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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第三章  高校3年生5月
91/111

転校生はトラブルメーカーかしら?

 前回から間が空いてしまい、すみません!


 これからも不定期更新が続くと思いますが、長い目で高槻達にお付き合いください。


 ※この物語の季節は5月です。

 白藤高校の総長……いや『元』総長の筧寛が悪い意味で有名になったのは割りと最近の話だ。

 

 俺達が高校入学した年の新入生と在学生による学校の頂点を決める争い。

 拓哉と正義がほとんどのやつらを潰して、一ヶ月もかけずに二週間で頂点になった。


 同時に白藤高校でも一年生が頂点になったという噂が広がっていた。


 当時の白藤高校の頂点は二年生だった三浦和貴。

 正義に近い高身長に筋肉質な体で、中学生の頃から地元内外に名が知れ渡っているような根っからの不良だ。


 そんなやつを倒して頂点になったのは、『筧寛』という聞いたことのない名前だった。

  

 今でこそ『狂皇』なんて物騒な二つ名がついているが、当時の知名度は全くといっていいほどなかった。

 

 拓哉と同じくらいの身長に黒髪黒目。

 特に鍛えられているようには見えない体。


 だからやつに喧嘩を売るやつは絶えなかった。


 すぐに潰れると誰もが思っていただろう。

 

 にもかかわらず、実際は真逆の展開になった。


 筧は三浦達から売られた喧嘩を端から買って、向かってくるやつらを病院送りにし、一番ひどいやつは一生歩けなくなったらしい。


 あの頑丈さが取り柄の三浦和貴でさえ、半年ほど入院したと聞いた。


 筧の喧嘩は単純だ。

 近くにある武器になりそうなものでひたすら殴りつける。

 常に持っているナイフで切りつける。

 それのどちらかだ。


 顔になんの感情も浮かべず、底のない暗闇のような目で、目の前にいる人間を容赦なく動けなくなるまで繰り返す。


 相手から反撃されても、顔色一つ変えずに繰り返す筧に恐怖を覚えたやつは数知れず。

 

 返り血を浴びても、命乞いをされても、女だということも筧にとって暴力を止める理由にはならない。 

 邪魔する者は消す。それだけだ。


 筧は普通の人間ならためらうような理性と暴力の境界線を平然と超えていく。

 

 どうしようもないほどに手遅れだ。


 恐怖を忘れ、暴力を覚えてしまった人間は日常には戻れない。

 そうして薄暗い場所を歩いて、救いのない暗闇に堕ちていく。


 筧の例外はただ一人、高槻憩だけだ。


 俺達と同じ歳なのに中学生くらいにしか見えない容姿。

  

 見た目は地味なのに、言動はバカで相手を怒らせたり呆れさせたりする。

 オマケに思ったことはすぐに顔に出る。

 

 だけど人のことをよく見ている。


 自分に対して敵意を向ける者には存在を消し、理不尽な暴力は他人事のように受け流す。

 逆に好意を向ける者や気を許した相手には無防備な笑顔を向け、何でも受け入れる。


 どんな育ち方をすればそんな極端な価値観が生まれたのだろうか。


 なんとなく想像はできているが、実際のところはなにも知らない。


 そしてあの子がそんなだから筧も執着するんだろう。


 誰も見たことのない笑顔と愛しさに満ちた目をあの子にだけ向けている。


 涼はあの子に筧が近づくのを嫌がって威嚇するけど、最初にねじ伏せられてから無視されてる。


 正義はいつの間にか意気投合して普通に仲良くしている。


 湊は判断がつかないから、今は静観するつもりらしい。


 俺は筧に振り回されるあの子が面白いから観察してる。


 拓哉はわからない。

 時々、あの子の方を見て何かいいたそうにしているけど、何もいわずに筧を睨みつけるくらい。


 まあ、拓哉が何もいわないからといって筧の暴走を許すのは別の話だろう。

 

「そのくらいにしときなさい。それ以上やったら死ぬわよ?」


 人目につきにくい校舎の影で筧は数名の男女を腕くらいの長さの鉄棒で殴りつけていた。

 

 地面に倒れたそいつらはまるで糸の切れた人形のように見動きをしない。

 

 筧は手を止めてゆっくりと振り返る。


 俺達の距離は十数メートル。

 素手でも武器でも殴り合うには少し遠い距離だ。


「それがどうしたの?」


 心底、不思議そうに筧はいう。

 

 よく見れば手にする鉄棒の先端は赤黒く染まっていた。


「殺人鬼にでもなるつもりかしら?」

 

 喧嘩が日常的なこの学校でも流石に殺人を犯せば警察に通報されるだろう。


 その後の人生は暗闇一直線だ。


 筧は表情一つ変えず俺の質問に答えた。


「人は意外と頑丈なんだよ。今まで殺す気でやってきたけど死んだのは一人もいなかった。和貴がいい例でしょ?」


 ゾクリと背中を冷たいものが走る。


 俺に構わず筧は続ける。


「そういえば君って確かモデルやってるんだよね?その綺麗な顔で憩ちゃんをたぶらかしたんでしょ?早く君を消して憩ちゃんの目を覚まさせてあげなくちゃ」


 血を巻き散らしながら、鉄棒の先端が向けられた。


 変わらない表情に俺は確信する。

 ああ、こいつは本気でそう思っているんだと。


 俺は湊や涼のように拓哉に恩があるわけでも、正義のような友情があるわけじゃない。


 ただ援交なんてしてた馬鹿な俺を、モデルにしてくれた『あの人』から拓哉を頼まれているから側にいる。


「アンタにやられるほどアタシは弱くないわよ?」


 援交してて、修羅場に巻きこまれたことは何度もある。

 それを身一つで潜り抜けてきた。


 拓哉や正義ほどじゃないけど、湊と同じくらいの実力はある。

 

「強さも弱さも俺にはどうでもいい。憩ちゃんを傷つけるやつらは、憩ちゃんと一緒にいる時間を邪魔するやつらは、みんなみんな消えればいいんだ」


 筧は俺との距離を一息に詰めながら、鉄棒を振り上げる。


 当然のように頭へ向かって振り下ろされるそれを半身を逸らしてかわす。

 

 さっきまでいた場所を空を切る音が通り過ぎた。


 すれ違いざまにがら空きになった腹へ膝蹴りを叩きこむ。


「うぐぅっ!」


 すぐに距離をとれば、筧はうめいてその場にしゃがみこむ。


「アンタの実力はその程度なのかしら?」


 軽口を叩きつつも油断はしない。

 この程度で終わるなら、三浦和貴を倒せるわけがないからだ。


 予想通り、筧は暗い目で俺を見上げながら立ち上がる。

 思ったよりもタフだな。


 そして再び鉄棒で襲いかかり、同じように振り下ろす。


 一度失敗した手が通用すると思うのか?


 半身をそらそうとして、死角から飛び出した何かが光り、慌てて後ろに下がる。


 だが気づくのが遅れたせいか、シャツの腹あたりを切り裂かれた。


「一度でダメなら何度でもやるまでだよ」


 光った何かは鋭く無骨なサバイバルナイフだった。


 逃げる俺を追いかけるように筧はナイフと鉄棒を何度も振り回す。


 的確に急所を狙ってくるなんてどれだけ本気でやってんだ。


 だが避け続けていれば攻撃パターンが見えてくる。


 振り下ろされる鉄棒にタイミングを合わせて横へ蹴り飛ばした。


 蹴りの威力と返ってきた筧自身の攻撃の衝撃が腕を伝い、肩へと向かう。


 鉄棒が手から滑り落ちる音と、硬質な物が壊れる音が辺りに響いた。


 声こそ出さなかったが、筧は苦痛を浮かべ、蹴り飛ばされた腕は力なくぶら下がっていた。


 多分肩が脱臼か骨折した音だろう。

 どちらにしても喧嘩を続ける意思をそぐには十分だ。


「何度やっても同じことよ。アタシにも敵わないアンタじゃ拓哉には届かないわ」


 事実をいっただけで挑発したつもりはなかった。

 これ以上、服に傷をつけられたくなかったし。

 

 だが筧はそう思わなかったようだ。


「これで勝ったつもり?」


 筧はゆっくりと立ち上がり、突進するように動かない肩を壁にぶつけた。


 もう一度、硬質な物が壊れる音がした。


「なっ!」


 筧の予想外の行動に思わず声が漏れた。

 

 骨折しているかもしれない肩をさらに傷つけるなんて、わけがわからない。


 自傷癖でもあるのか?


 ……いや。俺の蹴りをくらうたびにうめき声をあげていたから、今も痛みを感じているはずだ。


 それにも関わらず、こんな暴挙をするのはなぜだ?


「ほんとに玄博高校(ここ)はぬるいよね。この程度で俺を止められるわけがないでしょ」

 

 筧はゆるりと肩を回して俺へと向き直る。


 いつの間にか空いた手にサバイバルナイフを握っていた。


 手足を折られても、邪魔をするやつを倒すまで起き上がる。


 これが狂皇……。

 こんな奴、俺の手に終えねえよ。


 俺は一人で来たことを後悔した。

 

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