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エピローグ

 暖かい陽の下、桜が舞う。

 青空を悠々と泳ぐ雲は穏やかで、住宅街の人々ものんびりとした時間を過ごしていた。

 ーーただ二人を除いて。


「琴平早く! カナダからの飛行機、もう着くぞ!」

「無理! これ以上走れない!」


 路地を慌ただしく走っていた青年は一度足を止めて振り返る。少し離れたところで息を整える女性に「だって間に合わないだろ!」と言った。


「誰かさんがレポート提出するのを忘れて、一旦大学に戻ったから!」

「悠介だって、待ち合わせは食堂だったのになんで図書館にいたの! 私、探し回ったんだからね!?」

「それは不可抗力だ!」

「じゃあ私だって不可抗力です!」


 一通り不満をぶつけ合ったのち、二人はここが住宅街であることを思い出し、ハッと口を噤んだ。気まずそうに視線を交わして、再び走り出す。

 悠介がスマートフォンで時間を確認する。


「あと三十分。このまま走れば間に合うか?」

「空港まで電車で何分かかるのかな」

「そんなにかからないと思うけど……あッ、小峰と凪沙からメールきた」

「なんだって?」

「えっと『もう空港に着きました〜! 神楽先輩と哲郎先輩が乗ってくるのってオーストラリア便でしたっけ?』だとよ」

「違うカナダ!」

「小峰は本当に地理が壊滅的だな……凪沙を一緒に行かせて正解だった」


 やっと住宅街を抜けて、横断歩道に差し掛かる。駅はもう目の前だ。幸い歩行者信号は青。人があまりいないのを良いことに悠介が猛スピードで渡り切った。

 その後ろについていこうとした理久は、ジーンズのポケットから何かが落ちた感覚を覚える。定期だった。

 青信号が点滅する。悠介の叫び声を背に、横断歩道を少し戻って定期を拾う。

 信号が赤に変わる。

 悠介のもとへ行こうとした瞬間、角を曲がってきた車が理久に向かう。凄まじいスピードと急な事態に体が動かなくなる。

 手を伸ばせば車体に届くほど距離が縮まったーー刹那。


 背後から腕を掴まれて、その場から引き剥がされた。


 眼前を猛スピードで車が通り過ぎる。重心を崩された理久は背後の人物へ倒れ込むように、寄りかかってしまった。

 一瞬何が起きたか不明だったが、事態を飲み込んだ途端、冷や汗が出た。今さら心臓が早鐘を打つ。し、死ぬところだった……。

 通り過ぎていく車の合間に悠介の姿が見えた。危ないことするなって怒ってるかな、と表情を窺う。

 しかし、なぜかこちらを向く彼の目は驚愕に見開かれている。なんだろう、と考えたところで理久はハッと我に返った。

 た、助けてもらった人に寄りかかったままだ……!!


「す、すみません! 少し急いでて! ありがとうございました、死ぬところでした本当に!」


 命の恩人だ、と思いながらふと奇妙な感覚に囚われる。

 あれ、こんなこと前にもあったようなーー?


「どういたしまして、怪我はない?」


 そう問いただしてくる声にも、聞き覚えがあって。

 振り向くより早く『彼』は理久を背後から抱きしめた。

 視界の端に映る、茜色。

 ふわふわの猫っ毛が肩に触れる。

 息を飲む理久の耳元で彼は囁いた。


「ーーただいま、理久」


 少し声が低くなったね、とか、また背が伸びたのかな、とか、口に出したいことが泉のように次々と湧き出てくる。

 それでも最初に伝える言葉はもう決まっている。

 君とまた会うことを約束したあの日から、ずっと心に仕舞っていた想い。


「君のことが、好きです」


 おかえり、茜。

 理久の言葉で、肩に埋めていた顔を上げた茜は少し照れくさそうに微笑んだ。


「……告白を先に言うの」

「帰ってきてから聞かせて、って言ったのは茜だよ」

「そうだね」

「で、返事は?」

「相変わらず物怖じしないなぁ、理久は」


 茜は回していた腕をほどくと、改めて理久の前に立った。いつの間にか追い越されていた背の丈、大人っぽくなった外見。

 けれど、風に揺れる茜色とその笑顔は変わらない。


「俺も、理久が好きだ」


 無限に広がる青空の下、桜が舞う季節に君は、不思議な扉の向こうからやって来る。

 これは、過去と未来の交差点から始まり、終わりを迎える物語。

 あなたとともに紡いだ日々の、物語。


「拝啓、未来より」読んでくださってありがとうございました、作者の真野と申します。

長期連載ということで、学園もの、ラブコメ、SFと自分の好きな要素をたくさん入れてみました。いろいろ思うところはありますが何よりも、物語が完結したことに大きな達成感を得ています。

長くなりましたが、たくさんのアドバイス、応援をくださったユーザーさま、そしてここまで見届けてくれた読者の皆さま、物語の中の彼らと作者から最大級の感謝を込めてーーありがとうございました!


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