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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第四章  高校3年生6月
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高校イベントといえば文化祭かしら?

 葉山様視点。

 5月の下旬、ある日の昼休み。


 あの子のスマホからアプリ『LINK』のトークの投稿を知らせる着信音が鳴った。


 内容は清駿高校の文武祭への招待だったらしい。 


 清駿高校といえば、県内では上から数えた方が早いくらい偏差値の高い進学校だ。

  

 そんな学校に友達がいるようには思えない。


 だが少し考えて春休みに会った、あのにぎやかな人達を思い出し、考え直した。


 確か正義の彼女の橙が清駿高校に通っていなかったか?


 なら橙と友達らしい葉と呼ばれていた女も同じ高校で、あの子を招待したのだろう。


 文武祭といえば、文化祭と体育祭を合わせたものだと、アキラから聞いたことがある。


 そういえば文化祭に参加したのは中1までだった。


 拓哉達も同じようなものだろう。

 いや、もしかしたら1度も参加したことがないのかもしれない。


 中学校の文化祭といっても合唱やクラス展示くらいしかなかったから、大しておもしろいとも思わなかった。


 高校の文化祭、それも学校行事に力をいれている清駿高校の文武祭となれば、中学校とは違い、それなりに楽しめるんじゃないか?


 なにより5月から拓哉の様子がおかしい。


 いつも上の空でなにか考えているようだ。


 何を考えているか。

 それは多分トマさんのことだろう。


 トマさんの大切な人が死にかけてるって話は俺の耳にも入っていた。


 ただその人は病気でも事故に遭ったわけでもなく、寿命らしい。


 トマさんはその人と最期まで一緒にいたいと、仕事を休み、ずっとその人についている。


 仕事に誇りを持っていたトマさんらしくない行動に他のやつらも動揺している。


 拓哉の祖父(じい)さんだけはトマさんになにもいわず、好きなようにさせていた。


 拓哉はそれが信じられなくて、イライラするんだろう。


 俺にもいつかトマさんのように、誇りを捨ててまで最期に側にいたいと思うほど、誰かを愛せるんだろうか?


 今は想像もできない。


 まあ俺のことはどうでもいい。


 それよりもトマさんが気にかけてやれない分、俺が拓哉を気にかけないとな。


 今回みたいな時にはなにか別のことをするのも手だろう。


「アンタ達、楽しそうな話してるじゃない」


 この子と筧が話してる時に、声をかけることがあまりないせいか、2人とも少し驚いたような顔をしている。


「文化祭なんて中学でもまともに参加してなかったし、いい機会だからアタシ達も行くわ」


「嫌だ。俺と憩ちゃんのデートの邪魔しないでよ。そんなに行きたいなら君達だけで行けばいいでしょ?」


 予想通り、筧が即答してきた。


 少し前までなら問答無用で殴りかかってきただろうが、今はにらんでくるだけだ。


 ずいぶんと丸くなったものだ。 

 

 よほどこの子に嫌われることの方が嫌だったようだ。


 それを利用しない手はない。


「ちょっと耳貸しなさい」


 筧に小さく手招きする。


 すごく嫌そうな顔をしながらも、しぶしぶといったように俺へ耳を貸した。


 そしてその耳へあの子が聞こえない声でささやく。


「2人で行くより私達と行く方が安全じゃないかしら?もしなにか遭った時、戦略と囮はいくらあっても備えすぎというとこはないわよ」


「憩ちゃん、たまには大人数も楽しいよね!」


 筧は少し考えた後、笑顔であの子に告げた。


 あの子はなにをいったんだと、驚いた顔で聞いてきた。


 それには答えず、着ていく服を考えた。



 それから数日後、俺達は清駿高校の校門前でうるさくて、しつこくて、めんどくさい教師に捕まった。

 

 服装や髪型で怒られるのは理解できる。


 だが、それだけで見下すような態度はおかしいだろ。


 校門前でもめてるせいか、通りすぎる人に見られている。


 もし、この場で俺が『アレン』だとわかった時、この教師は自分の生徒にどれだけ冷たい目で見られるとこだろうか?


 いっそ変装用にかけたサングラスを外してバラしてしまおうか?


 このまま放って置いておいて、拓哉と筧がキレて教師を殴り倒すよりずっと平和的な解決法だろう。


 その後、この辺りがどんな混乱に陥るか、知ったことじゃないが。


 俺より先に一触即発の雰囲気を壊したのは、予想外のやつだった。


「すみません。その人達は僕が招待したんです」


 今話題の人気アイドルに似た爽やかな声が教師の後ろから聞こえた。


 教師は苛立った顔のまま振り返ったが、すぐに表情を緩めて、まるで上司に媚びるような笑顔を見せる。


 つられてそっちの方を見て驚いた。


 アイドルグループのセンターにいそうな優しげで王子様のようなやつが教師の後ろに立っていた。


 全く癖のないストレートの襟元ですっきりと切り揃えられた黒髪。


 くっきり二重の目に優しげな甘い顔立ち、すらりと高い身長。


 きっちり着ている制服がとてもよく似合っていて、全身が輝いているようにすら見える。


 こいつがモデルなら俺やアキラよりも人気が出るかもしれない。


「き、君は神野寺じんのじくんじゃないか。この生徒と知り合いなのかい?」


「はい、そうです。彼らの人柄は僕が保証します。それでも入場は難しいですか?」


 神野寺は少し困ったように眉を下げる。


 アキラと同じく自分の顔の使い方をよく知ってる。


 あの子から知り合いかと視線で尋ねられるが、俺達は知らない。


 横目に筧を見れば、神野寺を警戒していた。


 なら誰がこいつを呼んだ?


「え、ああ……き、君がそこまでいうのなら大丈夫だろう」


 教師は大量に汗を流しながら、校舎の方へと逃げていった。


 あっさりといなくなって拍子抜けするが、それよりも気になるのは神野寺だ。


 こいつはなぜ俺達の前にやって来た?


「あの教頭、自分がハゲだからってうるさいな。うちの生徒じゃないんだから別に髪くらいどうでもいいよ」


 嫌悪感を隠さないそれに思わず呆気にとられてしまった。


 さっきまで優等生のようだったが、その面影すらない。


 あの子と目が合うと、初対面の時と同じ笑顔に変わる。


「初めまして。僕の名前は神野寺陸。長澤さんに頼まれて君達を迎えに来たんだ」


 どうやらこいつは湊よりも腹黒いようだ。

 

 などと警戒していたが、全部杞憂だった。


 神野寺は葉に頼まれて、落ち合う場所へ俺達を案内したらしい。


 犬猿の仲の2人は互いを罵りながら別れた。


 これからは葉が案内してくれるらしい。


 さてどこへ向かおうか。

 珍しく少しだけわくわくする。

 


 蓮が保護者ポジションになりつつあります(笑)

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