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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第三章  高校3年生5月
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あいつが帰ってきた?

 ※シリアス話です。


 なのであとがきをほのぼのにしてみました。

 家に帰る途中、電柱の影からあの人が現れた。


 なんの心構えも出来てなかったせいで、ひゅっと喉が鳴る。


 動揺と染みついた恐怖でだんだん息が苦しくなっていく。


「久しぶりだね、癒詩くん。元気そうでよかったよ」


 そんな俺の様子なんて気にも止めずにあの人は声をかけてきた。


「……どうして、あなたがこの町にいるんすか?転校したはずじゃ……」


 情けないけど声も体も震えている。


「どうしてって……憩ちゃんを迎えにきたに決まってるでしょ?」


 なのにあの人はきょとりと目を瞬かせた。


 でもすぐに満面の笑みになる。


「ほんとは今すぐにでも憩ちゃんと結婚したいんだよ?でも俺はまだ十八歳になってないし、高卒くらい持ってないと就職できないらしいからとりあえず卒業だけしとこうかなって。だって憩ちゃんを働かせるわけにはいかないでしょ?憩ちゃんには仕事に行く俺を見送って、帰ってきた俺を出迎えるっていう大事な仕事があるんだから」


 この人は昔から、少なくとも姉ちゃんが家に連れてきて、初めて出会った時からこうだった。


 どうしてこんなにも姉ちゃんがいいんだろう?


 特別綺麗でも可愛いわけでもなく、スタイルがいいわけでもない。


 頭だって悪いし、道具を使うスポーツは何も出来ない。


 不器用だし、人間関係とか上手く作れない。


 オタクでネガティブなところもある。


 この人なら探さなくても姉ちゃんよりいい人はいくらでも見つけられるのに。


 だからこの人が姉ちゃんに向ける激情が怖い。

 

 この人は本気で姉ちゃんだけが大切で、他はいつだって切り捨てられる。

 

「それより癒詩くん。最近、関元湊達と仲が良いみたいだね」  


「なんであなたが知ってるんすか?」


 肩にかけているバットケースのベルトを握る手に力がこもった。


「俺がこっちに帰った来たのは高校の時でそれからずっと憩ちゃんを探してた。だから色々知っているんだよ?例えば関元湊が中学時代に何をしてたかったことも、ね?」


 筧がにやりと口の両端を吊り上げた。


 それが悪魔の笑顔に見えて、無意識に一歩後ずさる。


「聞いた時は驚いたよ。会ってさらに驚いたね。まさかあんな穏やかそうな顔で、自分のことを嫌う部活の先輩を持ってたバットで“半殺しにした”だなんて」


「……っ!?」

 

 その噂は知っていた。


 俺が中学一年生の頃、全国中学校体育大会で優勝候補のエースピッチャーの関元さんが同じ部員と傷害事件を起こして退部になったって話。


 その学校はエースがいなくなったせいか、二回戦で敗退して他の学校が優勝した。


「関元さんはそんなことをするような人じゃない!」


 関元さんは忘れていたけど、中学よりも前に会っている。


 高校生になって再会した関元さんは昔と変わらず、優しく笑って俺に色んなことを教えてくれたし、俺の話にも付き合ってくれた。


「君は関元湊の何を知ってるの?表面だけ知って全部知った気になっているんじゃない?」

 

 俺の思いは筧の冷たい声で切り捨てられた。


「裏で何をやってるのか知らないのによくもまあ信じられるよ。すごいね、癒詩くん」


 明らかに軽蔑した声なのに、表情は笑顔のままで。


「別に癒詩くんが誰を信頼して痛い目を見ようが俺はどうでもいいんだよ。でも憩ちゃんを巻きこんだのは許せないなあ」


 姉ちゃんを巻きこんだ?

 いつ?どこで?何に?


「そもそも君が野球なんてしなければ、才能がなかったら、憩ちゃんは玄博高校になんて通ってないよ」


 それはずっとひっかかっていた。

 いくら家から近くても姉ちゃんがあんな治安の悪い高校に通うなんてって。

 

 頭の悪い姉ちゃんでも他に通える高校はあった。


 でもいくら俺や両親が反対しても引かなかったら何か理由があるんだろうなとは思ってた。


「憩ちゃんは優しくて家族思いで謙虚だから、何も出来ない自分より少しでも君が野球に集中できるように自分のお小遣いと授業料をバイトで稼いでるんだよ。そんな憩ちゃんの気持ち知らなかったでしょ?」


 確かに俺の学校はスポーツ推薦があるくらいだから部活に力を入れてて、合宿とか遠い学校と練習試合したりするから授業料以外にも結構お金がかかる。

 

 でも、姉ちゃんも両親も一言もいわなかった。


 姉ちゃんは家ではいつも笑顔でバイト代を漫画とかに使っている。

  

 だからまさか俺のために授業料の安くてバイトの出来る玄博高校に通ってるなんて思ってもみなかった。


「当然憩ちゃんは他のやつと仲良くならなくて……あ、それは俺もよかったと思ってるよ。憩ちゃんのことは俺がわかってればいいからね。でも知り合ってしまったんだよね。玄博高校の頂点とかいわれる暴力男、向井拓哉に。おかげで憩ちゃんは一気に不幸になったよ?いわれない暴力と暴言に今もさらされている」


 筧は足早に俺との距離を詰める。

 

 俺は少しでも距離を取ろうとしたけど、恐怖ですくんだ足は上手く動かなくて、もつれてその場に尻餅をついた。


「ねえ、癒詩くん。目も声も手も届かないところで憩ちゃんが心身ともに傷ついてるのを知った時の俺の気持ちがわかる?」


 筧は目の前で足を止めて俺を見下ろす。


「憩ちゃんを残して全て壊してやろうと思った」

 

 なんの感情のない表情と底のない暗闇のような目に淡々とした声。


 本気で怒っている筧の姿に呼吸が止まる。


 この目をしている時は姉ちゃんが止めても止まらない。


 自分が傷ついてもそれで姉ちゃんが心配してくれるから全然気にしない。


「終わったことは仕方ないけど、これ以上憩ちゃんを傷つけたら野球を出来なくしてあげるから覚えといてね」

 

 筧はそれだけいって去って行った。


 完全に姿が見えなくなってもしばらく立ち上がれなかった。


 ゆっくりと家に帰ると姉ちゃんが出迎えてくれたけど、心配されてしまった。

 

「……姉ちゃん、あのさ」


 少しだけ口を開いてすぐに閉じた。


「……体調は悪くないよ。ただちょっと練習がきつかっただけ。だから今日は風呂入ってもう寝る」


 知らなかったとはいえ、今まで姉ちゃんを苦しめていた俺が何をいえるんだろう。


 隣を通り過ぎる俺の背中に、声がかかる。


「癒詩、私じゃ力になれないかもしれないけど悩みがあるならちゃんと聞くよ」


 思わず立ち止まる。


 姉ちゃんはいつだってそうだ。

 中学の時だって姉ちゃんは悪くないのに、自分を犠牲にしてなんでもないかのように受け入れてしまう。

 

 何も答えられないまま二階の自分の部屋に閉じこもった。


 部活の道具を投げ捨てて、着替えもせずにスマホを片手にベットに寝転がった。


 スマホを操作してメールを送った。


 『筧寛って知ってますか?

  その人から関元さんが中学の時に傷害事件を起こしたって聞いたんですけど嘘ですよね?』


 すぐにメールの返信が来た。


 内容はたった二行。


 『筧寛がいったことは本当だよ。

  俺は癒詩くん達が思ってるような善人じゃない』


 一気に増えた情報を処理しきれずに俺は目を閉じて夢の中に逃げた。

Q.休日の過ごし方は?


南並鈴「おねえちゃんとおにいちゃんとこうえんいったりおかいものしてるよ!」


南並蘭「あめのひにはおもちゃであそんでくれたりべんきょうをおしえてくれる」


Q.好きなタイプ(恋愛対象)は?


南並鈴「おにいちゃんみたいなやさしいひと!」


南並蘭「やさしくておおきくてかたくるましてくれるひと」


南並鈴「らんちゃんのすきなひとってまさきさんににてるね!すずもまさきさんみたいなひとすきだよ!」


南並蘭「うん。まさきさんみたいなひとがすき」


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