高校イベントといえば文化祭ですか!? その1
6月編、始めました。
6月の第1土曜日。
梅雨入りしたけど、運よく晴れて、目の覚めるような青空が広がっている。
そんな空の下に、私は清駿高等学校と書かれた、歴史を感じさせる校門の前に立っていた。
その隣には文武祭と、達筆な文字で書かれた看板が堂々と並べられている。
「だからお前らのような素行の悪そうやつらをいれるわけにはいかん!」
十数年前までは髪が生えていたと思われる頭はてかてかと光輝き、だるまのような体格の教師が私達の行く手をふさぐ。
「先生なのに見た目で判断するんですか?」
ゆーくんが物理的に見下しながら無表情で聞いてみる。
「お前らのような頭のやつらが何をいうか!いれてほしければ髪を黒くしてから出直すんだな。そしたら考えてやらんこともない」
向井様とゆーくんの背後から殺気みたいなものが溢れ出す。
2人とも他校で暴力沙汰はダメですよ!?
慌ててる私を他所に、関元様は困ったように苦笑いし、葉山様と四分一様はいつも通りマイペースで、城野様は校門の先を見て目を輝かせている。
どうして私が他校の文化祭に来ているのか?
それは2週間くらい前の話。
5月の終わり、午前中の授業が終わった昼休みに葉ちゃんからスマホアプリ『LINK』のトークが来た。
昼休みに連絡が来るなんて、珍しいなあと思いながら、アプリを開く。
《来週の土曜にうちの文武祭があるから必ず来るべし!》
葉ちゃんが学校行事に誘ってくれるなんて思ってもなかった。
今年はなにかあるのかな?
今ならまだシフトができてないから希望休みを入れられるはずだから行けるかな。
《わかった。行くよ。パンフレットとかあるのかな?》
文字を送信するとすぐに返事が帰ってきた。
《よかった。パンフレットは当日も配布予定。開場時間は10時からだぜ》
当日も配ってるんだ。
それならなにがどこで展示してあるのかもわかるよね。
開場時間もそんなに早くない。
でも1人で他校に行くのはちょっと心細いなあ。
「憩ちゃん、清駿高校の文化祭に行くの?」
うつむいていた顔をあげると隣に座っていたゆーくんがスマホを覗きこんでいた。
「そのつもりだよ。でも1人で行くのはちょっと心細いと思って……」
ん?ちょっと待って。
私、ゆーくんに葉ちゃんが清駿高校に通ってるっていったっけ?
「この地域で今時期に文化祭をする学校は清駿高校だけだよ」
へえ、そうなんだ。
全然、知らなかったなあ。
「待ち合わせ場所は憩ちゃんの家でいいよね。それで何時に行くの?」
「えっ!ゆーくんも一緒に行ってくれるの!?」
「もちろん!憩ちゃん1人で行ったらナンパされるに決まってるからね!そんな危険なとこに1人で行かせられないよ!」
私がナンパなんてされるわけがないのに、ゆーくんってば心配性だなあ。
むしろ私よりもゆーくんの方がナンパされそうだよ。
「待ち合わせは9時半くらいはどう?あまり早くついてなにもなかったらさびしいし……」
私の家から清駿高校まで電車で3駅、バスで30分くらいの距離がある。
土曜日ってことで他校の生徒や保護者とかも文化祭に来ると思うから、少し人が多いかもしれない。
「アンタ達、楽しそうな話してるじゃない」
葉山様が声をかけてきた。
ゆーくんと話している時に、参加するなんて珍しいなあ。
「文化祭なんて中学でもまともに参加してなかったし、いい機会だからアタシ達も行くわ」
向井様達は中学生の頃から不良だったんですね。
「嫌だ。俺と憩ちゃんのデートの邪魔しないでよ。そんなに行きたいなら君達だけで行けばいいでしょ?」
ゆーくん、即答しないの。
でも前に比べたらずっと穏やかな対応をするようになった。
ゆーくんって意外と素直だよね。
それとも私に嫌われるのがそんなに嫌だったか。
いやいや後者はないな。
ゆーくんが素直なだけ。そうに決まってる。
「ちょっと耳貸しなさい」
葉山様がゆーくんに小さく手招きする。
ゆーくんはすごく嫌そうな顔をしながらも、しぶしぶ葉山様に耳を貸した。
ゆーくんが葉山様から一言、二言くらい耳打ちされた後、笑顔でこういった。
「憩ちゃん、たまには大人数も楽しいよね!」
集団行動が嫌いなゆーくんが自分からそれを提案したよ!?
葉山様はいったいゆーくんになにをいったんですか!?
……というわけで、今のこの状態になっている。
この先生もすごいな。
いくら知らないからって、向井様達にそんなあからさまに見下すような態度をよくとれますね。
逆に尊敬しちゃいそう。
後、校門前でもめてるから通りすぎる人にすごく見られる。
いや向井様達がいろんな意味で目立つからだね。
髪色もそうだけど、イケメンだし、県内でもトップクラスの偏差値の進学校の生徒と真逆な不良だし、表情が不機嫌そうだし。
まさに一触即発の雰囲気を壊してくれたのは、予想外の方でした。
「すみません。その人達は僕が招待したんです」
今話題の人気アイドルに似た爽やかな声が教師の後ろから聞こえた。
教師は苛立った顔のまま振り返った。
しかしすぐに表情を緩めて、まるで上司の機嫌をうかがうように媚びるような笑顔を見せる。
つられてそっちの方を見て驚いた。
乙女ゲームのセンターにいそうな優しげで王子様のようなイケメンがそこにいる。
さらさらストレートの襟元ですっきりと切り揃えられた黒髪。
くっきり二重の目に優しげな甘い顔立ち、すらりと高い身長。
きっちり着ている制服がとてもよく似合っていて、全身がキラキラと輝いているようにすら見える。
「き、君は神野寺くんじゃないか。この生徒と知り合いなのかい?」
「はい、そうです。彼らの人柄は僕が保証します。それでも入場は難しいですか?」
神野寺さんは少し困ったように眉を下げる。
それだけなのにとても悪いことをしたような気分になって、いうことを聞いてあげたくなる。
でも私はこの人と知り合いじゃない。
もしかしたら葉山様の知り合いかな。
ちらりと視線で聞くも首を横に降られた。
じゃあ他の人?
いやいや該当者がいない。
「え、ああ……き、君がそこまでいうのなら大丈夫だろう」
教師は大量に汗を流しながら、校舎の方へと逃げていった。
あっさりといなくなって拍子抜けする。
でも喧嘩にならなくてよかった、よかった。
さすがに他校でもめたら大問題だしね。
ほっとしていたら目の前から小声でとんでもない言葉が聞こえた。
「あの教頭、自分がハゲだからってうるさいな。うちの生徒じゃないんだから別に髪くらいどうでもいいよ」
嫌悪感を隠さないそれに開いた口がふさがらない。
…………あれえ?疲れてるのかな?
とんでもない幻聴が聞こえたんだけど。
目が合うとさっきと同じまぶしいくらい素敵な笑顔に変わる。
「初めまして。僕の名前は神野寺陸。長澤さんに頼まれて君達を迎えに来たんだ」
葉ちゃん、玄博高校に通ってる私がいえることじゃないかもしれないけど、一言いわせて!
清駿高校の人はキャラが濃いよ!
新キャラその1登場です。
高校のイベントといえば運動会と文化祭、修学旅行のイメージが強いです。
玄博高校ではどの行事もありませんが。(笑)




