新学期はサバイバルですか!?その9
高槻は鈍感系主人公ですか?
いいえ。精神的に腐ってる系主人公です。
体育館倉庫に閉じこめられるという衝撃的なことがあっても、私は今日も学校に来ている。
なぜかいろんな人に図太いといわれる私でも休みたいという気持ちもあった。
でも家の前で駅前の銅像になったほど有名な忠犬よろしくの笑顔を浮かべた城野様を見てしまっては仮病も使えなかった。
もし『頭が痛い』とか『お腹が痛い』なんていったらきっと大騒ぎで病院に連れて行かれる。
最悪、お花見で会った強面のお兄さん達も一緒かも知れない。
そんなリスクと天秤にかけた結果。
学校に行くことにしたのだけど、さっそく後悔してる。
「姉さんが閉じこめられたのは俺がもうすぐ授業が始まるからって油断してちゃんと守ってなかったからです!すいませんでした!」
玄関の扉を開けた瞬間、城野様はその場に土下座して叫んでくださった。
ご近所様のひそひそ声が辛い。
もう私どんな子だと思われてるんだろう……。
頭を上げない城野様を必死になだめて一緒に登校したものの、昨日とは全く違う態度で私の方が戸惑ってしまう。
城野様は私の鞄を持って(これはいつも通り)一歩先を周りを警戒しながら歩いている。
道行く人が目をそらしながらすれ違うから、城野様は相当怖い顔をしているみたい。
「城野様、空が綺麗ですね。遠くまで見渡せそうですよ」
「そうですね」
ひっじょうに気まずい!
一言って!
もう少しなにかいってほしかった!
家を出てからずっとこの調子でほんとどうしたらいいのかわからない。
昨日までなら『ほんとですね!向こうに月が見えますよ!今、満月なんでしょうか?それとも三日月?』とかおもしろいことをいってくれるのに。
こっそりと溜め息を一つ吐いて、城野様を観察する。
金色の髪はサラサラで髪になびく度にきらきらと残光が見える。
向井様達と比べて小柄な体だけど、それは私と違ってまだ成長期が来てないんだろうなって思う。
高校で急に背が伸びたって話はよく聞くからね。
背の高い城野様か……。
きっと今よりも筋肉質になって、顔立ちもあどけなさが抜けてキリっとして、私の頭を背伸びをしなくても撫でられる。
「……それはもう城野様じゃないなあ」
「なんの話ですか?」
「い、いえなんでもないです」
背が伸びた城野様を想像してたなんていえないから、曖昧に笑ってごまかす。
「……そうですか」
城野様は寂しそうな顔をしてまた前を向いた。
何も悪いことをしてないのにしたような罪悪感がする。
悪いことしてないよね!?
「あ!高槻せんぱ~い!」
あと少しで校門に着くというところで後ろから声がした。
振り返ると今日も上から下までばっちり決めた三浦さんがとびっきりの笑顔で私達の方へ走り寄ってきている。
今日もまた美少女コンテストに応募したいくらいのあざといくらいの可愛さ!
だがそれがいい!
「おはようございます。三浦さ」
「あんた、誰?あと姐さんの名前を軽々しく呼ぶな」
城野様が私と三浦さんの間に入り、睨みつける。
これは初期の『ツン全開』城野様!?
二週間くらい前までこれが普通だったのに久しぶりに見たような気がする。
第三者だとこんなに冷たい感じがするんだ。
「高槻先輩って姉さんって呼ばれてるんですか?じゃあ私も姉様って呼んでもいいですか?」
城野様がいうとなんともないけど、三浦さんがいうとなんか百合っぽくなるのはなんでだろうね!?
私の心が穢れているから!?
「無視するんじゃねーよ、一年!」
「え~。だって私にとってちっこいあなたなんてどうでもいいんですもん。それより~私と高槻先輩の邪魔しないでくださいよ」
三浦さん!?それ城野様の地雷です!
今すぐ撤回してください!
「俺に喧嘩売るなんて上等じゃん。高く買ってやるから感謝しな」
「だ~か~ら~私はあなたなんてどうでもいいんです。喧嘩してる時間があったら高槻先輩といちゃいちゃします~」
昨日の放課後と同じように二人の間に激しい火花が散る。
……おおふ。
朝からこれなんて修羅場。
どうしてみんな仲良くできないんだろうね。
思わず遠い目をしてしまうのは仕方ないことだと思う。
「おはよう、憩」
ああ!四分一様!
今日も今日とて素晴らしいギャップの笑顔で私を癒してくれますね!
「おはようございます、正義さん!」
ふふふ。実は春休みに特訓して新学期から四分一様の名前を呼べるようになった!
……まだびっくりした時とか心の中で呼ぶ時なんかは苗字だけど。
つまり私も成長するのである!
羞恥心と罪悪感を押し殺して名前呼びをすると何がいいかって?
四分一様がそれはそれは嬉しそうな、でも少し照れくさそうに笑ってくださるのだ!
もう許されるのならいくらでも呼んで差し上げたくなるくらいには素晴らしい表情です!
あまりの素晴らしさに心のシャッターを何度押したことか。
「高槻先輩……その人とどういう関係なんですか!?まさか筧先輩という人がいながら浮気ですか!?」
私の方が聞きたい。
三浦さんはどうしてそんな裏切られたって顔をしているんですか?
「いや私とゆーくんはそんな関係じゃな」
「浮気じゃねえ!姐さんは拓哉さんの女なんだから正義さんと喋るくらいフツーだっての!」
お二人さん、誤解に誤解を重ねないでくれますかね!?
四分一様なんて意味がわからなくておろおろされてるじゃないですか!?
ああ、それもそれで体格とのギャップがあって可愛らしい!
「姐さん!」
「高槻先輩!」
二人がまた睨み合ったかと思ったら、そのままの視線で私を射抜く。
「「こいつのいってること嘘ですよね!?」」
なんでそこで綺麗にハモるかな?
ほんとは二人とも仲良しなんじゃない?
そもそも向井様もゆーくんも付き合うなんてありえない。
向井様はいうまでもないけど、ゆーくんだって昔からかっこよかったから私のことは恋愛対象として眼中にないと思う。
だからといって否定したところで二人が納得してくれるわけもないだろうし……。
うん!これはあの手を使おう。
「ご想像にお任せします」
予想外の言葉にぽかんとした三人を置き去りにして校舎へと全力で走る。
作戦名『否定も肯定もしない臨機応変(曖昧にごかませる)に使える便利な言葉、ご想像にお任せします』である。
今回の作戦は見事に成功し、無事に教室へと辿りつくことが出来た。
……今後が恐ろしくてたまらないけど。
Q.高萩雪彦の第一印象は?
高槻憩「お兄さんの蛍さんに似てますがちょっと吊り目がちで男のらしい勝気な感じがしました。でも向井様達が怖いけどそれを見せたくないって強がってるのがバレバレでとても可愛いかったですね」
Q.高萩雪彦の現在の印象は?
高槻憩「数分で四分一様の魅力に気づかれるなんて私なんかよりもずっと人を見る目があると思います。純粋で可愛いもの同士わかったんでしょうか?きっとそうですね!そうに違いありません!将来が楽しみな人です!どんな彼氏と付き合うんでしょうね!え?雪彦君は鈴ちゃんが好き?そうなんですか!?それはそれでおいしいです!兄の彼女の妹に恋しちゃった系ですね!私、わかります!」




