微笑みの裏の少女のおはなし(ニ)
「......あのなぁ。まだ秘密ってどういうことだよ。」
ほののんとした少女に問いかけた。少し、いやかなり気になることをいっているのだ。ここでお預けされるのは気に入らない。
「え?また明日ってことですよ?」
「はぁ!?意味わかんねぇんだけど!なんでだよ!気になんだろ、今言え、すぐ言えよ!」
「えぇー。だって、もう夕暮れですし、さすがに私もおうちに帰らなければなりませんし。」
「おうちって幼稚園児か!とかいうのはおいといて、何でだよ!俺が家出たのは朝だぞ!時間おかしいんじゃないのか!」
「いやだって、もうきれいな夕焼けですので時間がおかしいとかそういうことはあり得ませんって、それに、あなた気絶してましたからね。あるとすればあなたの時間感覚が狂っているのでは?」
いかにもな正論を言われてしまい返す言葉を失ってしまった。
「......マジかよ......」
「マジです。」
「こういうの俺だいっきらいなんだけど。」
「みたいですね、そんな顔をしてます。」
沈黙をさえぎるようにカラスが鳴いた。しかし、五感がすべて停止している俺には関係のないことだった。少女の言う通り時間感覚が狂っているらしく数時間も黙っているように感じた。
パンッ
手を叩いた音が響いた。もちのろん俺にはそんな気力さえないため叩いたのは、あの少女だ。
「そうだ!まだお母さんもお父さんも帰っていないからうちに来ますか?そしたらおはなしの続き、お聞かせしますよ?」
俺は、ハッと少女の方を向いた。
「しかし、ただじゃありませんよ?最近のところ、物騒なことが続いていますからね、家までしっかり守っていただくこと。どうですか?そう悪くない話だと思うのですが。」
こんな良い話にのらない訳にはいかない。俺は、勢い良く頷いた。
少女の家までの道のりはそう遠いものではなかったた。
「そういえば、お前お前と呼んでいましたがこんなに可愛らしい少女をそんなふうにどうなんですか?」
「ほんとにかわいい女は自分の事を可愛らしいなんぞ言わねえよ。」
「まあ!ひどい。どうしましょ私のおはなし聞きたくないと言うのですね。せっかくこちらに提供できる情報があればおはなししたかったのに、残念です。」
いかにも、俺の事を遊んでいるとしか思えない発言だったが、本当に機嫌を損ねられてなにも言われなくなるのも困るので、わりぃと取り合えず謝っておいた。しかし。
「名前も聞いてない奴を何て呼べば良いんだよ。」
「まず人の名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀と言うものです。」
「あぁそうかい。まぁ今は名乗る気なんて更々ないからな。」
「そうですか。それにしても、大丈夫ですか?かなり汗をかいていますが。」
「ん?あぁ。さっきから妙に疲れてな。いつもならこのぐらいへいきなんだけど。......まぁ、気にすんな。」
「わかりました。あ、ここですよ私の家。どうぞ上がってください。」
鞄から鍵を取りだし家の鍵を開けている。ドアを開けたまま俺が入ってくるのを待っているようだ。
「どうしたんですか?入らないのなら閉めますよ?」
「いや、お前な名前も知らない奴を家にいれるんじゃないぞ。」
そう言いながらも家に入る俺を見て、少女はクスッと笑った。
「あなたも名前を知らない人の家に入るものではありませんよ。」
うまいこと返された気がしてなんとなくムカついたが、言ったって無駄だと思い心の中にしまった。
案内されたのは少女がいつも使っているであろう部屋だった。綺麗に片付いており並べるように座っている二つのテディベアが良く目立った。もう歩くことはやめていると言うのに、どうしようもない疲労は、押し寄せるのをやめない。確かにニート生活をしてきたがこんなに疲れるものなのだろうか。もう少し、生活習慣を整えようと思った。
「はい、麦茶ですけど良かったですか?」
「ん?あぁ、ありがとな。......それよりもお前の話し、詳しく聞かしてくれるか?」
「もー。せっかちですね!もう少しのんびりできないのですか!」
「わりぃな、俺はあんまり人が好きじゃねえんだ。」
そういうと少女はほほを膨らまして俺の真ん前に座った。
「わかりました。せっかく家に帰ったのにゆっくりしたいところですが話してあげます。まず、あなたが出会い頭に見ていた紙束を貸してください。」
俺は、ナップサックに押し込んでいた紙束を取り出した。
「というか、いつ詰め込んだんですか?それが不思議でたまらないのでんすが。」
「わかんねぇよ。咄嗟だったからな。置いてこなかっただけでもよかっただろう。」
(本当だ。良く俺置いてこなかったな。すげぇわ。)
ふと、視線を少女に移すとものすごく集中して読んでいる。半分から白紙だと言うのに。
(もうそろそろ白紙になるな。......はは、やっぱ驚いてやがる。だよな、俺も驚いたもんな。)
そんなことを思い少女を眺めていると、なにかに気づいたらしく、眉間にシワを寄せて半分白紙の紙束を見ている。
「なんかわかったのか?」
「ふぇ?あぁ、この白紙のページ上と下にとっても小さな字でなにか書いてるの。」
指を指されているところを見たら小さく小さく書かれている。
(あのじじいども、ぜってー殺してやるー!)
「それにしても、神様なんていたんですね。」
「はぁ?」
「だってあなた、あの神社の神様なんでしょ?」
「は、え、な、ナンノコトデ?」
「すっごい片言になってますよ。というか、ここにかいてあるんですから、もうごまかせませんよ。」
そういわれると、もうどうすることもできなくなってしまった。ハァーと溜め息をつき、次に話すであろう少女の言葉に耳を傾けた。