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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第三章  高校3年生5月
84/111

転校生はトラブルメーカー?

 ボールペンは人に向けてはいけません。


 城野視点。



 ※後半から寛が暴走しています。

 暴力表現が苦手な方はご注意ください。

 『筧寛が転校してきた』


 その情報を知ったのは一時間目が終わった休憩時間のことだった。


 『LINK』の着信を知らせる音が鳴り、アプリを開くと拓哉さん達も入っているグループにメッセージが入っていた。


 そこに載っていたのは姐さんと楽しげに笑っている筧のツーショット写真と『狂皇が三年A組に転校してきた!』という言葉。


 信じられない現実に言葉すら出なかった。


 まさかとか、冗談だろとか、そんな言葉しか浮かばない。

 

 でも休憩時間の度に送られるメッセージは嘘じゃなくて。


 俺は昼休みが始まった瞬間、全力で教室を飛び出した。


 階段を昇って、拓哉さん達の教室に乗りこむ。


 そこで俺の目に飛びこんできたのは、姐さんに抱き着く筧だった。 


 姐さんは困ったような顔をしているが、嫌悪感はなかった。


 名前に様をつけないし、敬語で話すこともなく、二人の親密さが見えた。


 なにより驚いたのは“あの狂皇”が見たことのない砂糖のような甘い顔をしていることだ。


 白藤高校の総長は残虐で気まぐれで狂っていると聞いてて、実際に喧嘩をしているところを見たこともあって、目の前の現実が夢のようにすら思えた。


 そういえば前に三浦が姐さんと筧が付き合っているといっていたけど、あれは本当のことだった……?


 教室の扉近くで呆然とする俺に最初に気づいたのは筧だった。


 姐さんを抱く腕に力をこめて、害虫でも見つけたように顔をしかめる。

 筧の態度に姐さんや拓哉さん達も俺に気づく。


「ねえ憩ちゃん。ここじゃあ落ち着かないから場所を変えない?俺、憩ちゃんと二人きりになれる場所がいいなあ」


 筧は抱く腕を離してやや強引に姐さんと視線を合わせた。


 姐さんは驚いた顔をしながら肯定の返事をしようとする。


「え?ああ、そうだね。じゃあ……」


 男と二人きりなんて!しかもこの男となんて何されるかわかったもんじゃない!


「ダメです!」


 俺の声が思った以上に教室に響いた。


 教室中の視線が集まるけど気にしない。

 姐さんをこいつに渡してたまるか!

 

「姐さんは俺達と一緒に過ごすんです!あんたはひっこんでてください!」


 俺は二人に近づき、いつものように旧音楽室に連れて行こうと思って、姐さんへ手を伸ばした。


「俺の憩ちゃんに触らないでくれる?」


 冷たい声と共に残像が残る速さで俺の手が払われた。


 声の主は無表情で俺を睨む。


「憩ちゃんは馴れ馴れしい奴は嫌いなんだ。だから目の前から今すぐ消えてくれる?」


 細められた瞳の奥に闇のように深い憎悪を見て、俺は硬直した。

 

 本能から警戒する。

 こいつは“ヤバイやつ”だと。


 多分見ていた奴らもそう思ったんだろう。

 教室が耳が痛くなりそうなほど静かだ。


「ちょっとゆーくん!城野様になんてこといってるの!?城野様は遅い私を立たせてくれようとしてくれただけだよ!城野様、大丈夫ですか?」


 姐さんは眉を吊り上げて筧を睨んで、俺の手を見ながら心配そうな顔をする。


 場の雰囲気が少し柔らかくなった。


 と、思ったら筧のどす黒い雰囲気でさっきよりも悪くなる。


 俺を様つけで呼んだからか、それとも敬語だからか。

 いや筧は怒られたのに、姐さんが俺の心配をしたからか。


「ほんとに大丈夫ですか?」


 何もいえない俺に姐さんはさらに心配になったのか、手を伸ばしてきた。


 いつもなら嬉しい行為も今は筧のせいでただ恐ろしい。

 

「大丈夫だよ。憩ちゃんと違って他の人間は無駄に頑丈に出来てるんだから」

 

 案の定、俺の手に触れる前に、さっきまでの雰囲気を隠した筧の手に行く先を変えられる。


 そのまま俺達に見せつけるように指を絡める。

 これには姐さんもさすがに抵抗するが、筧はにっこりと笑って離さない。


「いやいや!?そんな対して変わらないでしょ!?」


 精神的にはともかく、肉体的には姐さんの方が絶対弱い。

 

「それより早く行こうよ、憩ちゃん。こんなのに構ってたら昼休みなくなっちゃうよ?」


 筧だけを目に映すように顔を寄せた。


「そんなことをいってたら友達も出来ないよ?」


 姐さんは苦笑しながら筧から距離を取るも失敗した。


「俺は憩ちゃんがいればいいよ」


 胸焼けしそうな甘い顔と声が姐さんに向けられる。


 ああ、こんなことをされたらほとんどの女が落ちるだろう。

 でも姐さんは違った。 


「またそんなこといって。小学校の頃みたいに私だけと仲良くするなんて無理だよ。心配しなくてもゆーくんなら私と違って性格もいいからすぐに友達とか出来ると思うし、それでちょっとゆーくんと距離が出来たら寂しいけど、でも私達が友達なのは変わらないよ」


 取り付く島もないほど姐さんは筧とは恋人にならないといい切った。

 さらに将来的には距離を取るを考えているとも。


 多分、姐さん自身はそこまでいったつもりはない。


 でも筧は違った。

 迷子になった子どものように目に涙を溜めていく。


 遠まわしに俺にもいわれたような気がして、胸が締めつけられた。


 姐さんは卒業したら俺達と縁を切るのか。

 そんなの絶対に嫌だ。


「……憩ちゃんは俺を捨てるの?」


 聞き逃してしないそうなほど小さく、頼りない声で筧は縋り付いた。


 その姿に俺達はぎょっとする。


 すると姐さんはまた筧を睨みつけて、手を振り払った。


 姐さんが誰かに反抗したのは拓哉さんだけだ。

 でもそれは俺を守るためだった。


 今回は違う。


「今、捨てるとかそういう話してないよね?私はただゆーくんとも城野様ともお昼を過ごしたかったけど……もういいですよ。二人が勝手にするなら私も勝手にしますから。二人ともついてこないでください!」


 普段は優しい姐さんから向けられた怒りに声すら出ない。


 さっきみたいに手を伸ばさなきゃと思うも、金縛りにあったように動かせない。


 姐さんは俺達を一瞥することもなく、教室を出て行ってしまった。


 不気味なほど静かな教室を壊したのは筧だ。


 項垂れて呪いのように言葉を呟く。


「……憩ちゃんが怒った?俺に、怒った?しかも、ついてくるな?なんで、憩ちゃん?なんで?そんなこといったの?俺は何も怒らせるようなことをいってないのに?ありえない、絶対にありえない。俺達はいつでも一緒でしょ?憩ちゃんがそういったんだよ。ずっと一緒だって。だから憩ちゃんは俺のだよね。誰にも渡さない……誰にも、渡すものか」


 筧の目が鈍く光る。


 次の瞬間には首を掴まれて体を側に机に叩つけられていた。


「がっ!?」


 肺の中の空気が押し出され、背中から全身に痛みが走る。


 顔をしかめながら見上げれば虚ろな表情の筧と目が合った。


 筧が高く振り上げる手に握られているのはどこにでも売ってあるボールペン。


 両手で必死に筧の手を剥がそうとしてもびくともしない。

 むしろ力をこめられて、さらに首を絞められた。


「俺達の世界に君はいらない」


 筧は躊躇うことなく俺へ手を振り下ろす。

 

 鋭いペン先が迷いなく喉へ向かっていく。

 ボールペンでも柔らかい喉なら突き刺せる。


 つまり、筧は本気で俺を“殺そうとしている”。


 誰かが息を飲む声が聞こえた。


「……テメエ、ふざけんじゃねえぞ。涼に手を出すっつーことは死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」


 拓哉さんの鋭い視線が筧に向けられている。


「死ぬなんてありえない。俺は憩ちゃんと幸せになるんだから邪魔するなら君も消すよ?」


 筧は表情を変えずにいいのけた。


 拓哉さんが途中で筧を殴ろうとしたおかげで俺は生きている。


 拓哉さんが助けてくれなければ、筧が避けて振り下ろすのを止めなければ、俺は間違いなく死んでいた。


 遅れて冷や汗が出てきた。

 息もいくら吸っても整わない。


 見ているのと実際に相手にするのとは違う。

 これが『狂皇』。


 こんな奴に執着されるなんて姐さんは一体何者?

 

 筧の意識はすでに俺にはなく、拓哉さんに向けられている。


 互いに相手を潰そうとする一触即発の雰囲気。

 

「アンタ、こんなことしてていいのかしら?」


 いつもと変わらない蓮さんの声がそれを壊した。


「それはどういう意味?」


 ゆらりと筧は蓮さんに視線だけ送る。


「あらやだ。アンタ、まさか知らないの?女はね、愛を試すためにわざと突き放すようなことをいって逃げることがあるのよ。それなのに追いかけられなかったら高槻はアンタを嫌いになるわよ?」


 俺には姐さんが本気で一人になりたがっているように見えた。

 

 さすが蓮さん。

 女心をしっかりわかっている。


「憩ちゃんが、俺を、嫌いになる……?」


 筧の顔から血の気が引いていた。

 全力でボールペンを投げ捨てて、教室を飛び出す。


 誰もがそれを呆然と見ていた。


 変わりすぎじゃないか?


「涼、いつまで寝てるのよ?さっさと起きなさい」


 蓮さんにいわれてようやく体を起こした。


 まだかすかに体が震えていて悔しい。


「涼、大丈夫?」


 正義さんが心配そうに顔を覗きこむ。


「大丈夫です。かっこ悪いこと見せてすいません」


 俺は苦笑するしかなかった。


 正義さんは俺よりも痛そうな顔をして、首を横に振った。


「筧が危険だってことは知っていたけどまさかここまでだったとはね。下手なことをすれば本当に死者が出る。どうすればいいのか考えるだけで頭が痛いよ」


 湊さんは苦々しい顔をしながら額を押さえた。


「そうでもないわよ?」


 蓮さんだけはいつもの調子だ。


「気をつけることは三つよ。一つは筧とあの子を引き離さない。二つはあの子とクラスメイト以上の距離を取る。三つは」


 蓮さんはそこで言葉を区切り、いったん俺達を見渡した。


「あの子に興味を持たれないこと」


「無理だろ」


 そういったのは意外にも拓哉さんだった。


「俺達はもうあいつに関わった。今さら距離を取れるか」


 確かにそうだ。

 俺達はもう姐さんの近くにいる心地よさを知ってしまった。


 今さら離れるなんてできない。


「じゃあ協定でも結ぶしかないわね。筧を潰すのは、まあ時間はかかるかもしれないけど出来ないことはないわ。でもそれをやったらあの子は二度とアタシ達と関わらないでしょうね」


 蓮さんはどこか楽しげだ。


 その胆の大きさには驚かされるばかりだ。


「蓮は簡単にいってくれるけどどうやって協定を結ぶか考えてる?」


「それは湊が考えることでしょ?」


 湊さんは深いため息を吐いた。


 確かに他に適任者はいない。


 でも思った。

 姐さんはいつか俺達と筧、どちらかを選ばなきゃいけない時が来るんじゃないかって。


 その時に俺達を……いや拓哉さんを選んでほしい。

Q.筧寛の第一印象は?


高槻憩「大人しくて無口な子で、よく睨まれてたのでちょっと苦手でした」



Q.筧寛の現在の印象は?


高槻憩「すごくかっこよくなってて、あ!小学生の頃もかっこよかったんですよ。でもまだその頃は可愛いところもあって。だから再会した時は誰かわからなかったんですよね。友達なのにわからなかったってちょっと情けない話ですけど。え?ゆーくんも私が変わってて驚いたの?可愛くなった?ありがとう。ゆーくんはすごくかっこよくなったよ。え?顔押さえてどうしたの?はっ!?私にカッコいいとかいわれても嬉しくないよね!?ごめん!今の忘れて!」

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