新学期はサバイバルですか!?その3
深まる正義の謎。
つい勢いのまま、コメントしちゃったけど、あれ一つで事態が好転するはずがない。
…………っていうことは最悪、newさんは責任をとって歌手を辞めて、コンビ解散になっちゃうかもしれない!?
もしそうなったらこれから私の貴重な萌えが失われてしまう!
いや萌えのためだけじゃなくて、純粋に二人の歌が好きっていう気持ちもあるよ!
だからそれだけは絶対にさけなければ!
でもどうしたらいいんだろ?
書き込みはさっきやったし、これ以上やっても荒らしさんとかともめるだけ。
だったら事実を見つける?
newさんとフォールさんの本名も知らないのにどうやって?
第一、赤の他人の私が二人のことを調べたらストーカーと変わらないんじゃ……。
あー!もう!
ほんとにどうしたらいいのかわからない!
私は机にスマホを置いて、その上に覆いかぶさるように腕を枕にして突っ伏した。
「私なんかが頑張ったところでなるようにしかならないのかな……」
「なんの話かな?」
ふいに聞こえてきた声に少しだけ顔を上げると前の席に座った関元様が体を後ろにひねっていた。
「い、いい、いえ!?なんでもないです!ただの一人言です!」
慌てて身体を起こして、首を左右に振る。
一人言(しかも愚痴!)を関元様に聞かれるなんて恥ずかしすぎる!
「とてもそんな風には見えないよ。それに約束したよね?高槻さんを助けるって」
関元様はそれはそれは慈悲深い笑顔を見せてくださいました。
背中にキリスト様のような神々しい光輪が見えそう。
とてもじゃないけどそんな関元様に『命よりも大事な歌手のためになにをしたらいいのかわからない』とかいえない……。
むしろなんか罰が当りそう。
「ほんとになんでもないです!」
「そう?なら無理に聞かないけど一人で解決出来そうになくなったら俺にいってね。絶対に解決してあげるから」
関元様の言葉に不穏な空気が混じっているような気がするけど気のせいですね?
いじめの時みたいに暴力で解決しようとか思われてないですよね?
気になるけど肯定されたら怖くて、聞くに聞けない。
「あ、ありがとうございます……」
乾いた笑い声が口から漏れる。
関元様は頼りがいがありすぎます。
「そういえば四分一様はどうしたんですか?」
「命知らずの馬鹿に教室近くで絡まれてたから置いてきたわ」
私の疑問に答えてくれたのは葉山様だった。
左斜め前の席に座ってこちらに体を向けている。
ひどいのは私に対してだけじゃなかったようです。
あとさり気なく席についてますけど、葉山様も同じクラスなんですね。
「正義に手助けなんていらないわよ。むしろ邪魔ね」
葉山様は私の心を読んだようにそういった。
四分一様が強いのは実際に見たことがあるから知っている。
だから怪我してないかとか、やり過ぎてないか気になる。
「噂をすれば」
葉山様の視線をたどると四分一様がいた。
「おはよう」
片手を軽く上げて、マイナスイオンたっぷりの笑顔をくださった。
いつもなら癒やされる笑顔も今日は違った。
なぜかって?
「し、四分一様!?あ、ああ、頭から血が出てますよ!?」
緑色の髪と血でクリスマスカラーですね!?
いやいや!落ち着け、私!
そんなのんきなこと思ってる場合じゃない!
「正義、また油断でもしたの?これで何度目よ」
葉山様が呆れたようにそういう。
「今回も派手にやられたね。とりあえず包帯巻くから自分の席に座って。正義の席は俺の前だよ」
関元様は苦笑しながら、四分一様に前の席を進める。
「ん。次から気をつける。湊、ありがとう」
四分一様は席に座る。
なんで普通に会話できるんですか!?
頭から血を流してるんですよ!?
「正義は警戒心が薄くて昔からよく大怪我するんだよ」
関元様は立ち上がって四分一様の傷を綺麗に消毒してから、包帯を巻く。
その手つきはなめらかで治療に慣れているのがわかった。
「たいした怪我じゃない。すぐに治る」
かすり傷みたいにいってますけど、かなりの大怪我ですよ!?
今だって頭がペンキをかぶったみたいに赤い。
四分一様はどこの喧嘩人形さんですか!
「それは正義とアンタの家族だけだから。一般人なら二週間はかかるわよ」
四分一様が規格外なのは身長だけではないらしい。
四分一様のご家族は何者なんだろうか。
まさか十五年連続で優勝したっていう強さに殿堂入りした、総合格闘技世界王者『ヘラクレス・ストレンジ』がお父様?
いやいやそんなわけない。
四分一様があの人の息子なら日本になんているわけない。
きっと強くなるために世界中を飛び回っていると思う。
治療はすぐに終わった。
……って。
なに普通に授業を受けようとしているんですか!?
「四分一様、今すぐ病院に行った方がいいです!いえ行ってください!」
四分一様はきょとんとした顔をする。
ああ、そんな表情もギャップできゅんとくる。
いや和んでる場合じゃない!
「頭の怪我は後遺症が残るかもしれないんですよ!?」
「高槻さん、正義なら大丈夫だよ。血はもう止まっているし、骨も折れてない。多分、放課後には治っているんじゃないかな」
それはもう規格外ってレベルではないのでは?
「憩、心配してくれてありがとう」
四分一様は嬉しそうに笑った。
もしかして四分一様は体が強いから怪我をしてもあまり家族に心配されなかったのかな?
心配されないっていうのは寂しくて悲しい。
まるで世界に自分一人だけになってしまったような気がするから。
「……それは心配しますよ。だって暴力で怪我したら痛いし、怖いじゃないですか」
「怖い?」
四分一様は強いから怖いとか思わないんだろうなあ。
「理由はなんであっても人から暴力を振るわれるのは怖いです。誰も信用できなくなりますし」
暴力は殴られたり、蹴られたりとか直接的な物だけじゃない。
言葉であったり、物を壊されたりするのも立派な暴力だ。
「憩、怖がらせてごめんね」
四分一様は寂しそうな、辛そうな顔をする。
思い当たるのは四分一様が私を助けてくれた時に暴力を使っていた時。
確かにあの時は怖かった。
でもそれは四分一様に対してではない。
「四分一様なら怖くありません」
たった一か月くらいの付き合いだけど、四分一様がどんな人かは少しはわかった。
少なくとも理由もなしに誰かを傷つける人じゃない。
笑ってそういえば、四分一様の顔が少しだけ緩んだ。
Q.南並歩真の第一印象は?
高槻憩「残念なクール系美女ですね。いきなり抱き着かれたのでかなり怖かったです」
Q.南並歩真の現在の印象は?
高槻憩「女の子と子どもが好きな人ですね。かな……す、少し!欲望に忠実なところがあるみたいですけど、悪い人じゃないと思います!ええ!本当に少しだけです!それよりも向井様に怯えることなく立ち向かっていく姿は勇者みたいにかっこよかったです!え?後ろ……?ひぃっ!?向井様いつからそこに!?」




