茶髪を靡かせ、パタパタとスリッパを鳴らして居間に逃げ込み、とある人物の後ろに隠れて舌を出す。
「きゃっ!? あかり?」
台所で朝食の支度をしていた女性は、いきなり背後に隠れるあかりに驚き、思わず皿を落としそうになる。
「あかり!? 朝からどうしたの? あら、おはようライト君」
「おはようございます、明日美さん」
俺に気付き、にこやかに挨拶を交わす女性の名は藤林明日美。あかりの母だ。
「またあかりがちょっかい出したの? 本当に仲が良いわね、あなた達」
彼女は俺とあかりを交互に見やり、その様子にくすくすと笑みを浮かべた。
彼女は、「それよりも」と、一言区切り……
「朝ごはん出来たから冷める前に食べなさい。ライト君は早く口を濯いできてらっしゃい」
「「はーい」」
俺とあかりは、明日美さんの言う事に従い、当たり前の様に朝食を摂ったのだった。
そう、俺は今、藤林家にお世話になっていた。
7日中に投稿する予定だった2話がまさかの日をまたぐとは(-_-;)
確か投稿時間の予約も出来るんだっけ? 今度有効活用してみようと思います。
そんなこんなで2話目も投稿終わり、まだまだ始まったばかりのこの小説、
次回は2月12日を予定しております♪
おやすみなさいZzz