再会まであと少し
間が開いてしまってすみません。
今回は新キャラ視点です。
※8/29
勝手ながら思うところがあって、寛の苗字を変えました。
俺は女装をするのが好き。
見た目を変えただけで別人になったような気がするし、男だって知らない人にチヤホヤされるのが楽しい。
でも一番の理由は俺が可愛い物とか綺麗な物が好きだから。
ガーリー系も捨てがたいけどギャル系のほうが好き。
だから今日の格好もギャル系にしてみた。
ハニーブラウン色のゆるふわカールウイッグを地毛にセットして。
肩出しバッククロスカジュアルロゴTシャツ、迷彩柄のハイウエストショートパンツにニーハイブーツを合わせて。
メイクはピンク系が主だけど、アイシャドウは青系統で大人っぽく。
全てが終わって鏡を見れば、男らしさはなくなってもう女にしか見えない。
鏡の前でくるりと回って、にっこり微笑む。
ああ、今日の俺も可愛い。
今日は中学の先輩と三時に会う約束をしている。
なんか俺に話したいことがあるらしい。
心当たりはないけど、暇だから会うことにした。
今はまだお昼を過ぎたところ。
暇つぶしをかねて近所の花見会場に来てみたら、俺好みの女を見つけた。
百五十センチ以下の身長に染めたことないんじゃないかってくらい黒い髪。
身長は小さいけど胸は小さくなくて、CかDくらいはありそう。
顔は上の下くらい。
すっぴんなら中の中くらいだと思う。
ただ童顔だから胸がないと小学生に見えたと思う。
ガーリーだけどカジュアルな服装は似合ってて、服のセンスはいい方。
トイレで会ったその娘は酔っぱらいに追いかけられたとかで、ちょっと怯えてるように見えた。
別に俺は女を泣かせる趣味はないけど、この娘にそそられて、別の意味でもっと泣かせたくなった。
でも残念なことにその場にいたのは俺だけじゃなくて、適当に口説いた女も一緒だ。
しかたなく今すぐ口説きたい気持ちを抑えてトイレから離れた場所で別れた。
あ!しまった!?
名前と連絡先を聞き忘れた!
と、かなり後悔した。
しばらく意味もなく会場を女達とブラブラして別れた。
今日、会う相手はすごい気まぐれな人だから約束の時間に遅れたら帰るかもしれない。
待ち合わせ場所は全国チェーンのファミレス。
値段が安くてそこそこ美味しいから、家族連れから学生まで幅広い年代に人気だ。
時間より十分早くつくと相手はすでに待っていた。
「遅れてすみませ〜ん。もしかして待たせちゃいました?」
先輩は俺に気づくと手元のアイスコーヒーから視線を上げて、笑顔を見せる。
「ううん。俺も今来たところだし、約束の時間よりも早いから謝らなくていいよ」
「ありがとうございま〜す」
向かいの席を勧められたから、素直に座る。
よかった。
今日は機嫌がいいみたいだ。
でもこの人の機嫌は山の天気並みに変わりやすいから油断できない。
「最近、瑞貴ちゃんに会ってなかったけど元気そうで安心したよ」
瑞貴、というのは俺の本名。
漢字は可愛くないけど、響きが可愛いから気に入ってる。
「心配してくれてたんですか?嬉し〜です。先輩も元気そうでなによりです」
「そう見える?」
あ、やばい。
地雷踏んだっぽい。
理由はわからないけど先輩がちょっと苛立ってる。
この話はやめよう。
「それより〜。今日はどうしたんです?先輩が直接私にお話したいっていうなんて珍しくないですか?」
「ああ、そうだったね。急に呼び出してごめんね?」
苛立ってる感じはなくなったけど、眉尻を下げて申しわけなさそうな顔をする。
「いえいえ〜。私、けっこう暇してるし、先輩のこと好きですから全然かまいませんよ」
この格好で“好き”っていうと誤解されることも多い。
だけど、先輩はありがとうっていって流してしまう。
最初は無視されたみたいで悔しかった。
でも先輩が他人に興味がないってわかってからは気にならなくなった。
先輩って、垂れ目で犬っぽい可愛い顔で基本的に言動が優しいから、けっこうモテるんだけどみんな断る。
噂ではずっと片思いしている人がいるらしい。
「……俺さ、ずっと探してる娘がいるんだけどなかなか会えなくて。いろんな人に探してもらってるんだ。それで瑞貴ちゃんにも手伝ってもらいたくて。だめかな?」
噂は本当だったらしい。
あざといくらいに潤んだ目で首を傾げる先輩。
俺じゃなくて他の女なら絶対に惚れてる。
「いいですよ〜。その人ってどんな人なんですか?」
「最後に会ったのが小学生の頃だから今と変わってるかもしれないけど……」
先輩が取り出したのは二人の小学生が並んで写ってる写真。
一人は小さい頃の先輩で、もう一人は花見会場で見た女そっくりだ。
「あっ!この娘ならさっきお花見会場で見ましたよ。なんか酔っぱらいに追いかけられたとかで怯えてて可愛かったです。久しぶりに手が出ちゃいそうになりました〜」
俺は冗談混じりに笑う。
でも手を出さなくてよかったと内心冷や汗をかく。
先輩の片思い相手に手を出したりなんてしたら、何されるかわからない。
この時、俺は先輩が無表情になっていることに気がつくのが遅れた。
先輩はグラスを片手に立ち上がり、俺の頭上でそれを傾けた。
カラン、と軽い音を立てて、氷がテーブルを滑り落ちる。
俺はコーヒーをしたたらせながら、呆然と相手を見ることしかできなかった。
数秒、いや数分だったかもしれない。
それくらい経ってから俺はなにをされたのか理解した。
「なんで連れてこなかったの?俺がどれだけこの娘を探してたか知らなかったから?」
かけられたアイスコーヒーよりも冷たい先輩の視線が俺に向けられる。
春で暖かくなってるはずなのにひどく寒い。
「すみません。私、まさか先輩がこの人を探してるなんて」
「それを判断するのは君じゃなくて俺でしょ?ほんとに悪いと思ってるなら俺の目の前に今すぐ連れてきてよ」
俺の言葉を遮ってとんでもない無茶を当たり前のようにいう。
そんなこと出来るわけがない。
「……別れてから数時間経ってるんでもう会場にいないと思います」
多分もう家に帰っているだろう。
「ほんと君達って使えないよね。俺が指示しなきゃ何にもできない。こんなことになるってわかってたらホットコーヒー頼んだのに」
先輩はなんでもないことのように残酷なことを呟きながら座る。
それが冗談ではなく本気であることを瑞貴は知っている。
先輩が今までにやった人とは思えないような数々の残酷な行為を思い出し、自然と体が震え出した。
異様な雰囲気に昼下がりで賑やかだった喫茶店内は静まり返っている。
先輩はそんなことを気にせず、足早に隣を通り過ぎようとしたウエイトレスを呼び止めた。
「あ、お姉さん、すみません」
ウエイトレスはびくりと肩を震わせつつも注文を受ける。
「ホットコーヒーをお願いします。瑞貴ちゃんは何かいる?」
呼び止める時に笑っていたから、多少は機嫌が良くなったかと思ったけど甘かった。
実際は新たな恐怖を植えつけられただけ。
「わ、私はなにもいりません」
「そう?震えてるけど大丈夫?ホットコーヒーでも頼んだら?今日は俺のおごりだし遠慮しないでいいよ」
あくまで先輩は笑顔のままで、細められた目が何を考えているか読めない。
「ほんとうに大丈夫です」
「そう。じゃあ注文は以上で。あとよかったらおしぼりかタオルください。うっかりこぼしちゃって」
どう見ても事故でこぼれたようには見えない。
ウエイトレスは注文を受け取るとそそくさとその場を後にした。
俺もその後に続きたい。
「瑞貴ちゃんは四月から玄博高校に行くんだよね?」
「はい。そうですけど……?」
確かに俺は先輩と違う高校に進学する。
先輩の通う高校は遠すぎるから。
「俺の探している娘がそこに通ってるかもしれないんだ。だから“一ヶ月以内”で探してくれる?」
無理だって断りたい。
あの学校は実力至上主義だし、全生徒で四百人以上いる。
本当に通っているかもわからない人を探すなんて、無理だと思う。
でもそんなことは先輩にとって関係ないらしい。
「瑞貴ちゃんならやってくれるよね?」
湯気の立つホットコーヒー入りのカップを持ち上げられながらいわれては、拒否なんてできない。
「……はい。わかりました」
そう答えるのがやっとだった。
「ありがとう、瑞貴ちゃん。これからもよろしくね」
先輩は満足そうに笑って、コーヒーに口をつけた。
筧寛。
それが白藤高校の頂点で校内外から『狂皇』と恐れられている先輩の名前だ。
Q.主人公(?)高槻憩の第一印象は?
椎葉日向「大人しそうな人やと思った」
Q.主人公(?)高槻憩の現在の印象は?
椎葉日向「そんなに話しちょらんからよく分からんけど面白い人やと思っちょるよ。おじい(怖い)やつらと知り合いみたいやけどどんなきっかけなんやっちゃっろうか?自由のことでおじいって思ったかも知れんちゃけど、これからも仲良くしほしいとよ」




