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藤林家の勇者さま!  作者: 矢鳴 一弓
第一章 BAD END? いいえ、Welcome to New World
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第9話 追走と再会

 フードを剥がれ、露わになった魔族は、唸り声を上げて俺を弾き飛ばす。

 突き飛ばされ、俺は数メートル転がるが、すぐに態勢を整え身構える。

 魔族は低く唸ると、姿勢を低く構え、俺を見据えた。


「ヨク……キヅイタナ」

「へぇ、喋る位には知能があるのな」


 俺も構えを取り、魔族の出方を伺う。

 露わになった顔は、まるで虎か豹を思わせる様な風貌をしていた。

 袖からは、長く鋭い爪が覗いている。


「お前は、どうやってこの世界に来た?」

「シラ……ナイ……」


 会話は成立するが、何処か怪しい。

 魔族は時折苦しそうに呻いている。


「ソレ……ヨリ、クワセ……ロ……」


 次第に魔族の身体が隆起し、徐々に膨らみが大きくなる。フードがその肉体に押し出される様に、肢体をハッキリとさせる。

 気付けば俺の二倍位はあるだろうか、その巨体が鋭い眼で此方を睨んだ。


「クワセロォォォォォオオオオオ!」


 咆哮と共に、巨腕から繰り出される一振りが俺を襲う。

 俺は咄嗟に後方へと飛び退き、魔族の一撃を躱した。


「ぐぅっ!?」


 辛うじて避ける事が出来たが、共に襲う風圧に全身を叩かれ、そのまま電柱へと叩き付けられる。


「痛ぇ。なんて力だ」


 予め肉体を強化していたとは言え、受け身が取れず、電柱に背中を打ったのは流石に痛い。

 魔族は尚も攻める。剥き出しの爪が確実に獲物を切り裂かんと迫ってきた。

 今度は俺も攻め返す。

 勢いを付けて身体を捻り、振り切ろうとする腕を右足で蹴り弾く。その流れのまま回転して、左足の踵で魔族の顔面へと叩き込んだ。

 強烈な一撃を受け、よろめく魔族にもう一撃と、俺は着地してすぐ相手の懐へ拳を叩き込んだ。

 しかし、その拳は空を切る。

 寸前の所で身を翻し、そのまま背を向けて走り出したのだ。


「なっ!? 逃がすかよ! 待ちやがれ!」


 俺は逃げ去ろうとする魔族の後を追う。


「くそ、速ぇ!」 


 相手は獣人型の魔族。特に、発達した四肢を持つ者は総じて足が速い。

 四足で移動する姿はまさに獣だ。立体的な動きで翻弄しつつ、ビルの上へと跳ねる。

 このまま完全に見失うのはまずい。そう判断した俺は、温存している魔力を一気に練り上げ唱えた。


雷迅天装(らいじんてんそう)!」


 練り上げた魔力が紫電の如く光輝く。全身を包み、飛躍的に肉体が強化される。

 俺は力任せに地面を蹴った。

 アスファルトが捲れる程の脚力で跳び、一瞬で魔族の眼前へと回り込んだ。


「逃がしゃしねーぞ。覚悟しな」


 すれ違いざまに回し蹴りを浴びせ、空中から屋上へと叩き落とす。そのまま落下の勢いを借りて、鞄から取り出した包丁を翳し、相手の喉元目掛けて振り下した。

 ザンッ! と確かな手応えがあった。

 しかし、切り飛ばしたのは首では無かった。


(こいつ……腕を!?)


 無理やり上体を曲げ、自身の左腕を犠牲にして躱したのだ。

 魔族は、斬られた傷口から血飛沫を飛ばし、俺の視界を塞ぐ。


「グゥッ!?」


 視界を奪われたじろいだ瞬間、腹部に重い痛みが奔った。

 身体が宙に浮くのを感じる。

 次に背中を強打される痛みが襲い、俺は地面へと叩き付けられた。

 全身に鈍い音が響く。


(まずい!?)


 俺は転がる様に距離を開ける。しかし、魔族は容赦無く追撃を加えようと、残った腕を振るい、斬撃を繰り出そうとしていた。

 それはまるで、死神の鎌の如く、命を刈り取りに迫る。


「クソッたれ!」


 咄嗟に包丁を翳して爪を弾くも、その衝撃で粉々に砕ける。また、弾いた反動で、俺は屋上の外へと押し出されてしまう。

 魔族は落ちる俺を一瞥した後、そのまま姿を消した。

 俺は跳び去って行く魔族の背を睨み、ビルから落ちていった。




「ぐっ……うう……」


 俺はビルの壁面に背中を預け、苦痛に顔を歪ませる。

 全身が悲鳴を上げ、これ以上は無理だと脳に警告する。

 魔力は戦闘で大部分を消費し、更に落下の衝撃に耐える為に振り絞ったせいか、殆ど使い切ってしまった。


(このままじゃ、また被害が増えちまう)


 完全に逃げられてしまった。とんだ失態だった。

 これ以上、関係の無い人間が魔族に襲われるのを阻止しないといけない。

 しかし、絞り尽くした魔力を背面に展開して和らげたとは言え、強く身体を打ったせいか、痛みで動けない。

 辛うじて手は動かせる。

 俺は、傍に転がっている鞄に手を伸ばした。


(まずは、魔力回復が先か……)


 念の為、鞄の中には先程の戦闘で砕けてしまった包丁の他にも、数個のマナメイトを入れていた。

 魔力がある程度回復出来れば、肉体強化の要領で身体を活性化させ、傷を癒す事が出来る。

 俺は鞄を漁り、その一つを取り出そうと手を入れた。


「あ……あれ?」


 しかし、幾ら探ってもそれは出てこない。


「マジかよ?」


 寧ろ、中身が無い。

 鞄の底は見事に破け、そこに入れていた物が消失していた。


「嘘……だろ!?」


 どうやら、落とされた拍子に何処かに引っかかったのだろう。底は無残に裂けてしまっていた。


「何て事だ……」


 俺は鞄を投げ捨て、暗闇の中、一人黄昏る。

 ビルの隙間から、時折車のライトが通り過ぎて行く。


「なんて……惚けてる場合じゃないな」


 俺は満身創痍の体に鞭打ち、気力を振り絞り立ち上がる。

 足を引き摺りながらも、それでも魔族の後を追おうと、逃げた方角へ歩き出した。




 今はどの辺りだろうか? 痛みで朦朧とする意識を何とか保ちながら、暗い夜道を彷徨っていた。

 魔族は北東へと跳んで逃げた。その方角に進めば手掛かり位は見付かるだろう。そう予想して進むも、それらしい物は見付からない。

 仮に見付かったとしても、それは嬉しい手掛かりでは無いだろう。


(まぁ、流石に逃げながら人を襲われちゃ敵わないからな)


 速い所、見付け出して倒さなければ、より一層の被害が出る可能性が高い。

 奴は飢えていた。

 俺と同様に魔力を失い、酷く飢えていたのだろう。

 昔、魔族の生態を調べた学者に聞いた事がある。

 ある一定の魔力量が下回ると、魔族は酷い飢餓感を感じるそうだ。

 原因は詳しく覚えていなかったが、内包する瘴気に関係するらしい。

 この一連の事件は、その飢餓による暴走が原因なのだろう。故に、奴は飢えを癒そうと人を襲った。

 しかし、魔族が人を殺めない事など無い。

 奴等にとって人間は、滅ぼす対象なのだからだ。

 それが、戦争だろうが飢えを凌ぐだろうが関係ない。ただ、奴等は人を殺す。


(許せるかよ! そんな事!)


 ギリギリと奥歯を噛み締め、未だ悲鳴を上げる肉体を動かす。

 しかし、あの時の戦闘で、俺をビルから突き落とした後、止めを刺さなかったのは疑問だった。

 多少の理性が残っていた筈なのに、奴は俺を見逃したのだ。

 仮に、理性が無かったとすれば危なかったが、それでも不思議に思う。

 それはそれで助かったのだが、流石に腑に落ちない。

 もし逆の立場なら、仕留めるべきだと思うのだが……


(考えても仕方ない……。今は、奴を……――)


 不意に、足が縺れてしまい前のめりになる。咄嗟に反応出来ず、そのまま盛大に倒れてしまう。

 受け身も取れず、ダイレクトに地面へと激突した為、凄く痛い。非常に痛い。


(これ……不味くないか?)


 気が抜けた訳ではない。だが、身動きが取れない。

 身体に力が入らず、起き上がる事が出来ない。

 恐らく体力に限界が来たのだろう。指先ですら動かせない。


(やばい……目が……霞む……)


 意識が遠のいていくのが分かる。微睡が襲う。

 俺は必死に手放さぬ様に抗うも、抵抗空しく、暗闇の中へと堕ちてしまった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 目が覚めると、そこには見慣れない天井があった。

 木の板を張ったそれは、依然、図書館で読んだ日本の文化に出てくる資料に、これと似た物が載っていた。

 辺りを見渡せば、床一面が畳で敷き詰められ、所謂和室という様式の部屋だと分かった。


(って、何どうでも良い事を考えてんだ俺? それより何で俺は布団の中に?)


 気付けば俺は、布団に寝かされていた。

 魔族を追っている最中に意識を失った俺を、誰かが介抱してくれたのだろう。


(まぁ、道端で倒れてそのままよりはマシか。むしろ病院に運ばれたら、明日美さんにどう説明すりゃ良いんだ?)


 魔族を探しに家を出たとは言えない。むしろ、黙って家を出た挙句、大怪我を負ったと知れば、考えただけでも身震いがする。


(それよりも、今何時だ?)


 俺は他も見渡し、何か時刻を確認出来る物は無いかと探す。


「安心せい、一日も経っとらん。今は午前の二時じゃ。しかし、良く短時間で意識を回復させたのう。流石は勇者と言う所か」


 不意に、聞き覚えの無い声が響く。それより何故、俺が勇者だと知っているのだろうか?

 俺は声のする方へ顔を向けると……


 そこには小さな太ももがあった。


「何処を見ておる! この痴れ者が! もちっと上じゃ上!」


 言われるままに視線を上げると、これまた見事に知らない人物が、と言うより、少女がそこに居た。


「誰?」


 俺は思わずそう問う。

 問われて少女は立ち上がり、無い胸を精一杯張ってこう答えた。


「我は魔王! 久しいな勇者よ」


 魔王と名乗る少女は、したり顔で俺を見下ろした。

 因みに俺の視線は、立ち上がった少女の位置が良いのか悪いのか、丁度スカートの中を覗く形になってしまった。


 それはそれは、とても可愛らしいイチゴ柄だった。

此処まで読んで頂き感謝!

そしてブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます!

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!

また、誤字や脱字の報告だけでも構いません。感想など受け付けていますので、宜しくお願いします♪


さて、次回の更新は、2月28日の12時を予定しております。

藤林家の勇者さま! 今後ともよろしく!

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