47話 未来、動き出す
薄暗い部屋の中に二人はいた。
そこはひどく物が散乱しており、毛布、ドライバー、フラスコなど統一性がまったくなかった。壁にも無数の穴やら傷があったが、千歳と霞はそちらには目も向けず、巨大な何かの前に立った。
覆い隠すための大きな布を霞が剥ぎ取る。現れたのは、機械じみた扉。しかし、今にも壊れてしまうのではないかと思うほどそれは古く、儚さを漂わせるものだった。
「いよいよ限界が来たみたいだね」
霞の言葉に千歳は悔しそうに唇を噛む。
「早く……坊ちゃんを連れ戻さなければ」
「機械も茜坊ちゃんも、かなり危険な状態だ。次は実力行使に出る」
驚きに目を見張る。霞は旦那様の了承が得られたらね、と付け加えたが、その作戦は実行間近なのだろうと千歳は感じる。長年一緒にいた中で培われた勘がそう告げていた。
この男はいつだってそうだ。ひとりで勝手に考えて、決めて、そして消えてしまう。
帰ってくるかも保証できない場所へと。
霞がふっと優しい笑みを浮かべた。
「なあに、そんな見つめて」
「ーーいや。何でもない」
珍しく感傷に浸ってしまった。霞といるときはどうも調子が狂って仕方がない。
切り替えるためにも、千歳は口を開いた。
「これが壊れたとき、世界はどうなるんだろうな」
やや遅れたのち、返答が耳を通り抜ける。
「坊ちゃんがこちら側にいるかどうかで、未来は変わってくる。いたら何も変わらないだろうし、いなかったらーー」
僕らは、消えてしまうかもね。
分かりきっていたはずなのに、言葉にして聞くとやはり胸を締めつけられた。
とうに壊れた世界が消えるとき、自分は何を思い、どこへ行くのだろう。
それでもたったひとつだけ、分かることは、
「……最期は、一緒にいよう」
千歳の口からこぼれた言葉に、霞は表情を歪ませる。
最期だなんて言わないでよ、そう嗜めながら彼女の手を握った。




