新学期はサバイバルですか!?その7
図太い高槻でも落ちこむんです。
初日の放課後に倒れて、その時に上半身裸の向井様に抱きしめられるっていう信じられない夢を見た。
それも汗の匂いや体温まで感じるリアルな夢。
しかも私好みの大変おいしそうな(腐女子的な意味で)筋肉。
心のフィルムにばっちり保存させてもらいましたとも!
ええ。永久保存です!
目が覚めた時に向井様はシャツを着てたから絶対に夢。
自分の欲求不満っぷりが恐ろしい。
これも春休みに買った指南書のせい!?
なんて思った日から二日が過ぎて、新学期が始まって今日で三日目になりました。
サバイバル期間は時間が過ぎるのが遅い。
今年は特にそう感じる。
なぜかって?
一日のほとんどを向井様の隣で過ごしているからだよ!
ああ、毎日、胃が痛い。
存在感だけで精神がガリガリ削られ、不意打ちの暴力に肉体もミシミシ軋む。
これじゃあ鞭と鞭ですよ。
飴をください、切実に。
そう訴えたら四分一様が棒付きキャンディーをくれました。
そういう意味じゃないんですけど、その優しさはプライスレスです!
心にしみました。
四分一様は癒しです、マイナスイオンです。
反論は許しません!
城野様は萌えの発信源ですが、あざとい笑顔で私の精神を削ってきます。
初日の宣言通り、毎朝一緒に登校します。
ご近所の噂の的です。
毎朝すれ違う度にひそひそされます。
葉山様は相変わらず意地悪です。
容赦ない毒舌と冷たい視線が飛んできます。
でもどう罵倒されるのか楽しくなってきている私がいます。
イケナイ道に行く前に引き返さなくては。
関元様はおかんです。
特に向井様と城野様に対しての態度が反抗期の息子と母です。
見ていて微笑ましくなるレベルです。
いや関元様は苦労しているんですけどね。
突然こんなことを考え出したのは今の状況のせい。
今、私は放課後の体育館倉庫の床で寝ております!
かび臭くて中に舞う埃が光に照らされて綺麗です!
出入り口は扉が一つだけで、窓には鉄格子がはまってます!
いや誤解されたくないんだけど、好きでこんなところにいるんじゃない。
例のごとくいじめですよ。
向井様達で近くにいる私が気にくわないんだそう。
好きで側にいるんじゃないんですけど。
のしをつけてプレゼントしたいくらいですよ。
六時間目の体育の授業が始まる前に学年関係なしの十人くらいのお姉さま方に迫られ、押しこめられ、蹴られ殴られ罵倒され。
あげくに閉じ込められるとか、もう笑うしかないよね。
それともお兄さん達に襲われなかっただけマシとでも思えばいいのか。
南並さんなら喜んだかもしれないけど、私は怖かった。
うん。体中が痛くて起き上がる気力さえない。
けどこのままじゃ朝まで誰にも気づかれずに夜を明かすことになりそう。
さすがにそれだけは嫌だ。
体に鞭打ってポケットに入れていたスマホを取り出す。
奇跡的に無事だった。
さすが私の相棒。
これでおか……じゃない。
関元様に連絡して助けてもらおう。
真っ暗な画面をタップしてロックを解除する。
でも反応はない。
え?え?嘘でしょ?
このタイミングで充電切れとか勘弁してえええええ!?
確かにね、昨日の夜に充電を忘れて朝から電池が残り少なかったんですよ。
でもね、もう少しだけ頑張って欲しかったっていうのは私のわがままかなあぁあああ!?
いけない、いけない。
絶望的な状況に荒ぶってしまった。
落ち着け、私。
冷静にならなきゃいい案は浮かばないぞ。
あ、そういえば鞄は更衣室に置いてた。
……ということはつまり私の鞄はこの間にも悪戯されちゃったりしているかもしれないわけで。
顔から血の気が引いていく。
私の鞄は絶対無事にすまないよ……。
今月は半年前から楽しみにしてたBLゲーの発売日だったのに、教科書代とかに消える!
初回限定版の特典がドラマCDと声優さんのコメントと壁紙のセットだったのに!
ハハハハハ。
もうどうでもいいや。
今なら血涙が流せそうだ。
こんなの絶対おかしいよ。
ふいに扉越しに人の気配がした。
まさかさっきの人たちが帰ってきた!?
慌てて体を起こそうとするけど、痛くて思ったように動けない。
鍵を開ける音がして扉が開く。
私は眩しい光に瞼を固く閉じて、頭を守るように体を丸めた。
「高槻先輩?」
戸惑うような聞き覚えのある声が頭の上から降ってきた。
その人からは敵意を感じない。
恐る恐る腕の隙間から顔を出して、その人を見上げた。
逆光でよく見えなかったけど、相手は私の顔が見えたみたい。
「ほんとうに高槻先輩じゃないですか!?その怪我はどうしたんです!?」
私の側に慌ててしゃがみこんで抱き上げてくれた。
非常にいいづらいんだけど一ついいたいことがある。
「あなたは誰ですか?」
私のことを知ってるみたいだけど、私はこの人のことを知らない。
ハニーブラウン色のゆるふわカールされた髪もちょっと濃い化粧も可愛いけど、うちの学校じゃよく見る。
「真顔でそんなことをいっちゃうなんて先輩ひどいですよ~。お花見で会ったじゃないですか」
そういわれてようやく思い出した。
そうだった!
この人はお花見で私の嘘に付き合ってくれたちょっと見た目が派手な優しい人達の一人!
「その節は大変助かりました。ありがとうございます」
あの日はけっきょく向井様達に見つかってしまったけど、葉ちゃんやそのお友達さんと会えて楽しかった。
「先輩の方が年上なんですから私に敬語なんて止めてくださいよ~。あ、私は今年入学した三浦瑞貴っていいます。まさか先輩と同じ学校だなんて思いませんでした」
そりゃそうだと思う。
私はこの学校で浮きまくっているからね!
「それより先輩!怪我しちゃってるじゃないですか!保健室に行きましょ!」
三浦さんは私を起き上がらせてくれただけじゃなくて、肩も貸してくれた。
この時期の保健室に行くのは人がたくさんいるから嫌なんだけど、そうもいってられないよね。
三浦さんとお互いのことを話しながら話す保健室までの道のりは、憂鬱な心とは正反対に楽しかった。
Q.椎葉日向の第一印象は?
高槻憩「城野様と同じくらいの身長でわんぱくな少年みたいな感じですね。方言が可愛いです!」
Q.椎葉日向の現在の印象は?
高槻憩「方言萌え、ですね。SPの自由さんと絡みが素晴らしいと思います。ええ、お二人の薄い本が何冊も出来そうです。いっそ作ってしまいたいです!とりあえず貴重な萌えをありがとうございます。末永く爆発してください!」




