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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第二章  高校3年生4月
53/111

新学期はサバイバル?

 城野、戦闘回。

 姐さんはいろいろ無自覚だ。


 それは俺を庇った時だってそうだし、お花見の時だってそうだ。


 お花見の最後で姐さんはチューハイで酔って拓哉さんに抱きついていた。


 普通の男なら誘われたと思って、そのまま家に連れて行かれてもおかしくない。


 まあ、男の中の男である拓哉さんはそんなことしなかったけど。


 約二週間の春休みが終わり、今日から新学期。


 ゴールデンウィーク前までの一ヶ月間は校内が権力抗争で荒れる。


 春休み前の一ヶ月で姐さんの知名度は一気に上がり、今や在校生で知らない者はいないくらいだ。

 

 だから拓哉さんの座を狙うやつらや、惚れている女どもが姐さんを狙っている。


 多分、時間がたてば新入生からも狙われることになると思う。


 本当は拓哉さんが守るべきなんだってわかってるけど、今年も拓哉さんは自分のことで精一杯なはずだ。


 湊さん達も同じだろうし、他のやつらじゃ力不足過ぎる。


 そう考えた時に残ったのが俺だった。


 俺は拓哉さん達ほど絡まれないし、姐さんを守る力もある。


 蓮さんは過保護すぎるとか、姐さんならほっといてもなんとかするっていってた。


 でも姐さんは自分の身を投げ出して拓哉さんから俺を庇ってくれたんだ。


 なら男として俺もそれくらいしなきゃダメだろ。


 いつもよりも一時間早く起きて家を出る。


 姐さんの家は前に送ったことがあるからしっかり覚えている。


 学校へ行くのに遠回りになるけど、姐さんのためだと思えば苦じゃない。


 姐さんの家についた時、ちょうど出てくるところだった。


 いつも通り制服をきっちりと着こなし、地味な黒縁眼鏡をかけ、スニーカーを履いている。


 お花見時みたいな着飾った姿もいいけど、こっちの格好も姐さんらしくて落ち着くからいい。


「あ!姐さん、おはようございます!」


 腹から声を出し、笑顔で挨拶する。


 姐さんは俺がいることにびっくりしてその場で飛び上がった。


 姐さんは何に対しても反応が大きい。


「お、おはようございます。どうして城野様がわざわざ家に?」


 姐さんは俺のことを様づけして敬語を使う。


 何度やめてほしいっていっても聞き入れてもらえない。


 姐さんの方が年も立場も上なのに……。 


「そんなの決まってるじゃないですか!今日から新学期ですよ!?姐さんが変なやつらに絡まれないようにしばらく俺がボディーガードになります!」


 俺は姐さんの目をじっと見つめる。


 ちょっと距離を取られて地味に傷つくけど、多分無意識だ。


「そんな気にしないでください。今までなんとか乗り切りましたし、今年も大丈夫ですよ」


 姐さんは危機感なんて全くないようだ。

 

 なんでそんなに危機感がないだ!


「そうかもしれませんけど……もし姐さんが怪我でもしたら俺は絶対後悔します!」


 力説したのに姐さんはきょとんとした顔だ。

 

 俺のいいたいことが全然伝わってない。


「俺じゃ拓哉さんより頼りないってわかってます。でも俺だって姐さんを守りたいんです。そう思うのはうざいですか?」


 目を潤ませて、すがるように姐さんを見る。


 男らしくないけど姐さんがこの目に弱いことを知ってる。


「えっと……なら初日で不安なので“今日だけ”お願いしてもいいですか?」


 姐さんの笑顔が引きつってるけど、許可をもらった。


「はい!“今日から毎日”頑張ります!」


 俺は安心から自然と笑みがこぼれる。

  

 出来るだけさり気なく、姐さんから鞄を奪った。


 俺が鞄を持っていたら姐さんは逃げられない。


 蓮さん直伝の技はどこで使うかわからなかったけど、このためにあったんだ。

  

 姐さんがなにか決意に満ちた顔で口を開く。


 嫌な予感がしたからかぶせるように声を発した。


「姐さんと一緒に登校できて俺は朝から嬉しいです!」 


 ついでに満面の笑みを浮かべる。

 蓮さんいわくここぞという時に笑うといいらしい。


 姐さんは眩しそうに目を細め、胸を押さえた。


 体調が悪いんだろうか?


 ちょっと心配だ。


「あ!そうだ!姐さん、お昼も一緒に食べませんか?なにかあっても守りますよ!」


 これなら一緒に過ごせるし、姐さんを守ることだって出来る。


 姐さんと過ごす時間は楽しくてあっという間に学校近くまで来てしまった。


 学校に近づくにつれて視線も増えていく。


 あちこちから暴力に飢えたやつらの敵意に満ちた視線を感じる。


 チリチリと肌に刺さる感覚は去年までの俺だったら気分が高揚していたのに、今年はうざいとすら思う。


 それは隣に姐さんがいるからだ。


 守らなきゃって気持ちももちろんある。


 だけどそれだけじゃなくて、姐さんの隣にいるとなぜか穏やかな気持ちになれる。


「高槻!」


「ヒャい!?」


 突然の大きな怒声に姐さんの声が裏返る。

 しかもそれだけじゃなくて細い肩が飛び上がった。


 周りにいたやつらの視線がさらに集まる。


 あんたらなに見てんだよ。

 姐さんは見世物じゃねえ!


「ぼーっと歩くな!一歩校内に入れば戦場だと何回いえばわかる!」


 姐さんを驚かせたのは、校門前に仁王立ちする生徒指導の御崎衛門だった。


 拓哉さんの組のやつらみたいな顔と体をしてるくせに担当教科は家庭科。


 俺は今だにこいつが先生であることが信じられない。


 大学を脅して教師免許を取ったっていわれたら納得するけど。


 姐さんは御崎に目を付けられているらしい。

 

 御崎は気に入ったやつには親しく接する。


 今もわざわざ姐さんに忠告しているし。


 でも姐さんは御崎のことが苦手らしい。


 目を合わせないようにしてて、逃げ腰だ。


 突然、御崎の後ろから叫び声と野次が聞こえてきた。


 どうやら喧嘩が始まったらしい。


 御崎は野生動物並みの素早さで喧嘩をしている二人の元へ走った。


 木刀を使わずに拳で二人を無力化してどこかへと引きずって行く。


 この間、わずか一分だった。


 うちの学校は暴れる生徒を止めるためか、喧嘩に強い先生が何人もいる。


 その中でも四天王と呼ばれる四人の先生は拓哉さんや正義さんでも戦いたくないくらい強いらしい。


 実際に実力差がわからない新入生(バカ)が喧嘩をふっかけて、病院送りにされた話を聞いたことがある。


 俺なんかじゃ絶対に敵わねえ。


 靴箱前の掲示板に貼り出された新しいクラス分けを見る。


 運のいいことに俺と姐さんの他には誰もいなかった。


 自分のクラスより先に拓哉さん達の名前を探す。三年A組から順に探していく。


 出席番号は五十音で男女混合の順だ。


 拓哉さん達は皆同じクラスだった。


 こういう時に学年差を感じて、寂しくなる。


 同じ学年だったら……なんて何回思っただろう。


 でももし同じ学年だったら、拓哉さんに助けられることもなかったし、姐さんにも会えなかった。


 けっきょくはこれがベストなんだと思う。


「姐さん、よかったですね!」


 俺は隣にいる姐さんに笑いかける。


「そうですね。クラス分けしてくれた先生にお礼をいいたいです」


 姐さんは嬉しそうに笑っていた。


 拓哉さんと同じクラスになれたことがそんなに嬉しいの?


「なあ、あいつ向井の腰巾着の城野じゃね?」


「ああ。ほんとだな」


「今度はあの女に乗り換えたのか?」


「チビで地味で体もいまいちそうだな」


「趣味悪っ!」


 カラフルな頭をした五人組がこっちにやってくる。


 俺と姐さんの時間を邪魔しやがって……!


「テメェら姐さんを馬鹿にしてんのか?」


 俺はゆっくりと振り返って男達を鋭い目つきで睨みつける。


 それだけで相手はひるむ。


「は?ねえさん?」


「なにそいつお前の姉なのか?」


「似てねえ!」


 でもこいつらは馬鹿だった。

 さらに勘違いまでしてやがる。


「姐さんは拓哉さんの女だ!だから俺の姐さんなんだ!」


 二人はお似合いのカップルだ。

 

 いつか結婚したら姐さんは本当の意味で姐さんになる。

 

 組のやつらの反応も悪くなかった。


「姐さんのことを悪くいうやつは俺が許さないから」


 だから姐さんは拓哉さんと同じくらい大切な存在だ。


「ハッ!許さねえならどうすんだ?」


「決まってんだろ。二度と姐さんの悪口をいえないようにぶっ殺す」


 わざわざいうまでもないことだけど、きっちりいっておく。


 また姐さんに喧嘩を売るなんて考えられないくらいにしてやる!


「姐さん、こいつらのことは俺に任せて先行っててください。すぐに追いつきますから」


 姐さんに喧嘩してるところなんて見せたくない。


「いや、でもですね……」


「大丈夫です。こいつら程度なら俺一人で十分ですし。それより姐さんが遅くなるほうが悪いですし」


 この程度のやつらならすぐに片付けられる。


「すみません。先に行きます。怪我しないように気をつけてくださいね」


 怪我しないで、なんていわれたのはいつぶりだろう。

 

「はい!わかりました!」


 満面の笑みで返事をする。


 そして絶対に怪我しない、と心の中で誓う。


 俺が怪我したら姐さんはきっと気にするから。


「ふざけんじゃねえぞ、城野!」


「今日こそぶっ殺してやる!」


 あいつらが一斉に向かってくる。


「姐さん、早く行ってください!」


 俺は慌てて姐さんに叫ぶ。


「すみません!ありがとうございます!」


 姐さんは頭を下げて急いで教室へと向かった。


 校舎に入るのを見送る前に一人の男が俺に殴りかかってくる。


 それを屈んで避けて、お返しにガラ空きの腹に一発入れてやった。


 男はうめき声をあげてその場に崩れ落ちる。


 後ろに回ったやつが羽交い締めにしてきたから、後ろ向きに頭突きをする。

 鼻骨の折れる感触がした。


 そいつの力がゆるんだ隙を見逃さす、拘束から外れる。


「城野ぉおおお!」


 ブチ切れしたやつがバタフライナイフをポケットから取り出して、俺に振りかざした。


『ねえ、アンタは強いやつの条件ってなにかわかるかしら?』


 ふいに昔、蓮さんにいわれたら言葉を思い出す。


 大丈夫。

 蓮さんのいいたいことわかってます。


 強いやつの条件は『相手の動きを先読み出来る』こと。


 だからなにがあっても冷静に見極めろ。

  

 俺は男のナイフを持っていた手を蹴り飛ばす。


 ナイフは数十メートル以上飛んで地面に突き刺さる。


 体勢を整えて、呆然とする男の顔へ回し蹴りを放つ。


 正義さん直伝の回し蹴りは相手の意識を刈り取る。


 もっとも正義さんなら意識だけじゃなくて命さえも奪う。


 男は白目を向いて地面に倒れた。


 俺は残った二人に向き直って、一つ聞く。


「まだやるの?」


 二人は首を横に振り、腹に一発入れた男と倒れた男を抱えて逃げた。


 鼻骨を折ったやつは自力で逃げていた。


「涼は相変わらず甘いわね」


 少し離れた場所から蓮さんの声が聞こえてきた。


 声の方へ顔を向けると蓮さんだけじゃなくて、拓哉さん達もいた。


 服が少し汚れていたけど、怪我はしてないようだ。


「まあまあ。今日は初日だし、警告ならこのくらいでいいと思うよ」


 湊さんは苦笑しながらも、毒を吐く。


 姐さんと出会う前の湊さんは拓哉さんの邪魔になる人に対して容赦がなかった。


「憩は?」


 正義さんは数人の他人に興味がなかった。


 それ以外の人はどうでもよくて、瀕死の状態でも無視していた。


「姐さんは先に教室に行ってもらってます」


「涼の判断は正しかったよ。喧嘩になれてるっていっても巻きこまな位保証はないしね」


「そうかしら?あの娘なら自分でなんとかしそうだけど?」


 蓮さんは姐さんをなんだと思っているんだろ?


「あ!そういえば姐さんが“拓哉さん達”と同じクラスで喜んでました!」


 あの時の姐さんの顔を見せたかったな。


「アタシ達が同じクラスなんておかしいでしょ。担任の胃に穴でも開ける気かしら?それともノイローゼ?」


「厄介払いかな?まあ担任の先生は誰でもいいけど」


「憩と同じくクラス」


 正義さんは目に見え嬉しそうだ。


 拓哉さんはほんの少し顔を赤くして、あらぬ方向を見えいた。


 疲れているのかな?

Q.主人公(?)高槻憩の第一印象は?


佐々竹相思「クラスで一人はいる休憩時間とかに誰とも喋らずに本とか読んでそうだった」



Q.主人公(?)高槻憩の現在の印象は?

  

佐々竹相思「直接喋ってないからよくわからねえけど……言動だけで外見と中身のギャップがすげえな。大人しそうに見えるのに向井にいいたいこととかはっきりいうし。さすが長澤先輩の友達って感じだな」

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