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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第三章  高校3年生5月
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トラブルメーカーですか!?その4

 (いろんな意味で)安定の高槻。

 忘れてた!忘れてた!忘れてたぁあああ!

 

 掃除が終わった後に赤さん達とゲームしてたらゆーくんのこと完全に忘れてたよ!


 遅く来た向井様達に喧嘩でもしてたのかなって思って、「喧嘩お疲れ様でした!」なんていった時の気まずい雰囲気はほんとに辛かった。


 向井様なんて『なにいってんだこいつ』って顔してたし……。


 つらい。つらすぎる。

 向井様って最近は思ったことが顔に出るから葉山様とは別の意味で容赦ない。


 まあ、それよりも今はゆーくんだよ!


 一人ぼっちの教室で、泣いてたらどうしよう……。


 もしかしたら薄情な私に怒って絶交されちゃうかも!?


 ああっ!どっちもいやだ……!


 ゆーくんの悲しむ顔も怒る顔も見たくない。


 教室についたら全力で土下座しよう!


 それでも許してくれなかったらなんでもいうことを聞こう。


 小学生の頃はそれで仲直りできたから大丈夫なはず……。

 

 廊下を走り、階段をすっ飛ばして、登ると教室はすぐそこ。


 乱れた息をそのままに教室に飛び込んだ私の目に入ったのは、自分の机に座るゆーくん

と…………その前の席に座る四分一様だった。


 予想外の組み合わせにぽかんと見ることしかできない。


 え?いつの間に二人だけで話すほど仲良くなったの?


 不思議に思いながら、泣いても怒ってもないことにはほっとする。


 けどまるで私だけに懐いていると思っていた犬が、他の人に懐いているのを見てしまったような寂しさがある。


 いやゆーくんは犬じゃないんだけどね。

 

「あっ!憩ちゃん!おかえり!」


 そんな私の気持ちとは正反対に、ゆーくんはにこにこと嬉しそうに目を輝かせながら側にやってきた。


「ただい」


「はい、あ~ん」


 口になにかを放り込まれ、物理的に言葉を途中で遮られた。


 口内の温度で簡単に溶けて広がっていく。


 穏やかな優しい味に自然と頬が緩む。


 ああ……これは私の好きなママの味のする飴!


「ゆーくん、ありがとう」


 ゆるゆるの情けない顔のままお礼をいう。


 何度なめてもおいしいなあ。


 なんて思っていたらゆーくんに抱き潰された。


 ゆーくん、痛い!

 骨がミシミシいってる!


 ゆーくんの腕をタップしても無視された。


 ちょっ!ゆーくん、早く気づいて!


「憩ちゃん………い………つらい」


 ゆーくんは私の肩に顔を埋めた。

 髪が頬に触れてくすぐったい。


 なんで抱きしめるゆーくんがつらいの?


 あとほんとに離してくれないと息が……。


「筧、離さないと憩が死にそう」


 四分一様の言葉にゆーくんは正気に戻ってくれた。


「憩ちゃん!?大丈夫!?」


 ……うん。なんかデジャヴ。


「な、なんとか……」


 ゆーくんはいつの間にそんな怪力キャラになったの?


「筧、憩を苦しめたらだめ」


 四分一様が珍しく眉を寄せてゆーくんを睨む。


「正義さん、ありがとうございます。でも私は大丈夫ですよ。ゆーくんは久々に私に会ってテンションが上がってるだけなんです」


「憩ちゃん……っ!」


 ゆーくん、どこに頬を染めるところがあったの?

 

 目もウルウルで可愛いけどね。

 あざと可愛くてキュンとしたけども。


「憩は筧に甘すぎる」


 四分一様は少し呆れたように目を細めた。


 え?私ってゆーくんに甘いかな?

 普通じゃない?


「憩ちゃんは俺を甘やかしてくれればそれでいいの!」


 なにもよくないよ!?


 そもそもゆーくんは自覚あったの!?

 ならちゃんといってよ!


 それじゃ私がゆーくんをダメ人間にしようとしてるみたいだよ!?

 

「憩ちゃんにならダメ人間にされてもいい……」


 なんでそこで恍惚とした顔をするかな!?


 お互いのために自立しよう!?


「憩、がんばって」


 どこか遠い目をした四分一様がくださったのはゆーくんがくれたのと同じ飴だった。


「あ、ありがとうございます……」


 なんとなく見捨てられた気がするんだけど勘違いだよね?


 さっきから四分一様と目が合わないのも勘違いですよね?


「それより憩ちゃん。今日はもう遅いから不審者が出る前に帰ろうよ」


 全然それよりじゃないんだけど、ゆーくんのいうことは一理ある。


 ゆーくんはイケメンだから(しかも甘えた属性)が不審者に狙われるかもしれない。


 残りは帰りながら話せばいい。

 

「そうだね。帰ろっか。四分一様、さようなら」


「ん。憩、筧、バイバイ。また明日」


 四分一様は小さく手を振って見送ってくれた。


 可愛さでは四分一様も負けてないなあ。


 私はゆーくんに手を繋がれて教室を後にした。


 鞄は自然とゆーくんが持ってくれたし、女の子が一人で暗い道を歩くのは危ないからって家まで送ってくれた。


 帰り道で今日の授業とか、今ハマっているアニメとか、明日には忘れてしまいそうな他愛もないような話をした。


 ゆーくんは引くことなく全部聞いてくれた。


 送ってもらったから夕ご飯でもごちそうしようと思って誘った。


「せっかく憩ちゃんが誘ってくれたのに断るのは心苦しいんだけど、今日は用事があるからごめんね。また今度来るよ」


 ゆーくんはほんとに申し訳なさそうな顔した。


 私がゆーくんの予定を考えずに誘ったのが悪いんだから気にしなくていいのに。

 

「じゃあ、憩ちゃん!また明日ね!」


 ゆーくんはちょっと寂しそうな笑顔で手を振って去っていった。 


 突然すぎてなんだかゆーくんと再会した実感がない。


 ゆーくんだけじゃない。


 向井様達のことだってそう。


 一人が寂しすぎて見た夢だっていわれたほうが納得できるくらいだ。


 でも葉山様がくれた服が夢じゃないって教えてくれる。


 こんなこと考えるなんて私らしくないなあ。 


 首を左右を振って気持ちを切り替える。


 もうしばらくしたら癒詩も帰ってくるし、とりあえず今から洗濯物を取り込んだり、お風呂の準備をしたり、やることはたくさんある。

 

 それからはゆーくんや向井様のことを考えることもなかった。


 しばらくして夕ご飯の準備(お母様が作り置きしてくれたものを温めるだけ)をしていると玄関の開く音がした。


 コンロの火を止めて出迎えれば癒詩が帰ってきたところだった。


「おかえり……なんか顔色が悪いけど体調でも悪いの?」


 野球と健康が取り柄の癒詩が珍しく血の気の引いた真っ青な顔をしている。


 明日はバットが降ってくるかもしれない。


「……姉ちゃん、あのさ」


 癒詩は紫色の唇を少しだけ開いてすぐに閉じてしまった。


「……体調は悪くないよ。ただちょっと練習がきつかっただけ。だから今日は風呂入ってもう寝る」


 癒詩はそれだけをいって私の隣を通り過ぎて行った。


 私は振り返って背中に声をかける。


「癒詩、私じゃ力になれないかもしれないけど悩みがあるならちゃんと聞くよ」


 癒詩は少しだけ立ち止まってくれたけど、何も答えないまま二階の自分の部屋に行ってしまった。


 癒詩が目を合わせないのは嘘をつく時。


 なにを隠しているのかは、心を読めない私にはわからない。

 

 なら苦しみを軽くすることはできないだろうかと思うのは、傲慢なんだろうか?


 中学生の頃のように悩み苦しむ姿はもう見たくない。


 玄関の扉の向こうでは天気予報が外れ、雨が降り出し始めていた。

Q.休日の過ごし方は?


橙花「チョー勉強してる!あっ!今、こいつゼッタイに嘘吐いてるって思ったっしょ!マジだかんね!うちの学校は校則とかメッチャゆるいんだけど、勉強はチョー厳しくてぇ。赤点とかとったら平均点とるまで何回でも再試すんだよ!?マジありえなくない!?」


Q.好きなタイプ(恋愛対象)は?


橙花「もちろん、まーくん!強くて優しくてあたしを守ってくれて、子どもっぽいとこも可愛いし、あたしよりも頭もいいし、子どもとか動物とか好きだし……あ、まーくん!え?聞いてたとかマジ!?なにそれチョーハズい!」

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