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幸せを喰らう魔女

作者:

ずっと書いてみたかったやつ

悪役とかって好きです。






--キィキィ

--パラパラ


薄暗い部屋に椅子の軋む音と本をめくる音だけが響いている。音の中心には一人の少女--12、13歳くらいの--がいる。


「ふふふ」


黒い黒い少女は笑みを漏らした。


「主様、お茶の準備が整いました。」


一人のこれまた黒い少年--およそ18歳くらい--が少女に話しかけた。


「もう少し待って」

黒き少女こと、この世界の始祖ーー曰く、魔女であるウィーリアナは少年に言った。

目線は本に向けたままだ。


不意に暗かった部屋に明かりが灯った。

少年が明かりを灯したのである。部屋は淡いオレンジの光に包まれた。


「主様、いい加減暗い部屋で読書をするのはおやめください。そして、そろそろ目をお休み下さい。だいたい.........うんたらかんたら」


少年は自分の主人である彼女に長々と説教を始めた。

ウィーリアナは読書に集中しているのか、はたまた慣れているのか気にした様子はない。


「シュエット」

少女はフランス語で梟の意がある名を呼んだ。

少年の動きが止まる。シュエットは少年の名前である。


「この本に、この間のことが載ってるわ」

そう言ってウィーリアナはシュエットに今まで読んでいた本を渡した。


「この間....とは、西の国の森に住んでいた娘ですか?」

シュエットは本に目を向けながら質問した。


「そうよ。真実の純愛なんですって」

クスクスと笑いながら、シュエットの煎れた紅茶を飲む。

流石は何百年と少女に仕えていた眷族だけあって、ウィーリアナの好みを理解している。

ウィーリアナは満足そうに遅めのアフタヌーンティーを味わう。









“この間のこと”というのは、今の世でいう白雪姫の話だ。

ただ違うのは、白雪姫は継母などいない。否、意地悪な継母などいないが正解である。

白雪姫ことスノーフィリアは、不幸な少女でもなく、王子と結ばれるのは彼女が考えたシナリオだ。そして、そのシナリオは黒き魔女によって叶えられた。

良く分からないものもいるだろう。少し長くなるが、詳しく話そう。



今から数ヶ月前、スノーフィリアは魔女に対価を払い、頼んだ。自分を西の国の第二王子である、アドルフ殿下と結婚させてくれと。

スノーフィリアは見目の美しい以外は本当に普通貴族の少女だ。幼少期に少女は母を亡くした。侯爵である父は最愛の妻を亡くし、悲しみの中に沈み、仕事に没頭するようになった。

スノーフィリアは何もいわず、涙も流さず淡々としていた、表面上は。

父は、しばらくして落ち着くと娘が心配になった。優しかった母が亡くなったのにそのことに対し、興味を示さない娘を。そして、娘のために後妻を迎えた。

後妻は身をわきまえていて、自分が愛されていないことも理解していた。そのうえで、侯爵閣下も義理の娘のことも愛していた。義母はスノーフィリアに優しかった。だが、スノーフィリアからすれば、腫れ物扱いされているような、家に異物があるような、良く分からない気持ち悪さがあった。


だからか、欲が出た。

幼子のような可愛らしい欲だ。だが、スノーフィリアはもう18になる。只の欲は、薄暗くドロドロとした塊になる。

ある日、スノーフィリアは街で見かけた見目のよく優しそうな王子に心惹かれた。そして、想うだけにとどまらず少女は計画したのだ。

王子を手に入れ、家から出るための計画を....。

別に義母が嫌いな訳でもない。だから、父と一緒に旅行に行かせた。1年以上かかるような大掛かりな旅行だ。

そして、その間にウィーリアナに頼んだのだ。自分を不幸で不幸で可哀想な誰もが同情して、愛される娘にしてくれと。物語の主人公のような少女に......。


そして、願いは叶った。

スノーフィリアは魔女のおかげで幸せになれた。だが、魔女はタダでは人の願いを叶えない。美しく浅ましい姑息な娘は黒い魔女に代価を支払った。代価は.........だった。

スノーフィリアはアドルフ殿下との結婚したこの時、この瞬間より幸せになることはないだろう。それが魔女に対して支払った代価である。









ウィーリアナは魔女だ。

色々なお伽噺と言われる物語に出てくる悪かったり、優しかったりする魔女だ。

彼女が我侭な少女たちの願いを叶える理由は、......を食べる為である。

それがウィーリアナの主食なのだ。



「主様」

シュエットが咎めるように声をかけた。

理由は単純明快だ。可愛らしい魔女の口からヨダレが垂れていたからだ。

ウィーリアナは口元を拭い、ほほえんだ。


「人間は面白いわね。そして、可愛いわ。恋なんてものに溺れて、その一瞬のことしか考えず私にすがるんだもの。」

クスクスと笑いながら、忠臣である少年に紅茶のおかわりを求めた。

忠義の梟少年は主の特殊な嗜好に溜息をつきながら、それに応えた。



「主様。そんなに恋する者共が好きでしたら、ご自分でも恋をなさってみてはどうですか」

ーーーできれば、自分と......

少年は口には出せず、何百年と持ち続けた気持ちを心の中で続けた。縋るように、祈るように。



ウィーリアナは笑みを深くした。深くしたが、答えなかった。ただ微笑むだけだ。

シュエットはその顔に見蕩れつつも、恐くなった。

自分の恋心というには汚らしく、それでいて幼子の執着のようなこの気持ちが見透かされているのではないかと......

そして、やんわりと潔癖の気がある主に捨てられるのではないかと......



「シュエット。北の国にまた愚かな少女がいるみたいなの。

行きましょう?お腹すいたわ。」

ウィーリアナは手を差し延べる。シュエットには、この魔女からすればなんでもないような行動に泣きたくなった。

自分はまだここに居ていいのだと....。

シュエットはその手をとり、掌にキスを落とした。







今日も、可愛らしい恋に溺れた少女たちが魔女の餌食になる。一時の幸福のために全てを捨てるものたちだ。


シュエットは鼻で笑う。“青い鳥”でも読んでみればいい。身近な幸せを見つけられない愚か者共。我が愛しの主の美味しい糧にでもなっていてくれ。

俺はこの人のそばに永遠に居たいのだ。


たとえ、それが辛くても......




キスの格言


掌 懇願

「お願いだから、この気持ちに気づいて(気づかないで)、愛しい主様」







ウィーリアナ:齢1000年は生きている魔女。恋する少女たちを応援()するのが好き。

主食は他人の幸せ。甘いものが好き。シュエットの気持ちにはやんわりと気づいているが知らないふりをしている。


シュエット:ウィーリアナに仕える梟の眷族。

自分を造ったウィーリアナに執着しているが、幸せも願っている。

元は、ウィーリアナの恋人だった青年に梟の魂を入れてできたもの。


スノーフィリア:主人公で幸せになりたかった少女。一瞬の幸せのために魔女と契約した。

青い鳥症候群。


第二王子:名前なんだっけ?影薄い。死体性愛者。

多分、結婚してすぐスノーフィリアに子供を孕ませて産んだら、殺すと思う。

常に死体だったらと思ってる。


父と義母:名前はない。いい人。幸せに旅行中。旅行後のこととか考えちゃダメ。





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